5 チリパー!vsお浜ばあさん!

 


 今回も、【ひなっち!!!】さんからご提供いただいたエピソードをベースに脚色しています。


 ひなっち!!!さん、ありがとう♪


 人の迷惑を顧みない暴走チャリは、絶対に許さない!






 季節は夏。お浜さんは、只今山手線の旅に出掛ける支度中。


 姿見の前で、ファッションチェックに余念がない。


 ピンクのリボンがチャームポイントの麦藁帽子に、ユニ○ロのピンクのTシャツにブルージーン。ピンクのリュックサックとアンブレラステッキは相変わらずだ。


「準備オッケー。あんた行って来るよ」


 いつものように亡き夫の写真に話し掛けると、手を合わせてニッとした。



 駅前の商店街に来た時の事。前を歩いていた親子連れと電動車椅子のおじいさんの間を、一台のチャリが猛スピードで通り過ぎた。


「危ないな。ッタク」


 お浜さんが眉間に皺を寄せて呟いた。


 すると、


「退きなさいよっ!邪魔よっ!」


 チャリに乗ったチリチリパーマのおばさんがわざわざ振り返り、その親子連れに怒鳴った。


 母親は男の子を守るようにそばに寄せて、怖がっている様子だった。


 車椅子のおじいさんも唖然あぜんとしていた。


 頭に来たお浜さん、健脚を活かしてチャリを追うと、アンブレラステッキの柄をチャリの後部カゴに引っ掛けて、その優れた握力でチャリを止めた。(笑)腰は曲がっているが、脚力と握力には自信があるようだ。


キィーッ!


 突然止まった我がチャリを不思議そうに見回す、チリパー。


「おいっ、チリパー、降りろ!」


「チリパーって、誰のことよ?」


「チリパーと言や、あんた以外に、この世におらん」


「何よ!自転車から退きなさいよ、ばあさん」


 チリパーVSお浜ばあさんの騒ぎに、野次馬が集まって来た。


「チャリから降りろ、チリパー。降りないと警察呼ぶぞ。道交法どうこうほう違反で」


「エーッ!」


 “警察”と“道交法違反”に反応してか、渋々と降りた。


「この親子とおじいさんに謝れ」


「……なんでよ」


「なんでよだと?道路交通法も知らんでチャリ乗ってんのか、チリパー」


「……交通法って、何よ」


「自転車も軽車両扱いになるんじゃ。人の多い通りでは、徐行か自転車を押すのがマナーじゃろ」


「こっちだって急いでんのよ」


「急いでんのはチリパーだけじゃないわい。わしだって、午後の山手線でティータイムの予定じゃったのに、正義感が邪魔をしたんじゃ」


「どうでもいいから、その杖を退けてよ」


「いやいや、親子とおじいさんに謝るまで退かん」


「ったく。どうもすいませんでしたねっ」


 不貞腐ふてくされた様子で、親子とおじいさんをチラッと見た。


「それじゃ、謝ったことにならんじゃろが。ババチャリから降りて、ちゃんと謝らんかい」


「ったく、もう」


 チリパーは面倒臭げにチャリから降りると、親子の前にスカスカと歩み寄り、


「すいませんでした」


 と頭を下げた。男の子は今にも泣きそうだったが、母親は会釈をした。


「坊やにも謝らにゃ」


 お浜さんがさとした。


「……坊や、ゴメンね」


 チリパーがニーッとした。その表情が怖かったのか、男の子は母親の後ろに隠れた。


「おじいさんにもじゃ」


「どうもすいません」


 チリパーが車椅子のおじいさんに頭を下げた。


「わしゃ、心臓が止まるかと思った。自転車は凶器じゃな。ケガせんで良かったわい。けど、あんまり長生きするもんじゃないのう。やれやれ」


 おじいさんはそう言って、去って行った。


「この親子にケガでもあったら、あんた、傷害罪で逮捕されるとこじゃったんだじょ。チリパー」


「……」


 チリパーはしょげてしまい、借りて来た猫のように大人しくなっていた。


「あんたがこの親子の立場だったら、どうじゃ?子供がケガでも負ったら、暴走チャリを許せないだろ?」


 チリパーはゆっくりとうなずいた。


「とにかく、ケガがなくて何よりじゃ。もう二度と暴走チャリはめなよ」


「ええ」


「じゃ、握手だ」


 お浜さんはそう言って、チリパーと母親の手を取り、握手をさせた。


「……どうも、すいませんでした」


 チリパーが深々と頭を下げた。


「ケガとかなかったんで、大丈夫です」


 母親は、笑顔で答えた。


「坊や、ゴメンね」


 チリパーがそう言うと、男の子は頷いた。


「さて、午後のティータイムに急ぐぞ。それ行けっ!」


 お浜さんはそう言うと、忍者のように走り去った。


「ありがとうございましたーっ!」


 母親の大きな声が、商店街にとどろいていた。

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