箸休め マーベラスなクモ! ⑦クモの毒で死んだ日本人はいない!?

 文末に今回の「まとめ」を掲載しています。

 お時間のない方は、一番下まで画面をスクロールさせて下さい。


 ペニーワイズはNGだけど、ペニー・パーカーには来て欲しいと思った今回のシリーズ。

 前回は外見のせいでぎぬを掛けられ、外国の人々に恐れられたクモを紹介しました。


 ◇日本のクモは安全?


 外見以外に害がないのは、日本に棲むクモも一緒です。


 在来種ざいらいしゅのクモの多くは、人間をおびやかすような毒を持っていません。

 最近話題のセアカゴケグモは、外国から侵入したしゅです。


 ただし「多く」と言った通り、危険なクモがいないわけではありません。


 特に注意すべきなのが、フクログモのカバキコマチグモです。


 ◇カバキコマチグモのアレコレ


 彼等は小さなクモで、体長は1㌢程度しかありません。


 身体は黄色っぽいですが、鋏角きょうかく(牙)だけは真っ黒になっています。

 またサイズの割に鋏角きょうかく(牙)が大きく、非常に目立つのが特徴です。


 フクログモは中規模のグループで、2020年までに約700種ほど確認されています。

 名前の通り、草や木の葉っぱで袋状の巣を作るのが特徴です。


 カバキコマチグモもイネの植物を折り曲げ、巣を作ります。

 特に卵を産む際には丁寧に葉っぱを巻き、「ちまき」状の巣を作ることで有名です。


 ただ彼等の生態に関しては、資料によって異なる説明がされています。

 今回非常に困ったのですが、書いてあることが一致しません。


 ◇資料によって説明が違う!?


 ある資料には、「巣を作るのはメスだけ」と書かれています。

 しかし別の資料を見ても、「オスは巣を作らない」と言った記述はありません。


 また「巣を作るのは、卵を産む時だけ」と説明しているケースも存在します。

 反面、「脱皮や狩りと言った目的に合わせ、何度も巣を作る」と説明している本もあります。


 結構、分厚い図鑑も読んでみたのですが、真実はやぶなかです。

 そうこうしている内に新型コロナの影響で、図書館も本屋さんも閉まってしまいました。


 そこで今回は、書いてあったことを全部載せることにしました。


 正確な情報をお届け出来なかったことを、心からお詫びします。

 本当に申しわけありません。


 ◇子供が母親を食べてしまう!


 カバキコマチグモは徘徊するタイプのクモで、夜中に昆虫や小動物を捕食します。

 一方、昼間は巣に潜み、狩りの時間が来るのをじっと待っています。


 産卵が行われるのも、巣の中です。


 メスは夏に100個ほど卵を産み、孵化するまでの約10日間守り続けます。

 そして子供が一回目の脱皮を終えると、生涯に幕を閉じます。


「生涯に幕を閉じる」と言っても、自然に死んでしまうわけではありません。


 献身的に守った子供に襲われ、「喰い殺されて」しまうのです。


 食べられている間、母親は一切抵抗をしません。

 子グモも躊躇なく母親をたいらげ、巣の外に旅立っていきます。


 何とも無情な話ですが、有効な戦略であることは間違いありません。

 少しでも栄養を与え、体力を付けさせたほうが、子供の生存率は高くなるでしょう。


 ◇猛毒なのに、どこにでもいる!


 ここまで紹介した通り、カバキコマチグモは色々と変わった習性を持っています。

 そのため、レアな気がしてしまいますが、実際は非常にありふれたクモです。


 彼等は北海道、九州、四国と、ほぼ日本全域に棲んでいます。

 棲んでいる場所も草地や河原、林と幅広く、割と簡単に出会うことが可能です。


 ススキやアシなどイネの植物が生える場所なら、どこにでもいると言っていいでしょう。


 ◇割と被害にうことが多い


 河原を散歩している時や草刈りの最中に、彼等と遭遇する可能性は否定出来ません。


 輪を掛けて悪いことに、カバキコマチグモの巣は非常に興味を引きます。

 原っぱに出来た「ちまき」を見て、不用意に手を伸ばしてしまう人は少なくありません。


 多くの生物がそうであるように、卵を守っている時のメスは気が立っています。

 大切な巣に触ったら、まず間違いなく咬まれるでしょう。


 ◇メスよりオスのほうが危ない?


 更に五月から八月の繁殖期には、メスを探すオスが徘徊します。

 人家に入り込むこともあり、咬まれる人が続出します。


 どちらかと言うと、こちらのパターンのほうが多いようです。

 また彼等が活動する時間の関係上、夜のほうが被害にいやすい傾向にあります。


 ◇カバキコマチグモは猛毒の持ち主!


 不幸なことに、カバキコマチグモは人間に効く毒を持っています。


 しかも元々日本に棲むクモの中で、最も毒性が強いのが彼等です。

 よりにもよって咬まれやすいクモが猛毒だなんて、神様の悪意を感じずにはいられません。


 彼等に咬まれると、針でえぐられたような激痛が走ります。


 熱さも感じるようで、被害者は「焼けた火箸ひばしで刺されたようだった」と形容しています。

 その後、傷口が赤く腫れ上がるのですが、この症状は広範囲に及ぶこともあるようです。


 実際、指を咬まれただけなのに、肘まで腫れてしまった方もいます。

 また被害者の中には、痺れを訴える方もいるようです。


 症状が重くなると、頭痛や発熱に襲われます。

 吐き気を覚え、嘔吐することも珍しくありません。


 ただし2020年現在、カバキコマチグモに咬まれて亡くなった方はいません。


 適切な治療を受ければ、二、三日程度で症状が治まります。

 ただ部分的な痛みや痺れは、二週間も残る場合があるようです。


 ◇クモに咬まれて死んだ日本人はいない!?


 最初に言った通り、カバキコマチグモは小さなクモです。


 毒自体は強力なのですが、一度に注がれる量は多くありません。

 身体の大きな人間が咬まれても、死に至る可能性は低いでしょう。


 と言うか、国内に住む他の毒グモも、人間の命を奪ってはいないかも知れません。


 このシリーズを書くにあたって、作者は日本に棲む毒グモを調べました。


 今回、被害者の証言を書いたように、咬まれたと言う話はよく見付かります。

 その反面、国内で死者が出たと言う記録は発見出来ませんでした(外国にはあります)。


 外国から来たタランチュラやセアカゴケグモも、結果は一緒です。

「記録が残っている範囲で」と言う条件は付きますが、日本にクモの毒で死んだ人はいないようです。


 ◇油断は禁物!


 ただしクモの毒は、危険なアレルギー反応を起こすことがあります。


 また病気の方や子供、お年寄りの場合は、毒の影響を強く受ける可能性が考えられます。

 誰も死んでないからと言って、毒グモに触れるのは絶対に避けるべきです。

 万が一、咬まれてしまった場合は、すぐ病院に行って下さい。


 ◇最近、猛毒があることが分かったクモ――イトグモ――


 最近ではイトグモが、強い毒を持っていることが判明しました。


 彼等は薄暗い場所を好むクモで、ほぼ日本全域に棲息しています。

 家の中に巣を作ることもあるので、気を付けたほうがいいかも知れません。


 またイトグモは夜になると、エサを探して徘徊する習性を持っています。

 夜に見慣れないクモを見付けても、うかつに手を出さないほうがいいでしょう。


 ◇シメのひとこと(飛ばして頂いても大丈夫です)


 さて7回にも渡ってお届けしたクモシリーズ、お楽しみ頂けたでしょうか。


 本当は糸や巣の話もしたかったのですが、長くなりすぎたので打ち切りました。

 ただ、絶対やりたかった書肺しょはいの話は出来たので、個人的には満足しています。


 クモの話はおしまいですが、別の鋏角類きょうかくるいは今後のシリーズに登場します。

 気長にお待ち頂ければ幸いです。


 ◇今回のまとめ


 ☆カバキコマチグモは、日本に棲むクモの中で最強の毒を持っている。


 ☆カバキコマチグモのぞくするフクログモは、現在までに700種ほど確認されている。


 ☆「フクロ」グモの多くは、袋状にした葉っぱに棲んでいる。


 ☆カバキコマチグモもイネの植物を折り曲げて、巣を作る。


 ☆巣を作るのはメスだけと言う説もあるが、真偽は不明。また「卵を産む時しか巣を作らない」と書いてある資料もあった。


 ☆カバキコマチグモの産卵は、巣の中で行われる。卵の数は約100個で、孵化するまでには10日くらい掛かる。


 ☆カバキコマチグモの子供は、母親を食べてしまう。


 ☆五月から八月の繁殖期になると、カバキコマチグモのオスが人家に侵入する。そのため、咬まれる人が多くなる。特にカバキコマチグモが活動する夜間は、注意が必要。


 ☆カバキコマチグモに咬まれると、焼けるような激痛が走る。更に傷口が赤く腫れ上がり、場合によっては痺れも感じる。症状が重い人は、頭痛や発熱、吐き気に襲われる。


 ☆2020年現在、カバキコマチグモに咬まれて亡くなった人はいない。適切な治療を受ければ、二、三日で症状が治まる。


 ☆2020年現在、日本にクモの毒で死んだ人はいない(かも知れない)。ただしクモの毒は、危険なアレルギー反応を起こす場合がある。毒グモに触るのは自殺行為。


 ☆最近、ほぼ日本全域に棲むイトグモも、強い毒を持っていることが判明した。


 ◇参考資料


 クモ学 摩訶不思議な八本足の世界

 小野展嗣著 東海大学出版会著


 節足動物ビジュアルガイド タランチュラ&サソリ

 相原和久・秋山智隆著 (株)誠文堂新光社刊


 猛毒生物最恐50

 コブラやタランチュラより強い毒を持つ生きものは?

 今泉忠明著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊


 図解 身近にあふれる「危険な生物」が3時間でわかる本

 西海太介著 明日香出版社刊


 クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて

 馬場友希著 一般社団法人 家の光協会刊


 新装版 野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物

 羽根田治著 (株)山と渓谷社刊

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