20 捜査続行④

 私たちは、13号室で捜査状況について話し合った。

「香崎、磯田、これまでのところ、何かあるか?」

「私は特にないですねー。小春はどう?」

「んー……。係長、私はコンパニオンという言葉を使ったことが、何か不自然な感じがするのですが」

「例えば、どういうことだ?」

「えー、なんかこう、昭和テイストな感じがしますし――」

「いや、そんなことないぞ。今でも普通に使われてる」

「そうですか。私には、神田正雄が吉村にショートメールを送ったとは考えにくいですね。むしろ、元々コンパニオンがどうのこうの話していたのは熊田と吉村ですから、その二人が、いや熊田がショートメールを送ったとは考えられないでしょうか」

「うーん、その理由は?」

「理由ですか……、二人がコンパニオンという言葉を言い出したからです。どうしても神田正雄がそんな言葉を使うようには見えなくて」

「小春、それって単なる勘でしょ」

「ええ、まあ……」

「よし、じゃあ、誰かが神田正雄の携帯電話を持ち去った。その線で行こう。女将が言ってた、口論中に来たホラー映画研究会の沖引に、一応当たってみるか?」

「沖引さんってー、係長、たしか、金髪でロン毛の人って女将さんが言ってましたよねー」

 この時、京子の言ったことを聞いて突如、私は自分の記憶の中にあるおかしなことに気がついた。

「あっ! 係長、映画研究会のメンバー全員に、室内を捜索するために部屋の外に出てもらった時ですが、その時、金髪でロン毛の男性は部屋の外にはいなかったはずです」

「えーー、小春、どういうこと?」

「京子が叫び声を上げて外に出てきた時、メンバーが数人、25号室に入って行きましたよね。それから私も25号室へ入りました。その時には、金髪でロン毛の男性は部屋の中にいました」

「えーっ、どういうことよーー」

「香崎、つまり、沖引は、始めから25号室の中にいたってことか」

「ええそうです、係長。押入れの中に沖引が隠れていたんですよ。それを京子が目撃して、幽霊と勘違いした」

「なるほど、だとすると、隠れていた理由は携帯電話か」

「係長、行きましょう」

 私たちは、ホラー映画研究会のメンバーに話を聞きに行った。


 再びメンバー全員に廊下に集まってもらった。

「沖引さん、私たちが室内を捜索するために、メンバー全員に廊下に待機してもらいましたが、あなた、その時その場にいませんでしたよね。25号室の押入れの中に隠れていたんじゃないですか? 磯田刑事は押入れの中に誰かがいるのを見て、悲鳴を上げた。そして他のメンバーが数人部屋に入って、あなたは何食わぬ顔でその中に紛れた。そうですよね。全員室外に集まってもらった時には、金髪でロン毛の人はいなかったはずです」

 沖引と数名のメンバーの態度が硬くなった。

「メンバー16名全員が部屋の外に出たことをわれわれは確認していなかったが、君のような目立つ金髪の人間がその場にいなかったことは、私もはっきりと覚えている」

 係長が言うと、沖引の目が泳ぎだした。

「君が隠れていた押入れの中から、神田正雄さんの携帯電話が見つかった。どういうことだ?」

 係長が詰め寄った。

「……あー、……はい、押入れに、まあ、隠れてました」

 沖引はどぎまぎしながら認めた。

「それで、あの時、25号室に駆け込んだのは誰ですか?」

 二、三人のメンバーがお互いに顔を見合わせた。

「俺です」

「それと僕もです」

「俺も」

 私が訊くと、三人の男が手を上げた。

「じゃあ、君ら四人は13号室に来てくれ。話を聞かせてもらう」

 私たちは13号室へ向かった。

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