19 捜査続行③

 とりあえず私たちは13号室へ戻った。主人の神田正雄の行動におかしな点は見当たらなかった。そこで、携帯を紛失した経緯を詳しく知るために、女将の神田久子を呼び出した。

「女将さん、ご主人と口論になったとおっしゃってましたが、その時のことについてくわしくお聞かせ願えますか?」

「はい。あの時はたしか、ええっと、私は大浴場と遊技場の辺りを見て回ってました。その時、ロビーで主人が、亡くなられた熊田さんと吉村さんと話をしていたようでした。お二人が去って、そして、岡倉さんが来られて、主人と話していました。そして、私がロビーの掃除をするふりをして二人の近くに行くと、岡倉さんが『コンパニオンがどうのこうの……』、それから、『いくら払えますか? 露天風呂に入る』、というようなことを主人に話していました。それで私、主人が浮気をしているのかもと思い、携帯電話を見せてほしいと言って、口論になりました」

「コンパニオンですか……。ナナミいう名前に聞き覚えはありませんか?」

「……いえ、聞いたことがありません」


 次に、主人の神田正雄を呼び出した。

「ご主人、女将さんから口論になった経緯を聞きました。あなた、熊田さんと吉村さんと何か話をされていたのですか?」

「ええ、はい。お二人から、この旅館、コンパニオンを呼べないのかと尋ねられました」

「コンパニオン――」

「ええ。お二人は岡倉さんのことをコンパニオンだと言っていた気がするのですが……」

「それで?」

「ええ、うちの旅館はコンパニオン派遣会社と取引はしてないと、お二人に伝えました。そうしたらお二人はその場を離れられました」

「なるほど」

「そして、岡倉さんが来られました。岡倉さんは『私、あの二人からコンパニオンだと思われてるみたいだけど、そう見えますか?』と私に訊いてきました」

「それで?」

「それで、私は、『セクシーだから、そう思われたんですよ』と言いました。そしたら、岡倉さんが『私がコンパニオンだったら、いくら払って呼びますか? 魅力的だと思われてるんだったら、露天風呂に入ろうかな』とおっしゃいました」

「そうですか。ナナミという名前について、何かご存知ですか?」

「いえ、全く心当たりがありません」


 岡倉君子を呼び出した。

「ええ、そうです。今刑事さんが言ったことで合ってます。亡くなったお二人が、私のことをコンパニオンだと勘違いしていたようでしたので、私が、人をからかうみたいなことをご主人に尋ねてしまいました」

「なるほど。ナナミという名前について、何か知っていませんか?」

「ナナミですか……。いえ、まったく知りません」


 女将の神田久子にもう一度来てもらった。

「そうですか。そういう理由が。だったら、私の勘違いだったんですね。それはそれで良かったのですが、でもどうして主人の携帯が25号室で……」

「それについてはまだこれから捜査しなければなりません」


 主人も女将も岡倉君子も、供述に不自然な点はなかった。

 ただ、私はこの時、コンパニオンという昭和の響きのある言葉に違和感を感じていた。

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