バットエンドな最高の夢
伊勢燈雅
バットエンドな最高の夢
これは、実際に俺が見た、夢である。
半分ノンフィクション、そしてもう半分はフィクションだ。
俺は世界がコロナウイルスと戦っている中、睡魔と戦っていた。
危険ですので家から、不要不急の外出はお控えください。という知らせが来て、挙句の果てには、緊急事態宣言までもが、出てしまった。もしかしたら、それも、延長するかもしれないと言う。
このような感じで世間はコロナの話で持ち切りだ。
コロナのせいで仕事が無くなる人も出てきて、様々な負の連鎖が起きようとしていたが、緊急事態宣言が出た時、俺はこれ以上ないくらいに嬉しかった。
なぜなら、俺は学生だ。
毎日部活の地獄のような日々、それが一か月も休み?言葉が出なかった。
休みの間は趣味の筋トレなどをして、毎日まったりゆっくり過ごせるのではないかと期待をしていた。
だが、この時の事を今考えると、脳内がお花で満ち満ちていたのではないかと思う。
この時の俺に伝えたい。
過度なまったりゆっくり生活はたとえ筋トレをしていても、すごくつらいぞ。と。
はっきり言うと、
暇
だ。
はっきり言わずとも、
暇
だ。
そんな感じでやりたいことはもはや筋トレだけになり、学校の課題などをおわらせたら、
俺は「夢の中に逃避行した。」
夢というものははっきり覚えていないことがほとんどだと思うが、この夢は鮮明に覚えている。
ある日、俺は訳も分からず一人旅行をしていた。
謎の山道をただひたすらに何も考えずに歩いていた。山道にひとけは全くなく、道の周りは大きな木に囲まれていた。
なぜこの道を歩いているのかもわからない。だが、足が勝手に前へ進んでいったので、それに身を任せた。
来た道よりもさらに木は大きいものなり、森の中に迷い込んでしまったような錯覚に陥るようになってきた時、前を見るといきなり老舗旅館のようなものが見えて来た。そして、何かに押し流されていっているかのように、その旅館へ入った。
中へ入ると、それは旅館ではなく銭湯だということがわかった。
なぜか、カウンターようなものはなく、お金も渡さず、風呂へ向かった。
何の違和感もなく暖簾をくぐりぬけて、脱衣所へ入った。
脱衣所にも風呂の熱気が伝わってきて少しぬくもりを感じることができた。
服を脱いだ。
ふと、体を洗うための物が無いと思った瞬間、先ほどまで何も持っていなかった左手にタオルの感触を感じた。この時は、まさか銭湯にいることや、その他
諸々が夢だと思っている訳ではないので、すごいことが起こる日だと思っている程度だった。
風呂場へ行くと、中はかなり広かった。しかし、窓や換気扇などが無いせいか、どれくらいの人がいるのかは、鮮明には見えなかった。だが、何人かの人はいるような話声は聞こえて来た。
まず、浴槽へ入る前のマナーとして、体を一通り洗い、頭にタオルをのせ向かった。
風呂場の構造として、手前に体を洗う場所が並んでおり、その奥に大きな浴槽が一つあるようだった。
奥へ進んでいくと、これまでくもって見えていなかったものがたくさん見えて来た。
一際、目を引いたのは、壁の奥一面に描かれた富士山だった。かなり年期がはいっていて、ところどころ剥げてはいたが、それは迫力のあるものだった。
最初は富士の貫禄のようなものに心を奪われ、浴槽の前で立って眺めていた。充分その絵を堪能したあたりで、浴槽へ入ろうとした時、俺は浴槽の中に凄い違和感を感じた。
浴槽の中には、常連のようなおじさん方が何人かいる中、端の方に自分と同じくらい歳の若い女の人がいたのだ。
その女の人は、髪の毛が少し茶色がかっていて、お風呂のなので、もちろんすっぴんのようだったが、化粧をしたら、綺麗というよりは可愛い感じの顔つきをしていた。
俺は、特別不細工な顔ではなかったが、その女の人は自分にとって少し高根の花感がぬぐえなかったので、少し距離をとって浴槽へ入った。
入ってから数分がたち、良い気持ちになってきたあたりで、その女の人に自分が呼ばれている事に気が付いた。だが、そんなはずはないと自分の中で勝手に決め込み、酷い幻聴もあるものだと耳を疑っていたのだが、遂にはその女の人が寄って来た。
「ちょっと君、さっきから呼んでるのに、酷いじゃないか。」
心の中でやっぱりな、と思いここは気付いていなかったふりでもしようかと思った。
「あ、すいません。全然気づきませんでした。」
「あ、そう?ならしょうがないわね。で君、どこから来たの?こんなところよく知ってたわね。」
この質問に関しては、聞かれたのは覚えているが、何と回答したかは、全く覚えていなかった。
その後は、その女の人が自分より二つ上のお姉さんであること、ここにはよく来ること、大学は凄くいい所と言うことなど、他愛もない話を延々とした。
なぜか、そのお姉さんの名前だけは全く思い出せない。
風呂にのぼせそうになった俺は、お姉さんより、先に出る事にした。
出る前にお姉さんは、何の違和感もないまっさらな表情で、呼吸するように言った。
「私、少し君のことが好きになったよ。よかったら、上がったら外の席で待っててくれないかな?連絡先でも交換しない?」
これは来たと思った。こんな可愛い人に好きだなんて、しかも連絡先も交換できるときた。こんな最高なことはないと思った。
「じゃあ、席で待ってます。」
少し、視界はぼやけて、足が地についていないような感覚だったが、そんなことよりも、嬉しさがまして、早く出てこないかな、などと考えていた。
脱衣所で着替え終わると、いつも買っている安い牛乳ではなく、奮発して大き目の高いのを買って、席に着いた。
席に座って、いつもよりおいしい牛乳を飲んで、凄くいい気分でいると、突然大きな地震に襲われた。
震度五くらいのかなり大きな地震だった。
それが収まり、何だったんだろうな、と思っていると、風呂の方で、凄く大きな音が鳴った。何か凄く大きなもが落ちて来たかのような・・・
席に座っていた俺も流石に気になって音の鳴った所へ行ってみると、浴槽の上の天井が丸ごと落ちていた。一人その下敷きになったと、さっき一緒に入ったおじさんの集団が言っている事に気が付いた。
「まさかね」
本当に苦笑いでそんなことを言っていると。
「あ、君さっき話してた子だよね?」
一人のおじさんに声を掛けられた。
「あのお姉さんが下敷きになったんですか?」
「そうだよ、知り合い?」
「いえ、さっき初めてあったんです。」
「いやでも、凄い可哀そうだなー」
俺はそこから、走り去った。
何も考えたくなかったが、もしかしたらあのお姉さんともっと仲良くなれたかもと思うと言葉がでてこなかった。
俺はその銭湯からの帰り道、凄く久しぶりに泣いた。
起きると、目から涙がこぼれ落ちた。
夢だと気が付いた瞬間、少しこの想いは安堵に代わったが、後味は異常なほどに悪かった。
バットエンドな最高の夢 伊勢燈雅 @jayokawa1028
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