ヒールですか? いいえ、ロールバックです~ヒールしかできない僕、実はユニークスキル持ちだったので敵を翻弄します~

南雲麗

第1話 僕、ダンジョンにてオトリにされる

「じゃあなラゼル! お前はそこで俺たちのために頑張ってくれ! 生きて帰れたらまた会おう!」

「だ、だましたな! 報酬もウソか!」

「そういうことだ。なんでヒールしかできない奴にマトモな報酬をやらないといけないんだ? こうしてオトリにするのが、有効活用なんだよ!」


 とあるダンジョンの奥深く。

 モンスターラッシュの罠を踏まされた僕は、リーダーのダンに抗議していた。

 ちくしょう、最初からこうするつもりだったのか。


「お前がそこで粘れば粘るほど、俺たちは攻略が楽になるってわけだ!」 

「まさか難関のモンスターラッシュに、こんな回避方法があるなんてな!」

「ダン、お前は天才だぜ!」

「ダンすごい! 抱いて!」


 出入り口に立ちはだかるダンが僕をあざ笑い、他のメンバーも声を合わせる。

 僕は奥歯を噛んだ。目の前の連中を呪い、自分を呪った。

 冒険者になって二年、思えばいつもこうだった。


 最初のパーティーで頑張りすぎてぶっ倒れた。

 ヒールしかできないから、どこのパーティーでも回復役でこき使われた。

 そのくせマトモな報酬はほとんどもらえず、傭兵のようにポイ捨てされた。


「じゃあな! 俺たちはビッグになってくるぜ!」


 ダンとパーティーが扉の向こうへ去っていく。

 このダンジョンは、冒険者の間で一種の目標になっていた。

 道中にモンスターが多く、パーティーの力が試されるからである。


 ダンのパーティーは決して弱くない。だが回復が少々心もとないように感じた。

 だからこそ、僕が雇われたと思ったのに。

 奴らが考えていたのは、攻略を楽にすることだけだったのだ!


 しかしそんな嘆きをよそに、絶望は壁をぶち破って現れた。


「GARUUUUUUUUU!!!」


 出入り口以外の三方向から、モンスターがあふれ出す。

 ワーウルフ、フェンリル、キメラにゴーレム。多種多量のモンスターたち。

 僕の力量ではとても敵わない。なぶり殺され、ダンジョンのシミになるだけだ。


 でも死にたくはない。

 僕をこき使った連中を、ダンのパーティーを見返してやりたい。


 そう思うと、剣を持つ手に力が入った。

 護身用の短い両刃の剣が、魔力を帯びてほのかに光る。


 防具を付けてはいるが、皮の鎧に皮の兜だ。一応でしかない。

 あまりに稼げないので、生活のために売り払ってしまったのだ。

 つまり攻め込んでいくしかない。切って切って、道を切り開くしかないのだ。


「あああああああああ!」


 ヤケクソじみた声を上げ、僕は目の前に迫るワーウルフへと突っ込んだ。

 魔力で身体能力を強化し、爪をかわして肌を斬る。

 それでワーウルフは一歩引く。だが、別のモンスターが背後から殴りつけてくる。

 重い一撃は、ゴーレムのものだった。


「ヒール!」


 吹っ飛ばされそうになりながら、僕は唯一のスキルで自分を癒す。

 傷が消えて、体力が戻る。

 でもそれだけだ。相手に物理的な傷を与えないと、どうにもならない。


「ちくしょう……!」


 二重三重に押し潰してくるモンスターの群れ。

 前後左右の道が、どんどん塞がれていく。

 身体のどこかで、プツンと音がした。


「ちくしょう! ヒールしかできないからって、ちくしょう! ヒール!」


 敵に向かってヒールをぶつける。完全に無意味な行為だ。

 ヤケクソだった。もうどうにでもなれという気分だった。

 なのに、奇跡は起きた。


「BUGYA!」

「GYO?」


 遠くのモンスターが、壁に潰されていた。

 僕に近づいていたはずのフェンリルが、数歩遠ざかっていた。


「AAAAA!」


 キメラのライオンヘッドが襲いかかる。飛び退く。飛び退いた先にはゴーレム。

 なにが起きたかは分からない。でも、もしかしたら。


「ヒール!」

「GUOOOO!」

「GUGEEEEEEEE!」


 ゴーレムが遠ざかり、またモンスターが壁のシミになった。


「ヒール! ヒール、ヒール、ヒール!」


 もうめちゃくちゃだった。

 生き汚くヒールを続け、そのたびにモンスターが悲鳴を上げた。

 だけど魔力は尽きていく。とてもモンスターを滅ぼせそうにない。


「やっぱりダメか……」


 僕はうなだれる。

 ヒールがよくわからない効果を発揮してさえも、僕の力には限界があった。

 四方八方を囲まれ、キメラの蛇の尾が僕を睨みつけていた。

 その時だった。


「そこに誰かがいるならしゃがめ!」


 女性の声だった。反射的に僕はしゃがんだ。

 次の瞬間、僕の頭上を斬撃が通過していった!


「GYUGEEEEEEEE!!!!!」


 モンスターたちの首が飛ばされ、重苦しい悲鳴が響く!


「避けな!」


 次の声に僕が四つん這いで動くと、元いた場所へ火球が着弾!

 燃え広がって、モンスターたちを混乱させた!


「こっちだ!」


 飛び込んできたのは黒髪ポニーテール、軽装の女戦士。手には刀、ギラつく目。

 狂戦士バーサーカーを思わせる姿に、ちょっと踏みとどまるけど。


「はいぃ!」


 生き残る手は、これしかない。

 僕は夢中で、彼女の手をとった。

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