第307話「世界一周を達成!」
港についた俺達は、船員の一人に至るまで高価なオープン馬車に担ぎ上げられると、まるで凱旋将軍のような扱いを受けている。
俺は、船から下りたと思えば、いきなりオープン馬車にワッショイワッショイと乗せられて。
突然始まったパレードに「まるで神輿だな」と苦笑しながら、街の住人に手を振る。
まずは船員に休息を取らせるべきだろう。
なにせ、半年以上にも渡る長旅だった。
魔法陣を使えばいつでも王宮に帰還できる状況だったとはいえ、船員たちの疲れは大きい。
「まずは、みんなをねぎらってやらんとな」
俺がそう言うと、功労者の一人であるメアリード提督は笑っていう。
「宴会の準備は、しなくてもいいようだ」
ナントの街では、ところどころで「祝・シレジエの勇者様世界一周!」の垂れ幕が飾られて、すでに街を上げての大宴会状態になっている。
シレジエ王国の民は、すっかりお祭り好きになってしまった。
パーティーなどしなくても、街中がパーティー会場のようなものだ。
街の住人に歓迎された船員達は、長旅の疲れも吹き飛んだのか、飲み屋に繰り出して大騒ぎしている。
ナントは港街なので、金払いのいい船乗りはモテる。
世界一周を達成した船員は、街にいけば英雄扱いだ。
苦労して偉業を成し遂げたのだから、しばらくは羽目を外すのもいいだろう。
「世界一周、ついにやっちゃったなあ」
絶対、世界はつながっていて一周できると思っていたが、こういうのはやってみないとわからないものだ。
地球の歴史で初めて世界一周達成したマゼランとは、逆向きの航路なのが面白い。
俺は、メリアード提督と一緒に、今回完成した世界地図を見る。
地図にはまだ、ぽっかりと空いている場所もかなりある。
ニコラウスがアビス大陸で発見した、時空の裂け目というのもあった。
シア大陸(アジアに相当する)の内部や、オーストラリアのあたりは情報が入ってこない未開地だ。
この世界には、まだまだ謎が多い。
まだまだ、北極にも南極にも行ってない。
南極の端は、アビス大陸の南を迂回する時にちらりと見たが、氷河の上にペンギンみたいなのが飛び跳ねてたのが面白かったんだよな。
どんな生物がいるのか、興味は尽きない。
「また航海にいきたいのか?」
ムズムズしている俺の顔を見て、メアリード提督は笑う。
「ま、そりゃ面白いからな」
だが、しばらくはシレジエの王城でじっとしてろと言われるだろうなあ。
「メアリードと、
実は、この長旅でメアリードとシズカのお腹には、俺の子ができているのだ。
二人の子が生まれて、シズカの故郷のヒノモトにもまた行こうという話になったら、次の冒険かもなあ。
「結婚か。陸は退屈しそうだから、さっさと海に戻りたいな」
メアリードは、そんなことを言う。
「おいおい、お披露目は必要だから頼むぞ」
シレジエの国民に認められたほうが、俺の子も幸せになれろうだろうし。
「わかっている。あたしらの子も、アーサマに祝福してほしいしな」
そう言ってくれるのは嬉しいが、お腹がちょっと目立ってきているんだけど。
うーんこのお腹で、ウエディングドレスを着るのか。
また、シャロンに頼んで特注してもらわなきゃならんな。
「ところで、シズカ達はどこにいった?」
「シレジエ王国の建物や石畳が珍しいからって、お付のものと外を見学に行ったそうだぞ」
シズカの黒髪は物珍しく思われるだろうが、ナントの街は国際港になっているので、珍しい人間はたくさんいる。
ヒノモトのお姫様だとは気が付かれないに違いない。
「そうか、じゃあ俺達も一緒に街に繰り出すか」
俺は割と顔が割れてるから、バレないように変装していかないといけない。
「おう、今日はお祭りだもんな。楽しんでいこうぜ」
「頼むから酒は控えてくれよ」
お腹の子にさわってはたいへんだ。
「わかってるって王将心配すんなよ。雰囲気だけ、雰囲気だけ」
「だといいけどな」
まあ、一緒にいて見張っていればいいか。
こうして俺達は、大宴会場と化しているナントの街へと繰り出すのだった。
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