第155話「人物紹介(第二部 五章終了時点)」
元は帝国の属領ラストア氏族の出身だったダイソンは、幼き頃に帝国の侵略戦争で捕らえられて親子ともども奴隷となった。
長じて戦士としての才覚を見せたダイソンは、拳奴隷となり己が拳のみで拳闘士のスター選手にまで伸し上がる。二メーター五十センチを超える人間離れした巨漢は、それだけでオーガーロードに匹敵する威圧感がある。ダイソンには、それに加えて冷徹なる知性、格闘家の素養、敵味方の血に塗れた実戦的な鍛錬があった。
拳闘士は必ずしも相手を殺す必要はないのだが、残忍なダイソンは丸太のように太い拳で、相手を肉の塊に変えるまで殴り続けるので『
その後、人間相手では物足りなくなったダイソンは、猛獣から化物、ついには名状しがたき異形である『古き者』ですら拳のみで打ち砕く最強の拳闘士となった。
拳奴部隊ができたとき、部隊長の一人に選ばれたが、実力でならず者部隊の全てを統括するようになる。他国の侵略と、農民反乱で帝都の帝国軍が統制を失ったと見るや、クーデターを開始。
帝城にいた老皇帝と皇孫女を囚えて、新ゲルマニア帝国の皇帝を僭称する。
容姿はくすんだ短い茶髪を短く切っている、ブラウンの眼がギョロッと大きく、眉間に太い皺が刻まれて恐ろしい形相をしている。
まだ二十代なのだが、威厳がありすぎる身体つきのためにおっさんにしか見えない。皇帝になってからも、拳闘士だったころと一緒のトレーニングパンツに上半身裸という服装のままでゲルマニア皇帝にのみ許された貝紫色のマントを翻し、「身体が大きすぎて、俺に着られる服がない」とうそぶいている。
彼の武装は、帝城の戦いでヘルマンより奪いとった『オリハルコンの手甲』のみである。本来なら全部奪えたところを、「拳奴皇に防具はいらぬ」と豪語したそうだ。
そのような拳闘士上がりのパフォーマンスが、反乱に加わった民や下級兵士には受けていて人望は高い。
ゲルマニア貴族や騎士を嫌う傾向が強く、ダイソンに付き従う将兵は、下士官、下級兵士、雑兵、傭兵上がりが中心である。
雑兵部隊長 マッシブ・ガヤック 二十一歳
ツンツン頭に鉢巻を巻いた、先鋒軍の隊長。拳奴皇帝国軍残党の討伐の任務を受けて村を襲った。
率いている兵士はみんな野盗崩れだが、マッシブは若いなりに下級士官として一年間の訓練を受けていて、乗馬技術も持っていた。
さあこれから下士官でも出世できるチャンスが来たぞというところで、あえなくタケルに撃ち殺される。
運がなかった。
宮廷楽士 ツィター・シャイトホルト 二十四歳
しっとりとした蜂蜜色の長い巻き髪。
宮廷楽士としても選りすぐりの存在であり、生まれつき楽士としての才能を持った彼女は、皇帝に目通りの叶うエリートであった。
皇帝と皇孫女に詩を教えていた経験から声を知っており、囚えられた宮殿の壁の向こう側からその声を聞いた彼女は、
可愛らしい小娘にしか見えないが、瞳に熱い情熱を秘めた楽士。歌も演奏も得意だが、戦闘力は皆無。残念ながら、この世界はどこぞのRPGのように、バードが戦闘に力を発揮したりはしない。
ゲルマニア皇族の救出に成功したのち、安心したのか徐々に天然ボケが悪化していく。性格は年齢よりも子供っぽく、楽士より道化師のほうが向いているかもしれない。
ゲルマニア帝国 皇孫女 エリザベート・ゲルマニア・ゲルマニクス 八歳
老皇帝コンラッドの直系の孫娘。老皇から見ると長男の娘に当たる。フリードの専横がなければ、いずれは帝国を継いでいたのは彼の父親になったことであろう。
青みがかったブロンドを腰まで伸ばしている、金と青のヘテロクロミアの瞳。
コンラッドの血筋は、帝位継承権争いでほとんどがフリードに殺されたが、エリザベートはあまりにも小さい女児であったために、さすがのフリードも殺しきれなかったのであろう。
生まれつき聡明な彼女は、権力争いに荒れ狂う帝宮のなかでひっそりと祖父である老皇帝の影に隠れて、なるべくフリードの眼に止まらないようにしていた。
フリードの死後、混乱する情勢のなかで子供なりに耄碌したコンラッドを守ろうと必死に立ちまわるが、拳奴皇ダイソンに捕まって幽閉されて、無理やり婚約者にされてしまう。
小さな子供ながらも、エリザを擁立しようとした派閥によって帝王教育を受けており、ゲルマニア帝国最後の後継としての気位と強い意志を持っている。
新ゲルマニア帝国 征将軍 ゲモン・バルザック 三十二歳
青モヒカン兜をかぶって、革鎧の上に皮革のマントをまとっている図体の大きい男。ちなみに脱ぐと頭はほとんど禿げているので、兜は絶対に取らない。
元は傭兵の騎兵隊長だった粗野なゲモンは、騎士に密かなあこがれを抱いている。
ゲモンの率いていた軍団は、旧ゲルマニア帝国から給料を払ってもらえずに反乱を起こした。そのまま農民反乱を巻き込んで戦力を拡大する。ゲモンの騎兵隊が反乱の中核になっていたので、幸運にも賊将として成り上がることができた。
ダイソン派に与して、五千にまで膨れ上がった賊軍であったが、姫騎士エレオノラによって討伐されてゲモンもその軍門に下ることとなった。
のちに、改心したゲモンは正統ブリタニア帝国の将軍として、ロイツ村を拠点に農民軍を率いて転戦する。
一軍の将として大将軍マインツに重用されている彼は、その貧相な見た目よりも有能な将軍であり、寝返りを奨励する広告塔としても役に立っているそうだ。
ランクト大司教 シスターマレーア
セピア色の髪と目。リアの着ているシスター服を白銀の宝飾をあしらって豪華にした大司教服に、立派な司教冠を被っている。
ランクトの街で、姫騎士エレオノラと勇者タケルの結婚式を執り行う。
普段は、厳粛な大司教様でユーラ大陸に六人しか居ない大司教の一人であるのだが、彼女も一癖も二癖もあるアーサマ教会関係者の幹部。
タケルに、新しく勇者付きシスターになることを求めて、断られたりしていた。ちなみに、諦めてはいないそうだ。
シレジエ王国 海軍提督 ジャン・ダルラン 四十八歳
モジャモジャの黒髪、熊のように太った赤ら顔の大男、樽のような腹をしている。
コッグ船二隻、水夫二十四名を率いる提督で、陸軍でいえば小隊長にも満たない規模になる。
提督帽はかぶっているものの、水夫と同じ白シャツを着ている風采の上がらない提督。
それなりに経験のある船乗りではあるが、海戦の経験はほとんどない。
輸送船の船長としてなら有能だが、戦闘能力は期待できない。
ブリタニアン同君連合 君主 アーサー・ブリタニアン・アルトリウス 二十五歳
通称『キング』アーサー。
艶のある長い黒髪で黒い顎鬚のある若い士官。白地の海軍服に、金糸の飾りが施された黒いジャケットを着ている。提督帽には、金の王冠をあしらったマークがついている。
アーサー王といえば伝説的な君主だが、こっちのアーサーも負けてはいない。
独立心が旺盛で相争ってたブリタニアンの二島四民族を一つにまとめあげて、ブリタニアン同君連合として統治している。
気性の荒い海の男達が、たった一人の『キング』の旗のもとにまとまっている。このアーサーも、伝説的な君主に負けていない海の上の若きカリスマ。
気持ちのよい無邪気な笑顔を浮かべる君主で、味方として協力してくれれば魔族であろうとも礼を述べるだけの思想の柔軟さを持っている。
強大なカスティリアの無敵艦隊と戦っても、ブリタニアン海軍がなんとか持ちこたえられているのは『キング』がいるからであるといえる。
カスティリアの将軍 コルドバ子爵 セバスティアン・コルドバ・ボルボーン 四十歳
ピンと整ったカイゼル髭の痩せた背の高い男。
フルプレートアーマーを着て、新型戦艦「ガレオン船」一隻を指揮して戦いに身を投じたが、タケルにあっという間に殺られてしまう。
運がなかった。
カスティリア宮廷魔術師 『魅惑』のセレスティナ・セイレーン 二十六歳
特異魔法『
いつも魔除けにしている、
染めているのか地毛なのか、紫色の長い巻き髪。豊満な身体のラインがぴっちりと見える、胸の大きく開いたドレスを着ている。
スカートにはスリットが入っていて、太ももが丸出し。色気ムンムンのお姉さん。
魅惑の呪文は、
どうやら彼女にチャームされると、男は幸せになるようだ。
自治都市アスロ市長、ドグラス・ゾンバルト 三十三歳。
ゲルマニア帝国自治都市連合の議長でもあり、帝国から任命されたスウェー半島全域の総督でもある。
帝国政府崩壊後、食糧不足で困窮する市民を救うために自ら船を出して、食料を手に入れようとするが上手く行かず。
偶然来航したシレジエの勇者に助けを求めて、自治都市アスロをシレジエ王国の保護領とした。
神経質で陰鬱、眉間に深いシワを刻んだ愛想笑いもできない政治家だが、その性格は無私公平で市民のことを第一に考えている人格者。
あまり市民に人気はないが、責任感の強い彼はアスロ市民のことのみを考えて、実直に自治都市の執政を行なっている。
ドット男爵領 民政官 ズール・ドーズ 四十六歳
ゲイルが男爵だったころから、ドット男爵領で地方官僚をやっている民政官。
領主がいないあいだは、代官として領地を切り盛りする。
地元の顔役であり、領地をよく知っているため、的確に内政を行う能力を有する。
地元重視で、前の領主ゲイル近衛騎士団長にも、今の領主のザワーハルト第三兵団長にも、あまり忠誠を感じていないようだ。
政治的に微妙な位置にあるドットの城を中心とした小領地は、領主がすぐに代わる。そのため、ズールは反抗的とまでは言わないが領主など、代わりはいくらでもいると思っているのだろう。
傭兵団長 ゼフィランサス・シルバ 二十八歳
ローランド王国出身。二千人を有するゼフィランサス傭兵団の団長で、癖のある長い黒髪にサーリットの兜を被っている目元が爽やかな美丈夫。
装備は、外套の下に鎖帷子を着込んでいる。獲物は、エストックを使う。
平民出身なのに気品があり、さる貴族の庶子だったのではないかと言われている。
ピピンに雇われるが、一緒に死ぬつもりはないようだ。ただし、信義を重んじるゼフィランサス傭兵団は、雇い主が死んでも金を貰った分はきちんと働く。
ピピン侯爵の死後も、律儀に領土防衛の任務を遂行する。
男爵 ボンジュール・イソワール・ブラン 十二歳
建国王レンスの血を引く、ブラン家の生き残り。
地方貴族叛乱の盟主に担ぎ出される。小さい麻呂で、実権は皆無。お飾りとして、玉座におとなしく座らされているだけだ。
ブリューニュにも、こんな可愛らしい子供の時分があったのだろうか。
アジェネ伯爵夫人 ジョセフィーヌ・アジェネ・アキテーヌ 二十八歳
匂い立つような美貌と、芸術的なまでに美しい身体のライン。若々しく張りがある白い肌。まさに、匂い立つような美人。権謀術数に長け、
彼女が狐女と蔑まれるにはわけがある、狐型獣人の血が混じっており、獣耳と小さな尻尾が生えている。純粋な人族を重んじるシレジエの名門貴族の社会で、彼女が
シレジエの南部地方、右半分を所有するアジェネ伯爵、名門貴族アキテーヌ家当主のハイエンドの愛人となったジョセフィーヌは、ハイエンド伯の当時の妻を公然と毒殺、夫人へとのし上がったのだ。
その後、頑固な貴族主義者であるピピン侯爵をも、その淫蕩なる性技で落として自らの協力者に仕立てあげた。まさに、狐女と呼ぶに相応しい傾国の美女。
彼女の色気で落とす手口は見え透いているのに、騙される男は後を絶たない。
アキテーヌ家当主 アジェネ伯爵 ハイエンド・アジェネ・アキテーヌ 三十三歳
生来病弱で、近頃はほとんど病床から起きられない。ジョセフィーヌに毒でも盛られているのかもしれない。
アキテーヌ家の実権は、夫人のジョセフィーヌに握られているため彼はお飾りになっている。
嫁に浮気されて、勝手に戦争まで起こされて領地が危険に晒される。
女を見る目がない己の無能の報いとはいえ、どちらかと言えば犠牲者である。
ピピン侯爵の三男、ブルグンド家の後継 ボルターニュ・ナント・ブルグンド 十八歳
凡庸なる十八歳のおぼっちゃま。
ピピン侯爵とともに長男と次男が、相次いで戦死したためブルグンド家の新当主となって、ナント侯爵家を継ぐことになる。
父と二人の兄の訃報を聞き、家を継いだはいいが、イソワールの街にジョセフィーヌと一緒に居たのが災いして、一溜まりもなく下半身を握られてコントロールされてしまう。
若い彼にとって、一回り年上の大人の色気ムンムンの狐女は魅力的すぎた。
予想外に家督が転がり込んで来た矢先に、領土が危機に瀕している。ラッキーなのか、アンラッキーなのか分かったものではない。
それなりに切れ者だったピピン侯爵の息子にしては、どうしようもないナマクラだが、その頼りなさが好ましく見える人もいるのであろう。不思議とジェフリー代官などの部下には恵まれているようで、少しは人望があるのかもしれない。
カスティリア国王
銀の鎖がついたモノクルを右目の眼窩にはめている。
黒地に金のラインの入ったキルティング仕様のダブレットを着ている赤髪を後ろに撫で付けた大人しそうな青年。
一見すると、真面目な官僚にしか見えない。
ひょろっと痩せた長身で、普段は無表情。ただ書類を読むときだけ、いきいきとした感情を取り戻して、赤い瞳がギラリと光らせる。
徹底した人間嫌いという欠点は持つものの、稀代の政略家であり、孤高の天才である。書斎に引きこもりながら、机の上から広大な制海権を持つ、海軍大国カスティリアを切り盛りしている。
ナントの街の老代官 ジェフリー・アーマス 六十歳
白髪で、白い豊かな髭の老人。
ながらくブルグンド家に仕えてきた代官である。
ブルグンド家のため、最後に残されたボルターニュぼっちゃまのために、ナントの街を命がけで守ろうとした。
その願いが天に通じたのか、カスティリア王国の援軍があって一度は、シレジエ王国軍を退けることに成功する。
その後、ゼフィランサス傭兵団と共同作戦を行い、ナント侯爵領のオータンを奪還しようとしたが、失敗に終わったようだ。
ブルグンド家 執事長 カストロ 四十五歳
ブルグンド家に仕える使用人の頭。
彼らは戦闘要員ではないただの執事だが、敵が攻め寄せてきても逃げずに、老臣ジェフリーとともに武装して、主の居ないナントの街を守ろうとした。
農村の領民には裏切られたブルグンド家であったが、都市の市民には支持されていたようだ。
彼らの決死の覚悟はそれを象徴している。
アフリ大陸の北西。大砂漠の沖合に浮かぶランゴ島の女王の娘。
青いセミロングの髪から、黒褐色の二本の竜角が突き出している。手足の先が太く鋭い爪と青い鱗が付いていて、ドラゴンの青い翼と長い尻尾が付いている以外は、大柄な人間の女と変わらない。
対照的に肌は透き通るように白く、豊満な身体つきで、胸や腰に白い布を巻きつけただけの簡素すぎる格好をしている。
島ぐらしで人との関わりが少なかったので、自分の服装がセクシーだとは、まったく思っていない。
アレは、武闘家であり竜形拳という伝統的な拳術を使う。鋭い爪と、長く硬い尻尾で攻撃する。混沌の化身である古き者の血を引いているため、練気を高めると強烈な攻撃になる。
ランゴ島は、
知識を求めるアレは、客将としてカスティリア王宮に招かれるが、勇者は島で尊敬の対象だったので当初はシレジエの勇者との戦いは拒否していた。
彼女なりに思うところがあって、後に戦いに参加する。
カスティリアの上級魔術師 将軍 レブナント・アリマー 三十歳
長い銀色の前髪を垂らした、細い目をした若々しい男。
鈍く光る金色の鎧を着て、上から茶色のマントを羽織っている。
パッと見は、紳士的な好青年だが、残忍で悪魔的な顔も持ち合わせている。
もともと変質的な男ではあったが、
卑怯な作戦や、奇抜な戦法を好んで使う。手段を選ばないというより、どうやら彼独特の余人には理解できぬ美意識があるらしい。
手痛い敗北の痛痒ですら、快楽に変えてしまえる彼は尋常でなく打たれ強い。
いろんな意味で、まともな常識が通用しない、思考が読みにくい策士である。
新ゲルマニア帝国軍千人隊長 デボン三兄弟
三人で将軍クラスといった感じのモヒカン兜の三兄弟。
量産型キャラとか言ってはいけない。本当は強いのだ。
元傭兵で、鎖鎌を武器に使い敵の動きを封じる連携攻撃を得意とし、普通の騎士相手なら十分に倒せる実力を持っていた。
鬼神と化したルイーズと出会ってしまったことが、彼らの不幸だった。
やっぱり運がなかった。
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