第101話「人物紹介(第一部終了時点)」

 ※ 追加分です。これ以前は80話を参考にしてください。


 オナ村自警団 砲手 ジーニー・ラスト 二十三歳


 くすんだ赤髪の村娘にしか見えないが、義勇兵団でもトップクラスのベテラン砲手。オナ村自警団で、ライル先生と共に最初に砲撃術を研鑽した一人。

 貧しい酪農家の末子で、実直で口数が少ない。

 喋り方をよく知らないので、ぶっきらぼうだと言われる事が多いが、根は優しい女性で本当は人当たりもよい。

 凝り性で、好きなことになると熱中する。


 上級魔術師殺害のアシストに成功した功績で、のちに砲兵長にまで出世する。


 上級魔術師 『灼ける鉄』のドリュッケン・グンデ


 魔術師でありながらフルプレートに武装した巨体。

 土の上級魔法 岩石落としクラッグプレスの改良版、隕鉄落としアイアン・ミーティアを使う。

 メテオ・ストライクには一歩劣るが、的確に街を囲むの石壁を撃ち抜けるその攻撃は攻城戦に特化しており、歩く破城槌はじょうつちと呼ばれている。

 実際のところの威力は、破城槌どころの騒ぎではない、まさに中世ファンタジー世界における攻城砲であった。


 宮廷魔術師のイェニーを除くと、帝国本国に残った最後の上級魔術師であり、当然のごとくライル先生の策謀により殺された。


 『万能の』フォルカス・ドモス・ディラン 二十五歳 侯爵家子息


 帝国中央軍主将、シレジエ会戦では皇太子親征のため首席幕僚も務めた。

 冷徹で卓越した采配は、万能の名にふさわしい。

 一軍の将として高い指揮能力を持ちながら、自身も中級魔術師であり、交渉力も個人的な戦闘力もあるというわりとチートに近い人。おまけに、亜麻色の髪をした美形でもあり、帝都の女官たちも、フォルカスが通るたびにキャーキャー黄色い声援を送っている。

 そんな彼がチートになりきれないのは、なんでも出来ることが、逆に特化を妨げて器用貧乏になっているからであろう。

 その全方面で高い能力は、十分に鋭利な刃と言えるが、生まれついての帝国貴族であり高級軍人でもある彼は、敗北を知らず、苦渋の味を知らず、磨かれていない珠なのだ。


 表面を磨きあげた白甲冑アンノル・ブランを着ている。

 しゃべりながらこっそり魔法を詠唱する裏ワザを会得している。

 刺突剣エストックの使い手であり、その剣は「キラー・ビー」の隠し名を持ち、麻痺の魔法が掛かっている。


 ラストア人の将軍、ライ・ラカン 四十三歳


 北東の果て、三大領邦王国の一つラストアから、五千人の混成大隊を率いてやってきた将軍。

 ラストア氏族クランの族長の一族であり、頑強な戦闘力と堅実な指揮能力を持つ。 ライ将軍は、鍔のある鉄の兜カバリンをかぶり、チェイン・メイルの上にラメラー式の胸甲をつけているが、ラストア騎士の標準的な装備である。

 辺境の地では槍よりも使い勝手がいいのか、大振りの蛮刀を好んで使う。


 オナ村自警団長 義勇兵団一番隊長 マルス・オナ 二十歳。


 オナ村の村長のドラ息子。声がでかいだけのお調子者。

 チンピラ風の茶髪の兄ちゃんで、銃を持たせても槍を持たせても全然使えないが、人の言うことを何でも聞き入れる素直な耳と、どんな混戦になっても味方全体に通るテノール歌手のごとき大きな声を持っている。

 まさにその点だけで、将の器と言える兄ちゃんである。村長の息子ということもあり、ベテラン揃いとなっている元オナ村自警団も何となくマルスの言うことでまとまるので、自然と義勇兵団の将に押し立てられている。

 義勇兵団、隊長にしたくない人ランキング堂々の一位になっているが、逆に人気者といえるかもしれない。

 どうしようもなく低能だが、明るくて屈託のない彼の性格は、なんでも言えるし、遠慮なく罵倒できる上司として好まれているのだ。


 オルトレットの騎士 オラクル領 騎士隊副長 ドロス・トコード 二十八歳


 オルトレットが、一介の貧乏武家であった頃から付き従っている黒髪の女性騎士。

 騎士見習いの頃から、当時は第四兵団長だったオルトレットの薫陶を受けており、その忠誠心は強い。

 現在は、オラクル領騎士隊の副長を務めており、子爵の居ない間は領軍の指揮を取ることが多い。

 腕は確かだが頭の硬い古風な騎士であり、農民出身の義勇兵と共同戦線を張るのが大変なようだ。


 ガラン傭兵団 幕僚 ノコン・ギク 三十歳


 盗賊としては珍しい、迷宮探索の専門家。それだけの技能を持っているレベルの高い冒険者である。

 小兵ではあるが、器用な手先を生かして短弓や隠し武器の投げナイフで戦闘力も申し分ない。

 どこへ行っても出世できるだけの器量の持ち主だが、本人は流れ者が合っているらしく一所に居付かない。

 傭兵団にふらりと参加して、傭兵の長としては珍しく生真面目な気質のガランを面白いと感じ、接近して団の仕事を手伝うようになる。


 飛竜騎士団長、ロスバッハー・フォン・ライフェンツベル 三十二歳


 世界最強の名を欲しいままにした、ゲルマニア帝国の秘密兵器、飛竜騎士団。

 飛竜騎士こそが、ゲルマニア帝国の権力の源泉であることをよく自覚している将。

 戦うときは果断だが、なによりも戦力を減じないことを考えて冷静に動いている。

 飛竜騎士が動く時こそ、帝国が勝利するときであり。

 飛竜騎士が敗北するときこそ、帝国の滅びであると考えているからだ。

 そしてロスバッハーのその認識は正しい。


 義勇兵団二番隊隊長 アラン・モルタル 二十四歳


 モルタル村出身の若者。村長の息子である。

 もともと人を焚き付けて動かす扇動の才能があったのか、モルタル村や付近の村に呼びかけ貧農の若者を巻き込んで三百人の義勇兵を率いて参加。

 その功績で、そのまま二番隊の隊長となる。それなりに整った容姿でやたらと弁が立つので、義勇兵団の広報部長としても活躍している。

 上に取り入るのがうまく、下への当たりも優しい。王軍との共同作戦もアランが一番上手くやれていた。

 義勇兵団、隊長にしたい人ランキング一位の優男である。

 ただ、無類のおしゃべり好きで、必要のないことまで語る悪癖がある。やたら口が軽いのが彼の欠点で、重要なことは相談してはいけないと言われている。


 王都の兵士長 ギル・ヘロン 五十歳


 真面目なおっさん。古くから、シレジエ王都の兵士長として三百人を統括して防衛の任にあたってきた。

 目立たない、逆らわない、関わらないを人生のモットーにしているために。

 王都が『魔素の瘴穴』でボロボロになった腐敗時代も、ゲイルのクーデター後の粛清時代も、巧みに生き残って、兵士長の任を全うしている。


 近衛騎士団長 ゲルマニア随一の猛将 バルバロッサ・フォン・バーラント 三十五歳


 赤ひげの猛将、身の丈二メートルの巨大な体躯で、赤馬に乗り巨大な処刑斧を振り回すその姿は、敵兵を恐怖に陥れる。

 近衛騎士団を率いて先陣を駆けること九回、その間に百の敵将の首を切ったと言われるゲルマニア一の猛将。

 三メートルにも及ぶ巨大な処刑斧グレイブを軽々と振り回しており、一気に敵兵を五、六人は一気に屠ることができる。

 その猛々しい叫び声を聞くと、敵兵は震え上がって、戦意を喪失する。

 ただ『猛将』とのみ尊称されるにふさわしい存在である。

 小細工はしない、罠があれば力を倍化して突き破る。ゲルマニアで最も猛々しい将軍であり、それ以上でも、それ以下でもない。

 ルイーズと互角に渡り合えるだけの腕力を持っている、つまりバルバロッサも化物を超えた化物である。


 トラキアの将軍 盲目の英雄 ダ・ジェシュカ 五十七歳


 両目を隠す黒い眼帯をはめている異相の老将軍。骨鎧スケイルメイルという、軽くて丈夫な鎧を着ている。骨と聞いて侮る無かれ、ダ将軍が着ているのは、竜骨で出来た貴重な鎧だ。

 厳しい環境のトラキアでは、生き残るために実用第一の気風が強い。

 戦車戦術という、馬車を盾に使いクロスボウで敵を倒す、新しい戦法の考案者。

 大戦で失明するまでトラキアを守りぬいた民族的英雄でもあり、盲目となった現在も杖をついて戦場を歩きまわり、トラキアの最も有名な将軍として采配を振るっている。


 ガルトラントの将軍 黄将 サンドル・ネフスキー 四十八歳


 黒い髪に黒い瞳、日に焼けた肌。中肉中背で他の騎士と比べても風貌に目立つところはないが、静かな物腰にも将としての迫力があり、その視界に入るだけで他を威圧する不思議な眼力がある。黄色い布を巻いているためか、黄将サンドルと呼ばれている。

 黒毛の駿馬に乗り、騎乗しながら大弓を射ることが得意な賢将。将軍としての実戦経験も豊富で、脂が乗りきっている。

 将軍もそうだが、ガルトランドの騎士はフルプレート装備で、ゲルマニア帝国騎士とほとんど変わらない。

 ただ、帝国との識別のために黄色い布を巻いており、そのため黄布騎士と呼ばれている。


 サンドル将軍は、帝国に破れて服属したものの、攻めるに果敢で、守るに堅実な変幻自在の戦術は帝国軍を大いに苦しめた。

 領邦王国軍を率いて帝国のために戦い続けている現在も、帝国に服属していないガルトランド王国の騎士を密かに匿い、盛んに秘密外交を行なって、ガルトランド王国独立のタイミングを狙っている策謀多きの愛国者でもある。


 シレジエ王国騎士団長 マリナ・ホース 二十三歳


 『転がる石』のマリナ。ロックンロールな二つ名を付けられたマリナは、かつてルイーズの率いる騎士隊の副隊長だった女騎士。

 栗毛色の髪と眼を持つ。小柄で石と呼ばれるほどに寡黙で、およそ近衛騎士団長に向いている人物ではない。彼女ができることは、騎兵を操り、自らの想いのままに駆け巡らせることだけ。

 ホースという家名は、伊達ではない。彼女は、人を操るのにはあまり向いてないが、馬を操ることにかけて右に出るものはいない。

 たった五百人にまで減少した近衛騎士団を、短期間で騎士的な驕りを削りとり、指揮されたとおりに動く軽騎兵へ編成しなおした。


 重装を好む騎士には珍しく、普段から軽装であり、軽弓と投槍と切欠きのある盾で戦う。(切欠きの盾は、弓から守りながら覗くため)。武器を全部使い終わったあとは、刺突剣を使うが一撃離脱戦法を信条としているので、たいていはその前に引く。


 ピピン・ナント・ブルグンド侯爵 四十五歳


 フランスパンの先っぽのようなあごに、さらに黒いあご髭を伸ばした異相の男。

 建国王レンスの重臣の血筋であるブルグント家の当主で、地方貴族の代表の一人。無能揃いの名門貴族の中では、かなり優秀な人材である。

 軍を指揮させてもそれなりにできるし、知能が高く策謀好きで、内政面でも有能さを発揮している。

 ただ彼の問題点は、その能力を王国のためではなく、自分の権力維持のためにしか使わないということか。


 シレジエ王家に対して独立心の強い南方の大貴族は、かつて建国王レンスの重臣であった、ブルグンド家とアキテーヌ家の二大侯国が中心となっている。

 南部貴族連合の本来の代表は、王家の分家としてブリューニュが居たブラン家だったのだが、すでに名目だけで力はない。実権は、ブルグンド家のピピン侯爵とアキテーヌ家のアジェネ伯爵夫人が握っている。

 ちなみに、ピピン侯爵がアジェネ夫人と不倫関係にあるのは公然の秘密となっている。


 ゲルマニア皇帝 コンラッド・ゲルマニア・ゲルマニクス


 弱い七十を越える老皇帝、五十年前に『迷霧の伏魔殿』を封印したのはこの人。『試練の白塔』の五十四階まで登り、オリハルコンの鎧と大盾を手に入れた勇者でもある。

 若いころは遠征に次ぐ遠征で、帝国の西の三王国を喰らい、帝国の版図を広げた英雄的な皇帝であったが、年老いて精彩を欠くようになる。

 継承問題に決着を付けることができず、兄妹を力ずくで蹴散らして実権を握った若獅子フリードに良いようにされて、半ば隠居の身となっている。


 帝国崩壊後、クーデター軍に捕らえれて、そのまま帝城に幽閉される。


 バイデン・ソレル・クール ゲルマニア帝国 内務卿ないむきょう 四十四歳


 長身痩躯で、肌の血色が悪く、白髪交じりと、風采は悪いが。

 その瞳は野心にギラついており、精力的に働く財政家にして卓越した政治家でもある。

 もとは毛皮商であったが、行動力と野心に溢れたバイデンは商人として頭角を表す。

 ノルトマルク市長の娘と結婚し、持参金として莫大な財産と中央官吏へのルートを手に入れる。

 商会経営の傍ら、貨幣鋳造局の局長となり、貨幣鋳造用の貴金属を大量に流用して巨万の富を得て、賄賂を使って会計方の要職を歴任し、文官の出世街道を駆け上った。

 長じて、ソレル伯爵号を授けられる。同じく栄達の途上にあったフリード皇太子に近づき、内務卿の大任に任ぜられて、皇太子の新政下で辣腕を振るい栄華を極めた。

 シレジエ介入戦争に七万もの大軍を送り込めたのは、内務を取り仕切るバイデンの手腕あってのことである。


 シレジエ介入戦争の敗戦と、多額の賠償金の支払いで決済不足に陥った帝国財政を救うため、兌換紙幣の導入に踏み切るが失敗。

 それが元で帝国属領の反乱を呼び、バイデン自身もクーデター軍に捕らえられて処刑されることとなった。


 聖女 ローザ司教 年齢不詳(若くは見える)


 アーサマ教会からシレジエ王国に派遣されて、『魔素の瘴穴』に居住して兵士と共に防衛を担当している聖女。形式上は、王都の大聖堂の司教も兼任している。

 いざというときには、開いた『魔素の瘴穴』を封印することもできる実力を持つ。

 ちなみに、フリードが攻めてきたときに居なかったのは、王都の街に出て治療に当たっていたためである。

 アーサマの罰があたるので、ローザ司教は肝心なときにいつも居ないとか、言ってはいけない。


【付録】帝国三大領邦王国の騎士設定


 ※ 人類世界の辺境に位置して、北方の魔族や東方蛮族との戦いもあるため、変わった装いの騎士が多い


 ラストア人騎士 小さい国にたくさんの氏族クランがいる連合王国。装備は統一されておらず、装備には蛮族の影響もみられる。動物の毛皮を巻いている騎士までいる。周囲に鍔のある鉄のカバリンを冠って居るのが唯一、統一された装備。

 精鋭は、チェイン・メイルは西洋風で、その上から着るラメラー式の胸甲は東方風。

 ゲルマニア帝国の領邦王国として支配されている今も、多数の氏族から選出された氏族王が自治統治している。


 トラニア人騎士 モンスターと戦うことが多い辺境の騎士団で変わった戦いをする。スケイルメイルという、骨鎧を着ている騎士が多い。馬で引かせたワゴンで移動しており、その影からクロスボウを撃ちまくる戦車戦術という変わった戦法を取る。接近戦は、長斧とナイフで戦う。

 ダ・ジェシュカという杖をついた盲目の老将軍が率いている。


 ガルトラント人騎士 装備は近代化されており、ほとんどゲルマニア帝国風の騎士と変わらない。ゲルマニアと見分けをつけるために、結び目をつけた黄色い布を上腕部に巻いている。ゲルマニア騎士と分けて、黄布騎士とも呼ばれる。

 蛮族とも取引がある黄布騎士は騎乗に長けて頑強で、ゲルマニア騎士と違い騎槍だけでなく、状況に合わせて長槍や大弓を使う騎士隊もいる。

 黄将と呼ばれるサンドル・ネフスキー将軍が率いている。


【さらに付録】シレジエの大英雄 ダナバーン侯爵の軌跡


 エスト伯爵(のちに侯爵に叙せられる) シレジエ王国臨時政府首班 シレジエ王国軍主将 ダナバーン・エトス・アルマーク


 王国の名門貴族たるアルマーク家の歴史は古く、一説によれば祖先は、勇者王レンスのシレジエ王国建国前から、エストの地に植民してきた人たちの指導者であったと伝えられている。

 アルマーク家当主、十八代目にあたるダナバーンは幼少の頃より俊英で、様々な分野の家庭教師がついたが、皆が口を揃えて「もう彼に教えることは何もありません」言ってすぐ出ていってしまうほどの神童であった。

 それほどの才幹を持ちながら、謙虚なダナバーンは王都へと出仕することはせず、父の死後伯爵家を継いで、領地の運営に専念する。

 自らの足で領地を隅々までめぐり、領民の生活に細々と気を配るその優しく威厳に満ち恰幅のよい姿は、領民より富裕伯と呼ばれて慕われていたそうである。

 彼は前半生においては、経済面に置いて卓越した能力を発揮している。

 モンスター石鹸やエスト山羊の織物など様々な商品がエストの街で生まれたのは、新進気鋭たるダナバーンが、有望な商会を自ら後援したためと言われている。

 現在もシレジエ王国の経済を支える、老舗「佐渡商会」の本店がエストの街に置かれているのは、ダナバーンが創業時から多大な支援を行い、その発展を助けたことに対する勇者タケルの感謝の証だと伝えれている。

 本来の彼は、温和で社交的であり、何よりも自領の民を慈しみ、平和を愛する男だったのである。


 しかし、シレジエを襲った大国難は、ダナバーンがそのような平穏な暮らしを送るのを許してはくれなかった。

 王都のすぐそばの魔素溜り『魔素の瘴穴』の封印が解かれたのだ。

 シレジエ王国の王都と北西部を崩壊の危機へと陥れた『魔素の瘴穴』事件である。

 一軍の将としても勇猛精進たるダナバーンは、領主としてすぐに北部より迫りくるモンスターの大群と戦った、その活躍によりエスト領だけは戦火の影響もなく平和であったと伝えられるほどである。

 王国の荒廃を手をこまねいて眺めているだけの王軍に対して、ダナバーンは当時、一介の商人に過ぎなかった佐渡タケルの才能を見出し、アルマーク家の騎士に任じる。

 そして、国難打開のため、エスト領全域に義勇兵の募兵を行った。

 魔素の瘴穴を再封印して、騎士から将軍、後にシレジエの勇者となり、果てはシレジエ王国中興の祖となる王将軍、佐渡タケルではあるが。

 その救国の勇者の登場も、それを軍事、経済の両面から支えた英傑ダナバーンの活躍なしにはあり得なかったのである。


 ダナバーン将軍とエスト領の義勇兵、そして勇者タケルの活躍により、ようやく『魔素の瘴穴』事件が終わりを見せた矢先、騎士団長ゲイルによる王都クーデターが発生。

 王都の王族・貴族は皆殺しの憂き目にあい、ついにはシレジエ王国第十七代国王ガイウス・シレジエ・アルバートも、ゲイルによって弑逆された。

 この国体存続の危機に、英雄ダナバーンは再び立ち上がった。

 最後に生き残った、たった一人の王位継承者シルエット王女(のちに十八代女王)を王都より救いだしたダナバーンは、自ら王国臨時政府首班として王軍を率いて、クーデター軍に立ち向かったのである。

 どちらにつくのが得か、迷う優柔不断な地方貴族たちに向かい「我々家臣の陛下より受けた恩義は、山よりも高く、海よりも深い、今こそ逆賊を倒し、長年の恩義に報いるときではないか!」と呼びかけた名演説が、この一戦の雌雄を決めたと言われている。

 シレジエ王国軍は、ダナバーンの歴史を揺るがす一声によって、勝利したのである。


 そんな活躍にもかかわらず、ダナバーンは戦後の混乱を治めたのちに政府首班を辞任、一切の地位を求めることなくエスト領へ帰ったそうだ。

 王国政府は、慌ててダナバーン伯爵に侯爵号を贈り、それに見合う地位と領土を差し出そうとしたが、王国軍に味方した騎士・貴族が次々と地位・領土を賜るなかで、王女より与えられる名誉の称号以外、何も受け取らなかったという。

 シレジエ王国随一の忠勇の主は、まさに無欲の人であったのだ。


 そして、自らの領地に戻り、またエスト領の経営と民の生活に心を配る静かな生活に戻った。

 しかし、歴史はまたしても、英雄ダナバーンに白羽の矢を立てる。

 当時の大国、ゲルマニア帝国が王都シレジエ目がけて七万の大軍を差し向けてきたのだ。

 それに対して、たった一万七千あまりの王軍を率いて、ダナバーンは主将として戦うこととなった。

 後世に名高い「シレジエの会戦」である。


 戦争は、大軍を率いる帝国有利の予想に反して、勇猛精進たる主将ダナバーン・エトス・アルマークの高い指揮能力と獅子奮迅の活躍により、王国側の優勢が続く。


 そして、最後の決戦場「魔の山要塞攻略戦」において、帝国軍主力部隊である「帝国近衛不死団」を打ち破り、帝国軍主将フォルカス・ドモス・ディランを、ダナバーンは自らの手で討ち取って、この未曾有の大戦に勝利した。

 シレジエの国難を三度救ったダナバーンは、まさに救国の大英雄であり、シレジエ王国の歴史上もっとも勇猛果敢な将帥であったとされ、その人なくしては王国は跡形もなく滅びたであろうとすら評されている。


 その歴史上にも稀な業績の数々は、一人の人間が行ったとしてはあまりにも現実離れしているため、批判的な後世の歴史家からは『捏造に満ちた記述であり、到底信用がおけない』と指摘されている。

 ダナバーンを評価する歴史家は、彼こそが地上に舞い落ちた一点の輝ける星であり、シレジエが生んだ『回天の奇跡』そのものであると主張している。


 出典 アルマール家の歴史書『アルマール家業績録』および、『勇者を支えた英雄たちの群像』『佐渡商会 社史』『回天の奇跡 ダナバーン・アルマーク伝』より一部抜粋

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