第33話「祭りの後始末」

 二度目となった『魔素の瘴穴』まそのしょうけつ封印を終えて、王都に戻るとあらかた王都から水が引いていた。

 いくら魔法で無理やり大洪水を発生させても、水はけの良い土地をいつまでも湖にはできない。


 上級魔術師の攻撃に備えていたライル先生たちだが、ゲイルが失敗したことを悟ったのか魔術師は、また姿を暗ました。

 先生は地団駄じだんだ踏んで悔しがってたが、準備が足りなかったからね。


 あの魔術師も、正体は謎のままなんだよな。

 上級魔術師ってのは、どこの国でも有名な存在だから照会すれば分かるかと思ったら、該当する人物はいないとのこと。

 まあ、黒いローブの隠形使いってだけでは何ともなあ。


 モンスターの群れの残存をあらかた始末し終わる頃には、日が暮れていた。

 あれほどの激戦のあとにも関わらず、嬉々としてモンスターの肉を解体し始めるルイーズには呆れた。

 そりゃお預けって言ったけど戦闘しまくった登山の後だぞ、ルイーズの体力の底が見えない。


 まあ、難民のための炊き出しはいるので、俺たちも料理を手伝ったけど、食ったあとはほとほと疲れきってみんな地に突っ伏して眠った。


 ようやく、まともに王都の再建が始まったのは数日経ってからだ。


     ※※※


「というわけで、タケル殿にはシルエット王女の摂政せっしょうとなっていただきます」

「またそのパターンですか」


 いよいよ、先生の俺に対する位打くらいうちも極まった感がある。

 ちなみに位打ちとは、本人の実力をはるかに超えた高位高官につけることで、相手を呪殺する必殺技である、相手は死ぬ。


「シルエット姫との結婚は避けたいんでしょう。勇者の盛名と王家の血筋のコラボ。最低限、これが諸外国や貴族に対して王国政府を維持できるラインです」

「まあ、名前だけなら」


 何でみんな、俺に責任を押し付けようとする。

 結婚しろって迫られるよりはマシだけど。


「実務と王国政府との折衝は、私が全部やらせてもらいます。名前が気に入らないなら、第一執政でも、第一人者でも、大元帥でも、なんでもいいですよ」

「もう摂政せっしょうでいいです」


 第一執政ってナポレオンかよ。

 たしか、シレジエ王国ってフランス型の国だったとは思うが、時代が違うだろ。


「大火で焼け落ちて、洪水で流されて、王都はもはや一から作り直すしかありませんから大変ですね」

「その割には、嬉しそうですね先生」


 先生は、こういう独特の不謹慎さがあるんだよな。

 非常識でも非情でもないんだけど、治世の能臣・乱世の奸雄もいいとこだ。


「大掃除ができましたからね、前の王都が素晴らしい都市だったとはとても言えなかったでしょう」

「それは、まあ分かります」


 難民が溢れていたのはしょうがないとしても、上に統べる王族や貴族はただ民を搾取するだけで、騎士や官吏たちも民の惨状を、手をこまねいて見ているだけだった。

 都市全体が、どうしようもない瘴気のような物に覆われていて、見るだけで暗鬱な嫌な気持ちになったものだ。

 ゲイルのクーデターは滅茶苦茶なものだったが、虐げられた民衆に国家転覆を良しとする機運があった。


 本当の『魔素の瘴穴』まそのしょうけつは、前の王都シレジエそのものだったのかもしれない。


 全て綺麗に押し流されてしまって、いまの王都には何もないが復興に邁進する市民の顔色はみな明るい。

 迫りくるモンスターの脅威もなくなり、上から権力で抑えつける連中が一掃されたのだ。

 いろんな物資が不足していても、将来への希望があれば人は生きていける。


「そこにうちの商会がオックスの木材や石材、イエ山脈の金属製品を運んでたんまり儲けさせてもらうと」


 俺がそんなことを言ってると、驚いたような顔で見られた。


「タケル殿、まだ儲け足りないんですか」

「当たり前ですよ、この新しい王都になら商会の支店を立てて、王領側に商売網を広げても良いですからね」


「いや、本当に呆れました。私も分に過ぎた野心に焦がれているかもしれませんが、タケル殿もたいがいですね」

「真っ当な商売で儲けるならいいでしょう、ただ何もせず下から搾取する貴族連中よりだいぶマシです」


「よろしいでしょう、じゃあ復興の物資は佐渡商会さわたりしょうかいが牛耳るということで、王国政府と交渉してきます。この際だから、国庫をひっくり返してもらって、王都も大砲付きの立派な都市に塗り替えましょう」

「それは官製談合って言うんですが、これも国民の安全のため、独占モノポリーもしょうがないですね」


「タケル殿、これも慈善事業ですからね」

「いやまったく、違いないですよ」


 まったく、戦争も政治も、勝手にやりたい奴がやればいい。

 俺はその間にせいぜい、自分の商売を広げさせてもらうことにしよう。


     ※※※


 あと、致命的な欠陥が発覚した『魔素の瘴穴』まそのしょうけつをリアが、教会の応援で管理し始めたこととか。

 上級魔術師の全国指名手配とか。


 今回の事件の後始末は、話すときりがないので端折る。

 俺が関与しなくても、ライル先生が善後策も含めて良いようにしてくれるだろう。


 王都で水を得た魚のように辣腕を振るう先生を残して、俺はルイーズたちと一度エストの街に帰ることにした。

 街に着くと、いつもと変わらない街並み。

 変わったのは、ダナバーン伯爵が侯爵に出世したぐらいか。


 そういやダナバーン侯爵も、ちょっとぐらいは領地増やして貰えたんだろうか。

 侯爵の居城を訪ねると、まだ王都から戻ってこないとのこと。

 そういやあの人、政府首班だったもんなあ。まだ領地に帰れないのか、お疲れ様だ。


 佐渡商会さわたりしょうかいの商館に戻ってホッとした。


「ご主人様、おかえりなさいませ!」


 シャロンたち奴隷少女が、忙しく立ち働いている。

 彼女たちは、商会の切り盛りで戦争が終わったらすぐに商館に戻ったのだ。


「ご主人様、M&Aは順調に進んでます」

「ついに企業買収まで始めちゃったのか……」


 なにせ、佐渡商会さわたりしょうかいに鉱山権益とアンバザック男爵領が一気に転がり込んだせいで、関連する多くの職能ギルドや商会ギルドが傘下に入ることになった。


 実質的な商会長であるシャロンがいないと商会は回らないのだが、なんでもシャロン一人で切り盛りしているわけでもない(というか、この規模になると出来るわけない)。

 商品流通と企業買収に関しては、シャロンの傍らで数式と格闘してるほとんど白髪に見える銀髪のシェリーがからんでいる。


 シェリーは、シャロンたちの後からきた奴隷少女二期生の中でも、ギャンブラーの娘と言う変わった経歴の持ち主で、シャロンが試しに商売を教えこむと、高い数学理解と市場分析の能力を発揮した。

 商会に集まってくる相場情報を収拾・分析して、どう商品を流通させるか、次にどこの商会を買収すべきか、なかなかに的確な提案を上司のシャロンに上げている。


 彼女たちがチョークでボードに書きなぐってる情報は、もはや、ただの高校生である俺が見てもわけわからない状態になっている。

 活気があって見てると面白いけど、セリ市とかこんな感じだよな。


「えっと、シェリーよく働いてくれてるようだな、なにか欲しい物ってあるかな」

「ご主人様、お留守の間はこんな感じですので、どうぞ確認をお願いします」


 とりあえずシェリーをねぎらってご褒美でもと思ったら、羊皮紙の書類束を渡された、数字わかんねえんだよ。俺は、文系選択だったし。

 俺が書類を眺めるのを、シェリーは上目遣いで期待して見ている。

 これで、確認しろとか言われても困る。


 シャロンに言うと軽蔑されそうだから言わないけど、本当は簿記も、財務諸表も、いまいちよく分かってない。

 だってゲームでこんな実務処理なかったし、何でこんな時にライル先生が側にいないんだ。

 何か言わなきゃいけないプレッシャーに押されて、適当を言う。


「よし、今後もシェリーに任せる。流通は在庫を溜め過ぎないように、効率的でシンプルなロジスティクスを目指せ。企業買収は、寡占あるいは独占できる産業に注力しろ。あとは……シャロンの言うことをよく聞いてな」

「さすがご主人様、的確なご指摘、痛み入ります」


 こんなんでいいのか、俺はぜんぜん自信ないんだけど。

 ぶっちゃけ、自分で出してる指示の意味もよくわかんないんだけど。


「シェリーは、よくやってくれている」

「お褒めの言葉、ありがとうございます。ご主人様のお役に立てて光栄です」


 俺は、シミュレーションゲームの受け売りを言ってるだけだ。

 高校生に、まともな商会の経営能力を求められても困る。

 一番下の数字が、嘘みたいな利益になってるから、まあいいんだろう。


 奴隷少女は玉石混淆ぎょくせきこんこうだ、シェリーみたいな玉が混じってるものを鉱山に送って労働力として使い潰していたんだから。

 この国のやりざまってのは、やっぱりダメだったんだろう。


     ※※※


 俺は商会に帰って早々に風呂に入った。

 いま、ロールが薪をくべつつ湯加減を見てくれている。


 得意の硝石作りが、エストの街ではすっかりアウトソーシングされてしまっているので、ロールは風呂焚き担当になってる。

 普段の俺なら、真っ先にあいつを風呂に浸けるんだが、もう今日は疲れきっていてそんな余裕はない。


 あの戦争のあと、すぐ普段通りの実務に戻れるみんなの体力ってのはどうなってんだ。

 俺はもう、いっそのことこのままロスゴー温泉に湯治に行きたい気分だ。

 ざぶっとお湯で顔を洗うと、全ての疲労が抜けていくような気がした。


「はぁ、やっぱり風呂だな」


 ちょっと爺むさいけど、俺はやっぱり風呂が好きだ。

 故郷を思い出させてもくれるし、どこの世界で入っても風呂の良さは変わらない。


 大浴場を独り占めって、なかなか贅沢じゃないだろうか。

 どうせ何もフェイントをかけないで入ったから、誰か入ってくるんだろうけどな。


 ほら、そう言ってたら小柄な少女が入ってきた。

 銀色のショートカット。なんだ、シェリーが来たのか。


「……ん」

「ご主人様、お邪魔してもよろしいでしょうか」


「ああっ、かまわん」


 かまわないが、シャロンが来ると思ってたんだよ。

 あいつはずっと髪を洗えって言ってたから、シェリーが来るとは意表を突かれた。


「私が来たのが意外ですか」

「まあな……」


 ちゃんとかけ湯してから浴槽に入るあたり、教育が行き届いていてよろしい。


「シャロンお姉さまが、日頃のご褒美に、と譲ってくださったのです」

「そうなのか」


 また驚かされた。

 超意外だ、あいつさも上には従順で、下には優しい感じの外面をしておいて、絶対こういうとき譲らないよな。

 シェリーはブレーンとして、そこまで高く買われてるのか。


「ご主人様、お疲れのところとは思いますが……」

「ああ、みなまで言うな、頭でも洗えばいいのか」


 シェリーは、コクンと頷いた。

 子供一人ぐらいは、たいした労力じゃないしな。


 自分の身体を洗うついでだ。

 俺は風呂からあがると、石鹸を泡立てに入った。

 なんだったら軽く散髪もしてやるぞ、不器用で良ければだが。


「ご主人様に髪を洗っていただくのが、奴隷少女の最大の栄誉なのです」

「そうか、そうか……」


 髪を洗われながら、子供ができすぎたこと言うのはちょっと引くから止めろ。

 絶対シャロンの悪い影響だよな……。


 シェリーの髪は、銀糸のような綺麗な髪質をしている。

 こんな珍しい髪色は、俺の元いた世界では見られなかったものなので面白い。


「ご主人様の次が、シャロンお姉さまに洗ってもらえることです。私はシャロンお姉さまをお手伝いして、もっともっと商会を大きくするのが夢です」

「そうか、それはすごいな」


 楽しそうに話すシェリー、仕事はもう十分稼げてるし、ほどほどでいいんだけど。

 それがもしやりたいことなら、自由にやってほしいものだ。


 俺はシェリーたちが来た時の、生きながら死んでる状態を見ているので、好ましい変化だと思う。


「商人には商人の国があります。ご主人様に、もう一つの王国を支配していただけるように、私はこれからも全力でがんばります」


 どんな大きなビジョンだよ。なんだもう一つの王国って、何の影響だ。


 この子は、ギャンブル好きの血を引いてるからな、大失敗して経営を破産させるんじゃないかとちょっと心配になるが……。

 でも、まあそれもいいか。


「よし、じゃあ全力プッシュでシェリーがやりたいようにやれ。上手く行ってもダメでも、俺が責任を取るからな!」

「がんばります!」


 逆に煽っておく、よく考えたらシェリーたちが大失敗して破産しても困らない。

 俺だけじゃ頼りないが、ルイーズや先生もいるんだから、奴隷少女ぐらいなら破産しても食わせていけるだろ。

 何も問題はない。


「あっ、私もご主人様のお背中お流しします」

「じゃあ、頼むよ」


 小さい手で、俺の背中をタオルでこすってくれているのでほっこりした。

 うん、十分休憩になったな。


「じゃあ、もう一度湯船に浸かるぞ。シェリー、百数えるまで上がっちゃダメだからな」

「ニ、三、五、十三、八十九、二百三十三、千五百九十七、二万八千六百五十七、五十一万四千二百二十九、四億三千三百四十九万四千四百三十七、二十九億……」


 なにそれ怖い。素数かと思ったら、なんだそのデカイ数。

 やめろよ、俺のツッコミ出来る範囲を超えて数学的にボケるのはやめろ!


 もう百は、はるかに振り切ってるので、あがるぞ!


      ※※※


「うーん、なかなかの味だな。ほれシェリーも飲め」

「ありがとうございます」


 風呂上りに冷蔵庫から冷たい飲み物をいただけるなんて、なんて贅沢だろう。

 もうリアルファンタジーは厳しいとか言ってられないな。


 ちなみに俺が飲んでるのが水出しのアイスコーヒーで、シェリーが飲んでるのはフルーツ牛乳だ。


 フルーツ牛乳は、古代ローマにもあったと漫画に描いてあったからな。

 もちろん俺のコップや、シェリーの持ってる牛乳瓶はガラスで出来ている。


「うーん、やっぱり濁ってるな」

「本当の瓶は透明ですもんね」


 ガラスを作ろうと砂を焼いて失敗したのは黒歴史だが、風化した花崗岩や水晶クズを高温で焼けば、それっぽいものができるとすぐ分かった。

 ただ透明度が低く、現代にあるような透明の瓶には程遠い。


 ポーション瓶はもっと綺麗だし、やはり何か特殊な製法があるのだ。

 その情報は、おそらくヴェネチアン・グラスのように、どこかで秘匿されているのだろう。


「シェリー、情報はすなわち金、だからな。商売は情報を制した者が勝つ」

「ご主人様のお言葉、肝に銘じます」


 そんなことを言ってたら、仕事を終えたシャロンがやってきた。


「あらあら、シェリーとすっかり仲良くなりましたね」

「お前のおかげでな」


 シャロンは、思ったよりずっと立派にお姉さんをやっている。

 育ててる奴隷少女の聡明さを見ればよく分かる。


「今日はまだ早いですけど、そろそろご就寝になさいますか」

「うんそうだな、長いこと馬車に揺られるのも疲れたから、今日はもう歯を磨いて、ゆっくり寝るよ」


「では、ご主人様、こちらにどうぞ」

「うん?」


 シャロンに案内されなくても、自分の部屋ぐらい分かるんだが。

 あれ、俺の部屋がない。


「ご主人様の寝室は、商会の模様替えの際にこっちの奥の部屋に変更になりました」

「そうか、シャロンに任せてるからかまわないが、やけに広いベッドだな」


 セミダブルぐらいの大きさがあるぞ。

 こんな贅沢なベッド、うちにあったっけ。


「ええご主人様が、ゆっくり寝れるようにとこの度、新しく購入しました。普段は、私がベッドを温めております」

「そ、そうか」


 いや、それって俺のベッドって名目で、シャロンが勝手に趣味で、でかいベッド買って寝てるだけだよね。

 まあいいか、任せたからにはしょうがない。


 大は小を兼ねるだ。

 大きなベッドが気持ちいいことには違いない、ゆっくり寝させてもらうことにした。


     ※※※


迂闊うかつすぎるだろ、俺……」


 早朝、何かベッドに柔らかいものがあるなと思ったら、ごく当たり前のようにシャロンが木綿の下着姿で横に寝ていた。

 この展開、予想されてしかるべきなのだからそれはいい。


 問題は、朝起きるまでシャロンがベッドに潜り込んでいることに、全く気が付かなかったほど深く寝入り込んでしまったことだ。

 別に、シャロンを思いっきり抱きまくらにして、一晩過ごしてしまってたことを後悔しているわけではない。


 常在戦場の心得、これが剣豪、宮本武蔵みやもとむさしの世界なら、俺はもう寝首をかかれて殺されていてもおかしくない。

 俺も勇者などと呼ばれて、味方も増えたがその分だけ敵も増えた。

 本来なら、もう少し警戒すべきなのだ。


「ベッドに近衛が居るってシャロンの言うことも、あながち間違ってないのかもしれないなあ」


 でもまあ、幸せそうな顔して寝てるシャロンでは、寝所の護衛として役に立つとは思えないが、可愛いので許す。

 あれ、耳がぴくりと動いた。


「……おはようございます」

「もしかして、起きてたのか」


 狸寝入りが上手いんだな、シャロンは犬だけど。

 犬や猫は眠りが浅いが、獣人のクォーターもそうなのか。


「ルイーズ団長が近くにいるときは心配ありませんけど。商会にいるときは、ご主人様の身辺は私たちがお守りします」

「そうか、いろいろ考えてるんだな」


 ちなみに、昨日一緒にエストの街まで帰ったルイーズは、義勇兵団の責任者なので、オナ村のベースキャンプの視察に行って泊まっている。


 えっ、待てよ。

 もしかしてと、部屋の外をそっと覗いてみると。


「ご主人様、おはようございます」


 クローディアが、廊下に椅子を置いて座っていた。

 この朝っぱらから『黒飛竜の鱗の鎧』に、銃剣を携えた完全装備。まるで小さいルイーズだ。


「お前、まさか寝ずの番してたのか」

「ルイーズ団長の代わりに、きちんと交代で寝てますからご心配なく」


 シュザンヌが、その隣に簡易ベッドを置いて寝ている。

 こいつも寝ている横に銃剣を右側に置いて、こいつらのほうが俺よりしっかり宮本武蔵をやってる。


 シュザンヌとクローディアのコンビは、ルイーズから騎士の従卒としての薫陶くんとうを受けている。

 中世の騎士道にも、「五輪の書」の精神と同じ教えがあるのかもしれない。


「うーん、これは……」


 これどう判断したらいいんだ、シェリーには好きにやれっていったけど、こいつらの場合は。

 こんなに厳重すぎる守りを固めると、逆に襲撃されフラグ立っちゃうんじゃないだろうか。


「どうします、ご主人様。みんな自分で、できることを考えてやった結果ですけど」


 いつの間にか、シャロンも起きて、俺の背中に張り付いていた。

 どうしますと言いながら、俺の結論を何となく誘導してる気がする。

 だがまあ、そこに悪意はないので、そんなに不愉快ではない。


「クローディア、ご苦労だった。俺はもう少し寝るから引き続き、頼む」

「はいっ、ご主人様の安眠をお守りいたします!」


 若き騎士見習いは、椅子から立ち上がると、綺麗な敬礼を見せて笑った。

 それを見届けて、ゆっくりと扉を閉める。


「じゃあ、私はベッドにお伴します」

「好きにしろ」


 嬉しそうにしてるから、もういい。

 やっぱり休息が足りていない。


 いろいろごちゃごちゃと考えるのが面倒くさくなってきた。

 俺は、もうしばらくベッドに潜り込んで寝ることにする。


 隣でシャロンがゴソゴソしてても、なんかいい匂いがしても、それが安眠の妨げにならない程度には、俺もこの過酷な環境に、慣れだしてきているのかもしれない。

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