坑道のカナリアは羽ばたいた

荘村計輔

第1話

コンクリートからの照り返しが肌を焼く7月1日の正午。

交差点。横断歩道が描かれた道路を挟んで対面に、小さな女の子がいた。信号を待っているのは、私と彼女だけのようだ。背格好からして小学生ぐらいか。

手に持ったスマートフォンに目を落とし、かかとを軽く上下させながら、信号を待っている。

この時期なら、小学生なら夏休みに入る頃だ。友人と夏休みの計画でも話し合っているのだろうか。そんな想像をしたところで、なんだか胸が痛くなるような感覚を覚えた。

正面を横切る道路の信号は赤に切り替わる。

視界のなかで、二つの動きがあった。

一つは、赤信号を無視しして交差点に侵入してきた直進車。もう一つは、その車に気づかずに道路を渡ろうとする女の子の姿だった。

「……あ」

気づいた時にはもう遅かった。今から駆け出したところで間に合わない。

肉が硬いものとぶつかった時特有の嫌な音がした。

右腕、右足、頸椎など右半身を中心に身体の何十か所も骨が折れたのだろう。激痛に耐えきれず、私はその場に頽れた。

車は早々に走り去る。そのあとで、ゆっくりと轢かれたはずの少女は立ち上がった。少女は自分に何が起こったか分からずに呆けている。

「あ……あの……大丈夫ですか!?」

事故を目撃した通行人が声をかけてきた。

しかし、それに応える前に私の意識は途切れた。

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