坑道のカナリアは羽ばたいた
荘村計輔
序
第1話
コンクリートからの照り返しが肌を焼く7月1日の正午。
交差点。横断歩道が描かれた道路を挟んで対面に、小さな女の子がいた。信号を待っているのは、私と彼女だけのようだ。背格好からして小学生ぐらいか。
手に持ったスマートフォンに目を落とし、かかとを軽く上下させながら、信号を待っている。
この時期なら、小学生なら夏休みに入る頃だ。友人と夏休みの計画でも話し合っているのだろうか。そんな想像をしたところで、なんだか胸が痛くなるような感覚を覚えた。
正面を横切る道路の信号は赤に切り替わる。
視界のなかで、二つの動きがあった。
一つは、赤信号を無視しして交差点に侵入してきた直進車。もう一つは、その車に気づかずに道路を渡ろうとする女の子の姿だった。
「……あ」
気づいた時にはもう遅かった。今から駆け出したところで間に合わない。
肉が硬いものとぶつかった時特有の嫌な音がした。
右腕、右足、頸椎など右半身を中心に身体の何十か所も骨が折れたのだろう。激痛に耐えきれず、私はその場に頽れた。
車は早々に走り去る。そのあとで、ゆっくりと轢かれたはずの少女は立ち上がった。少女は自分に何が起こったか分からずに呆けている。
「あ……あの……大丈夫ですか!?」
事故を目撃した通行人が声をかけてきた。
しかし、それに応える前に私の意識は途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます