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10月、最後の週末。

俺は火鉢の屋敷にいる。

華燐との色校戦までの約束だったが、その後も何回か顔を出している。

生活するというのは、それだけで面倒で、ご飯、皿洗い、掃除に洗濯、色々だ。

家事が苦手な俺は隣の部屋にいる志津河が主に面倒を見てくれる。

一応これでも家事は一通りできるが、中々毎日やるという習慣が身に着かない。

当たり前のようで単純だが、とても難しかった。

毎日、志津河がやりなさいとあれこれ俺の尻を叩いてくれる。

志津河に内緒だが、少し掃除を誤魔化すことはある。

そんな、家事から逃げるように、この屋敷に厄介になっていた。

偉そうなことを言える立場ではないのだが、家事の大変さというのを知っている分、その人たちのため少し気を使って過ごしている。


色校戦に受けた右手と腹部の傷は綺麗に治っている。

傷の大本は魔術で治し、残りの細かい部分を自然に治していった。

特にこれと言った後遺症も無く、何時もの日常を送れている。

医療を専門に行う魔術師も数多く存在するため、外傷の治りは早い。


今日この屋敷に来たのは、赤華音さんに国内戦に参加することを伝えるため。

赤華音さんの部屋のドアを二回叩いて、自分の名前を名乗った。

「赤華音さん、周一です」

"はーい、入っていいわよ"

ドアからくぐもった音が聞こえる。

許可ももらったので、失礼しますと言って、部屋に入った。


部屋に入ると赤華音さんは自分の席に座って、資料に目を通している。

「こんにちは、周一、今日はどうしたの?」

「赤華音さん、こんにちは

 今日は頼みがあってきました

 11月末に控える、火鉢と風鍔かぜつばの国内戦に参加させてください」

それを聞いた赤華音さんは、あまり乗り気ではない。

「この前、色校戦に出たばっかりでしょう

 いくら傷が治ったからって、無理するものじゃないわ

 国内戦なんて何時でも、出してあげるけど、また次でいいじゃない

 しかもよりにもよって、風鍔が本拠地の戦いよ」

俺は自分が果たす目的のためにわがままを言う。

「今回は、頼みごとをされました

 どうしても、その日じゃないと駄目なんです」

「風鍔との国内戦に出たいなら、どうして来週にある火鉢が本拠地の戦いじゃないのよ?」

「俺の戦いたい人が、その日に出るからです

 お願いします」

気にせず俺はお願いをする。

「戦いたい人って誰なの?」

響来に頼まれた、戦って欲しい人。

俺はその人の事について気になって少しだけ調べた。

すぐにその人は見つかった。

「俺の友人の兄です

 名前は、䬅扇きょうせん 韶寄しょうき

「聞いたことのない、名前ね」

あまり、興味なさそうにその話を聞いている。

「今年に、一般から魔術師の資格を取りました

 初めて、国内戦に参加するようです」

「はっきり言えば戦う必要ない、私は周一の体を気遣って言うけど、万が一あなたの右手が動かなくなったとして後悔しない?」

はっきりと決めている。

後悔なんてない、欲しいものは見つかって持っている。

「後悔しません

 戦えない事の方が、この先後悔します」

「はっきり周一の意思があるなら尊重するわ

 参加を許可します、万が一もあるから気を付けるのよ

 魔術は万能でも、人の体は万能ではないわ、しっかり心得て置きなさない」

俺を注意するように、厳しい口調で。

「はい、その辺は大丈夫です。

 あと、また毎週末通ってもいいですか?」

「ええ、いいわよ

 何ならずっと屋敷で面倒見てもいいわよ」

先ほどの厳しさはなく、普段の優しい口調が返ってくる。

「ありがとうございます、その時が来たらまた言います」

ずっと屋敷にいてもいいと聞いて、苦笑いをする。

失礼しますと深く礼をした後、赤華音さんの部屋から出て行った。


***



周一が赤華音の部屋を出てしばらくたった。

一通り今日の事務作業が終わって、一息ついている。

周一が来て、華燐が一段と魔術に励むようになった。

華燐が周一に夢中なのは、知っている。

このまま婿として家を継いかせてもいいとすら思っている。

前代未聞だが、赤の他人に無事、魔宝について引き継ぐことが出来た。

素質は十分どころか、現時点で魔術師として満点。

ただの魔術師ではない、本当の意味で、この世界で百人もいないとされる魔術の頂点の一員になった。

現に、展示会に参加した歴戦の魔術師達と肩を並べる存在にまでなっている。


そんな、赤華音は周一が戦いたいと言う魔術師が気になった。

周一にとってその相手は、小石に過ぎない。

周一の体の方が大事。

もし、右手を動かせなくなったら生活に関しては私が保障しよう。

本当は止めたいけど、本人がそれを熱望した。

私に止める権利はあっても、強制は出来ない。

自分の事であれば迷いなんてない、他人となれば話は別だ。

臆病と慎重がせめぎ合うが、そこまで考えることもないのだろう。

何かが止めるなと私の心を揺さぶる。


それは自分の迷いからくるものではなく、別のものから感じる。

私も実際に経験した。

誰も抗うことのできない、運命と呼ばれる出会い。

きっとそれには理由がある。

国内戦の世界と同じように、魔宝は人を導く。

周一は魔術師であり、魔宝を扱うことが出来る魔術師。

誰もが、この力に自然と引き寄せられる。

私も経験したことはある。

多くはない人と運命のようなもので導かれ色々な魔術師と出会った。

全ては覚えてはいないけど、私が受けてきた魔術を一つ一つ鮮明に覚えている。

この戦いにも意味がある。


端末に魔力を流して起動させる。

水のようなモニターが映し出されて、評議会の公式ページにアクセスする。

再び、魔力を流して、私だと認識される。

評議会が管理している、魔術師を調べるページに飛んだ。

世界の魔術師の資格を持つ人たちが載っている。


水の画面を触りながら、

䬅扇きょうせん 韶寄しょうき

と入力した。


検索に一件の魔術師に絞り込まれた。

そのページを開いて確認する。

気になったのは魔術の項目。

その魔術師は固有魔術を持っている。


色は緑、

そして、固有魔術、川背美カワセミ


綺麗な魔術名だと思った。

どんな魔術なのか、予想はつかない。

背と付くことから、背中を強化するのだろうが、それ以外の事は分からない。


魔力の素の能力も高くないわ。

強度も透明度も1、色が少し高くて13。

周一と同じで、その辺にいる魔術師よりも低い能力の値。

でも、周一は一般から魔術師になったと言っていた。

小石かと思ったら、そんなことは無い。

周一と似ている。

気になったのは、"一般から魔術師になった"という部分。

極めて、異例だがこの魔術師の実績でもある。

実力がなければ到底かなわない。

たまたま目に見える部分が小さく見えるだけ、それが大きな岩の可能性だってある。

周一も見る目があるわね。


思いがけない楽しみが出来た。

次の国内戦この二人を追うことにしましょう。


そうして、赤華音は再び自分の作業に戻った。

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