第6話 玻璃色の世界の理外の理
「えっと、実はね――」
それから鏡宮さんは色々説明してくれた。
実は去年から報道されていないだけで、
鏡宮さんは実は『スペクリム』から調査に来た人間だとか。
日本語をしゃべれるのは、脳に直接インプットする技術が『スペクリム』にはあるのだとか。
鏡宮さんの説明の半分以上は分からなかったけど、概ね納得できた。
「この部屋にあるのは、私たちの世界に、つまり『スペクリム』。これも心外なんだけど、私達から見れば、こっちの惑星の方が『鏡』なんだけど、まぁそれはとりあえず置いといて、その『スペクリム』に行くことが出来る、貴方達の言葉で言う『時空ゲート』みたいなものがあるんだ」
厳密にはちょっと違うのだけれど、と言いつつ、鏡宮さんは徐にドアノブに手を掛ける。
扉の先は見たことも無い機材が乱雑に置かれた大部屋で、その部屋の天井には大きなリング埋め込まれていて、奇妙な空間だった。
「ふふふんふ~ん、ふんふふふ~」
鼻歌交じりに左右に身体を揺らす鏡宮さんは、テキパキと機械を操作しながら実に楽しそうだ。とても生き生きしている。
僕と同じように自殺未遂を犯しておきながら、どうして生き生きとしていられるのか分からない。
「怖がらなくても平気だよっ! 日帰りで帰って来れるからっ!」
別にそんなことはちっとも考えていなかった。
「みんな私たちの惑星の事を、別の惑星って言っているけど、実はちょっと違うんだ……これで、出来たっと、じゃあ、
パソコンのような機械に何か打ち込み終えると、鏡宮さんは手招きをして、僕をリングの中心に招き入れる。
「ちょっと違うってどういう意味?」
「う~ん、何ていえば良いのかなぁ~
鏡宮さんは首に提げていたペンダントのようなものを外し、その上に手を置くように促す。
そのペンダントは青い水晶のような宝石が埋め込まれていて、その水晶の中には星が散りばめられたかのような、まるで小さい宇宙が水晶の中にあるように見えた。
「ごめん、知らない」
「うん、普通そうだよね。とりあえずそれは着いてから話そっか」
僕はペンダントに手を添える。
鏡宮さんの透き通るような肌の温もりが指先から伝わってきて、少し心臓がドキッとした。
「ほら、始まるよ」
リングが唸り声を上げて回転しはじめると、中心から液状の鏡のような物体が溢れ、僕らの身体は包みこんだ。
ペンダントに触れた先から、鏡宮さんと僕の身体が次第に半透明になっていく。
何だ。身体が急に浮いて――
周囲の空間が屈折したように歪むと自然に足か床から離れていった。
『私の手をしっかり掴んでっ! 飛ぶよっ!』
鏡宮さんに言われるがまま、ペンダント越しに鏡宮さんの手を握りしめると、僕の身体は一瞬にして屋根をすり抜け、種子島の夏空へ放り出された。
空からの景色を眺めるどころか、慌てふためく間すらなく、僕らの身体は光に包まれ、再び意識は途切れた。
どこか懐かしくて、
「あっ!? 起きたっ!? 大丈夫?」
目を覚した僕を待っていたのは、上下逆さまの零れるような鏡宮さんの笑顔だった。
稲穂色の髪が頬を撫で、マリンブルーの瞳が僕を見つめている。
後頭部に柔らかい感触が心地良い、つまり僕は今、膝枕されているということになるわけで――
気恥ずかしさが一瞬で臨界点に達する。
「うわっ!」
「うぷさんっ!」
跳ねるように起き上がった僕は、鏡宮さんから慌てて離れる。
「びっくりしたぁ~脅かさないでよぅ」
脅かしたのはどっちって言いたかったけど、僕は言葉を失ってしまった。
紺碧の空の下、色彩豊かな花や草木の海をさらさらと風が渡っていく。
切り立った崖の斜面には、巨大なコバルトブルーの水晶が突き出ている。
さらに遠くに
その中を悠々と泳ぐのは鳥――と思えたそれは、よく見るとクジラのような生物だった。
「ここは一体どこ?」
もしかして本当に死んだのか、それとも夢で見ているのか、と思ってしまうほどの目の前に広がる圧巻の景色に、僕は心を奪われた。
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