氷の女王は恋愛なんてしてない。

ゆいまる

プロローグ

 恋は、毒であり薬であり、人の人生を大きく変えてしまうこともある。


 危うくてとても罪深いものだ。


 この物語を書いた作者は、これを読むあなたが恋で命を落としてしまわないように願っている。


 私が生まれた国は小さな王国だが、商業が盛んで割と豊か国だ。初めて恋をしたのは5才のとき。田舎の平民の家だったので、厳しいしきたりや親に決められた婚約者もおらず近所の男の子に普通に恋をした。生意気にも恋のライバルまでいたが、7才の時、母の再婚で王国の中心部に引っ越すことになった。はなればなれになると同時にいつのまにかその恋は終わっていた。我ながら随分とドライな恋だったと思う。

 今となってはその時の恋は、ただのおままごとの一環だったのじゃないかと思うくらい。


 10才になると、魔法がみるみる上達してきた。他の子たちにはまだできないような難しい魔法も上手に使えた。とくに氷魔法に関しては天才的だと大人たちが口々に言っていた。町の小さな学校にかようようになると、男子と女子の間に“なにやらざわざわとしたもの”が漂うようになっていた。私も便乗して同じ歳くらいの男子を観てみるけれど、特別に気になる人はいなかった。


 12才になると周囲の色恋沙汰もふえたのに、やはり興味が引かれず魔法の勉強に勤しむ自分は、どこか人間に必要ななにかが欠けているのではないかと思うところだった。


 しかし、学校の先生に対して、明らかにいままでとは違う感情が芽生えた。

 感情の芽生えというのはとても不思議で、春先に新芽が雪をかきわけて突然として顔を出すように、その感情の“形”もその“在りか”も知らぬ間に、ある程度育ったそれが突然として現れる。

 それから私は、 大人の魅力に惹かれていった。同い年には目もくれず、10も20も年上の男性に恋をした。知らない魔法をたくさん教えてくれるのも勉強熱心な私にとっては魅力のひとつだったのだろう。

 ちなみにいうと、それらの恋は全て実ることはなかった。なにしろ、私が恋をした男性にはもれなくパートナーがいたから。恋人ではなく妻が。さらには子どもまでいる人もいた。

 だから私はこれまで、その想いを伝えることは一度もなかった。

 そんな私を見かねた友達は、「もう、いっそ略奪してしまえばいいのに。」なんて、とんでもない提案をしてきた。

“とんでもない”そうはいいながら、その年上の男性が妻と別れ自分のもとへ来てくれるのを想像してしまった。

 しかし、それで分かった。たったひとりの大切な人、人生のパートナーを最後まで大切にできなかった想像の中のその男性を、私は愛せない。

 母と私をおいて出て行った父。永遠を誓っておきながら、その繋がりをあっけなく絶って別の誰かのもとに去った父。それを思い出すたびに父への嫌悪や、浮ついた恋愛をする同い年の男の子への不快感がつねに私にまとわりついていた。だからきっと、家庭を持ち幸せなそうな顔をする年上の男性に惹かれるのだろう。

 だからこそ私の恋は報われない。報われるわけにはいかない。


 こんなに苦しい恋愛はない。そう思っていた。


彼に出会うまでは…

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氷の女王は恋愛なんてしてない。 ゆいまる @kakuyui12

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