球子プラネット

シェンマオ

第1話

春が来た。


「ふぁぁ……むにゃ」


ベットから起き上がると、陽の光がちょうど顔に当たって思わず欠伸が出る


「たまこー、遅刻するわよー!」


「んんー……? あっ、あぁぁ!」


半開きのカーテンから覗いてたのは寝坊を告げる満天の青。

そして桜、満開


私こと野地球子は、急いでベットから飛び起きて昨日アイロンをかけた制服を手に取って部屋の戸を開けた。


「ママおはよ!」


「全く……ほらアンタあっち向いて」


言われた通りママから見てあっちを向けば、中学生の時と同じように寝起きの跳ねっ返りの髪を手際よく直してくれる。

現役美容師な私の自慢のママである


「こうしてると、アンタが高校生になったなんて信じられないわぁ……ほら、朝ご飯ちゃっちゃと食べちゃいな」


ママに髪を任せっぱなしにしながら、ママお手製のフレンチトーストを頬張って苦いコーヒーで流し込むと、なんかこう。すっごい朝って感じがする


「ごちそうさまでした!」


「ん、コッチも終わった。ほら、早く着替えて行ってきな」


「うん!」


食器を下げて、椅子にかけて置いたキラキラ輝く新品の制服を両手で広げてみる。


今日は入学式。私は、今日から


「女子高生になるんだぁー!!」


「はよ着替えろっての!」


▶▶▶


「おはよぉー、2人共ー!」


「あ、やっと来たぁ」


「おせーぞ球子、どんだけ待たせんだ」


「えへへ、ごめんごめん」


約束通り公園の噴水前で2人は待っててくれた。

家を出てからダッシュでここまで来たせいでもう息も絶え絶え、けどなんとか遅刻だけはせずにすみそう。

待ってくれてたそんな私を見て2人は顔を見合せ、やれやれと肩を竦めた。


中学と変わんねーな、こりゃ。なんて太陽は言いながら大きな溜め息をついて呆れたように笑う。

太陽、名前は天道太陽。小学生からの親友。ちょっとぶっきらぼうな言い方をするけど、すっごい優しい。


「球ちゃん、今日も髪可愛いねぇ」


「ありがと文ちゃん、文ちゃんもメガネ可愛いよ」


えへへぇ、と文緒ちゃんこと月ヶ原文緒ちゃんは照れたように笑う。

何処かぼうっとしていて、私が言うのもなんだけど何処か抜けてる女の子。


文緒ちゃんとは中学生の時に出会って、それからは私と、太陽、文緒ちゃん。3人ずっと一緒。かけがえのない友達って奴……恥ずかしいから2人には言えないけど、私はそう思ってる。


「よし、じゃあさっさと行くか」


「えぇ、私まだ息がぁ……」


「球ちゃんお茶いる?」


「いるー!」


「太陽ちゃんは?冷たくて美味しいよ」


太陽はその場で足を止めて、顔も動かさないまま黙考してたけど、ふいに文緒ちゃんの方にやけに紅い顔を向けて「ほしい」って小さな声でポツリと言った。


太陽は人に物をねだるのがとっても下手なのだ。




休憩もそこそこに私たち3人は高校へと続く道を並んで歩き始めた。


「ふんふんふふーん♪」


「ご機嫌だねぇ」


「だって入学式だよ?」


「入学式なんて小、中で充分経験したろ。あんなの校長のながーい話聞くだけだし」


太陽は素っ気なく言って、如何にも面倒くさいアピールな欠伸を1つ私に見せつけてきた。

しかし私は見逃さない、太陽の目の下に若干の隈がある事を


「そんな事言って、太陽昨日楽しみで眠れなかったんでしょ」


「は、はぁ!? ん、ンなことねーし。何テキトーな事言ってんだよ、入学式なんて楽しみにしてんのお前だけだっつの。なぁ文?」


太陽は文緒ちゃんの事を文って呼ぶよ


「桜、綺麗だねぇ」


「聞いちゃいねーし……お前も変わらずマイペースだよなぁ」


「でも、本当にきれーだね」


文緒ちゃんがあんまり上を見上げてるんで釣られて見てみたら、私も、太陽も思わず足を止めてしまった。


「桜ってさ、何でこんなにきれーなんだろうね……」


「さぁな……」


カシャリ、唐突にシャッターを着る音が響いた。横を見たら文緒ちゃんがニコニコ笑いながらスマフォの画面をコチラに向けてきた。

そこに映っていたのは、口をあんぐり開けて上を見つめる私と太陽。


まぁ、なんというかとっても残念な顔




「「「ぷふっ」」」


笑った、沢山笑った。

大した事じゃないんだろうけど、何でか面白くて仕方なくなって笑いが止まらなかった。


一頻り笑った後、例の写真は全員に共有され、トークツールの背景画像に設定され入学式には無事遅刻した。


▶▶▶


「それじゃあ皆さん、明日からよろしくお願いしますね。さようなら」


担任の女先生の挨拶が終わって教室から出ていったのを見届け、私は大きく伸びをする。


「球子、帰ろーぜ」


「んぁ、2人共もう準備したの? 早いねー」


伸びたまま顔を後ろに向けると、逆さまの2人が帰りの支度をして立っていた


「3人とも同じクラスで良かったよねぇ」


「そうだなー、まぁ私ら3人まとめて先生に目ぇつけられてるからな」


「でも担任の先生は優しそうだったよ。なんかフワフワしてた!」


2人とも、確かに。と笑いながら頷く


「アレで苗字も不破ちゃんだろ?名は体を表すって奴だな」


「わぁ、太陽ちゃん難しい言葉知ってるねぇ」


そんな会話をしながら教室を出て廊下を歩いてた私たちだったが、ふとある場所で太陽が足を止めた。


「……部活、か」


太陽の目の前にあったのは部活紹介の紙が貼られた掲示板。

私と文ちゃんは中学時代ずーっと図書委員をやってたから部活には参加してなかったけど、太陽だけは違って小学生の頃から陸上部に入っていた。

足もすっごく速くて、走ってる太陽はとても格好良かった。


「太陽」


「悪い、行こうぜ」


でも、太陽はもう陸上をやらないらしい。


「3人で図書委員しようよ、きっと楽しいよぉ?」


「あ、それ良いな!」


何でかは知らない、太陽は教えてくれない。


「なぁ、球子?」


「え、あ、うん。そだね!」


「なにボーッとしてんだよ、転ぶぞ?」


転ばないよ、って。軽くカバンを太陽にぶつける。幼なじみに秘密を打ち明けないバツ


いてーなー。太陽は笑う、文ちゃんも笑ってる。そして私も釣られて笑う。


内緒事はあるけれど、でもこの時間は間違いなくホンモノ。嘘偽りない時間


靴を履き替え、校門を潜ってから改めて校舎を見上げる。

朝は訳あってこんな事してる余裕が無かったけど、こうやって見るととても感慨深いって思う。


「おーい、行くぞ球子ー!」


「うん!」


きっと、コレから楽しい事が沢山待ってる。 続く

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球子プラネット シェンマオ @kamui00621

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