おつかい再び

 この日の試験も、私は無難に片付けた。埋められない部分は無かったし、中々高得点を期待できるはずだ。

 玄人と満雀ちゃんも手応えありで、ダメダメなのは虎牙だけのようだった。

 まあ、お決まりの展開だ。

 試験の感想は早々に終わらせて、私たちはこの日もゲームに興じた。

 オーソドックスなモノポリーゲームは、この日も満雀ちゃんが活躍し、勝利を収める。というか、私と虎牙がぶつかり合ってばかりなせいで、玄人と満雀ちゃんが楽にゲームを展開していけたという次第だが。

 ちなみに玄人は単純に運がなかった。

 ゲームが終わり、双太さんも帰ってきて。雨が降り出す前に帰ろうという流れになったので、私たちは片付けを始めた。手際良くゲーム盤をしまいこんでいると、


「そうそう、今日は永射さんの説明会があるみたいだけど……皆は行くのかな?」


 双太さんが訊ねてくる。


「私と玄人は行くことになってるわ。虎牙は?」

「俺は多分行かねえ。オヤジが行かないっぽいしな」

「佐曽利さんか。まあ、あの人はそういうことに興味がなさそうだ」


 虎牙の保護者である佐曽利さん。寡黙なタイプなので、私はあまり話したことがないのだけれど、双太さんはあの人と親しいのだろうか。まあ、生徒の親ならば懇談とかで話す機会もあるし、これだけ人口の少ない街だから、都会より接点が増えるのは自然なことか。

 

「病院で働いてる都合もあって、僕は行かないといけないから。まあ、聞いててもつまらない内容かもしれないけれど、また夜にね」


 双太さんの言葉を受けて、玄人に忠告する意味合いも込め、


「寝ないように頑張るわ」


 私は素っ気なく言う。よっぽど退屈な話なんだろうと悟った玄人は、


「そ、そうだね」


 と、苦笑いを浮かべながら答えるのだった。


「じゃ、ひとまずこれで解散ね。帰りましょ」

「うん。また明日ね、みんな」

「おう。満雀はのんびりしてろよ。どうせ下らねえ会だ」

「あはは、辛辣だね……」


 実際、私たちのような子どもにとっては下らないと思ってしまう会だ。大人になって、電波塔のありがたさを実感するときは来るかもしれないが、そのときはもう、説明会のことなんてきっと覚えていないだろう。

 とりあえず、今日は少しの間我慢しよう。それくらいに思いながら、私たちはそれぞれの帰路につくのだった。





 学校から帰宅し、簡単に試験の出来を報告してから昼食をとった。夏の暑さのせいもあり、この日はさっぱりした素麺だった。

 さっさと完食し、部屋に戻って休もうかというところで、お母さんが声をかけてくる。こういう場合は大抵、何かお願いがあるときなのだ。

 予想に違わず、お母さんは私に買い物を頼んできた。


「ちょっと説明会のことで、ご近所の人に呼ばれててねえ……龍美なら、千代さんもまけてくれそうだし」


 都会時代に貯め込んだお金があるのだし、値引きなんて気にしていないだろう。お父さんは勿論買い物になんか行かないだろうし、仕方ない。行ってあげるとしますか。

 毎度のようにお釣りは貰える筈だし、ついでだからムーンスパローの改良に必要な部品も漁ってみることにしよう。

 しばらく自室に引きこもり、ネットでアマチュア無線家のサイトを閲覧して、どんな部品があれば精度が良くなるかを確認する。ムーンスパローに足りていなさそうなものと合致する部品があれば、それを買ってアップグレードしなくては。

 十分ほどのネットサーフィンで、手頃かつメジャーな部品を発見できた。もしも秤屋商店に売っていたなら、買い物がてら一緒に購入することにしよう。

 時刻が二時になろうかというところで、私はお母さんからお金と買い物リストを受け取って家を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る