〔7000PV〕幼なじみに恋する俺が、義妹に惚れるなんて絶対にありえない。

しろき ようと。(くてん)

幼馴染にフラれる話

「嘘だろ……オイオイオイ……」


 俺――葉山葵はやまあおいは手元にあるスマホ画面を見ながら、そう呟いた。

 メッセージの通知欄。

 そこには一つ、新着メッセージが届いていた。






「――葵?私、彼氏が出来たんだ」






 突然だが俺には幼馴染の女の子――椎田日向しいだひなたがいる。

 家が向かい同士であり、同級生。そのため小さい頃から良く遊んでいた。

 更に、俺と日向の父親同士が中、高の同級生であり仲も良かったらしく、家族ぐるみでの付き合いも多い。連休には合同でどこかへ行ったりも当たり前だ。

 だから俺はほとんどの時間を日向と共に暮らしてきたと言っても過言では無い。

 でも、その関係がずっと続いたわけでは無かった。



 中学生の頃。周りの奴らが色恋沙汰に浮かれつく中。

 俺もまた、例外では無かった。

 その相手はまさに――幼馴染である椎田日向である。

 別に小さい頃から意識していたわけでは無い。でも段々と、日向の魅力に気付いていき――そう、恋をしたのだ。



 中学校内でも共にいることが多かった。でもなんとなく、それが気まずく感じるようになってから、俺は少し日向と距離を置くようになった。

 日向はそれをかなり気にしていたらしく色々と聞いてきたが、好きだと素直に伝えることが出来なくて、結局、段々と遊ぶことが少なくなってしまった。

 高校は一緒のところにすることになったのだが、クラスが違うってこともあり、今ではもうあまり喋らなくなってしまった。



 そんな日向からメッセージが来たのだ。

 それが、冒頭の「葵?私、彼氏が出来たんだ」ということだ。



 まぁでもそれは当然のことだろうと俺は思う。

 日向はとにかくかわいい。多分高校内での女子可愛さランキングを行えばトップ3入りは固いだろう。それほどである。

 それに、性格も良い。誰に対しても謙虚であり、真面目。学業に力を入れているが、部活動の活動も疎かにしない。

 いわば、高ハイスペック。

 そんな日向に惚れる男はごまんといる。勿論、イケメンなハイスペックな男も――

 その男と付き合うなんて容易に考えられる話なのだ。




 だけど。だけどさ。


 めっっっっっちゃ悔しいんですけどぉぉぉぉぉ!!!




 正直、平凡な俺からすれば日向は高嶺の花そのものだ。

 幼馴染で無ければ関わることが出来なかっただろう、そう思うほどに。

 ――でも心のどこかで「日向は俺といてくれる」という浅はかな考えがあった。

 俺は勉強机の横にある引きだしの二段目をあけ、奥の方からを引っ張り出す。



 ――あおいとひなたのしょうらい――



 いかにも子供っぽい字でそう書かれた表紙のノート。

 このノートには、小さい頃から中学2年の中頃まで「俺と日向が大きくなったらしたいこと」がびっしりと書かれているのだ。



 色々なことが書かれているから、正直、全部が全部を覚えているわけではない。

 でもそんな数ある中でたった一つだけ、どうしても俺の頭から離れられないものがある。

 俺はとあるページを開き、それを見つめる。



「――あおいのおよめさんになりたい」




 いつからなのかは分からないが、その言葉の上には、何重もの斜線が入っている。

「きっと、日向は俺に想いを伝えるのが恥ずかしかったんだな」と勝手に思い込んでしまっていた。



 本当は別の人が好きになったからだというのに――






「あああぁぁぁあああ!バカかよ俺!!!」






 頭を抱え、俺はそう泣き叫ぶ。

 ただただそうすることしか出来ない。

 叶わぬの願い。叶わぬの恋。

 でもどこか、やり切れない想いが生まれてきて。


 もし、どこかのタイミングで告白していたら――



「――にいさん、うるさい」



 慌てて後ろを振り返れば、そこには義妹の姿があった。

 ――葉山月乃。父さんが再婚した相手の連れ子。

 高校一年生で、俺の一つ下の年齢だ。



「部屋でゲームしてるから静かにして」



 淡々と、冷徹に。まるで吐き捨てるかのように。

 この子はあまり感情を表現しない。だからなのか、どこかサバサバしている。

 別に普段、そういう態度に不満を持ったことは無い。表面ではそうなのだが、根は家族思いだったりするからだ。それに一人の可愛い義妹なのだ。大切にしたい。

 けど今は違う。今の俺はそう、メンタルがボロボロなのだ。

 だから月乃のサバサバとした態度が心に鋭く突き刺さる。



「出てけよ……」

「?」

「だから俺の部屋から出てけって!」



 そんな言葉と同時に、手に持っていたノートを投げつける。

 そしてすぐに、ダメだと思った。

 俺の今の行動はただ、月乃に八つ当たりをしただけだ。

 幸い、月乃にノートは当たらなかったものの黙り込み、俯いてしまった。



「つ、月乃!ごめん!」



 俺は慌てて月乃を見上げ、謝罪する。

 が、黙り込んだままだ。



「えっと、その、今のは兄さんが全部悪い!ちょっと嫌なことがあって八つ当たりしてしまって……本当にごめん!」



 両手を合わしながら、精神誠意謝罪をする。

 すると月乃は相変わらず無表情のまま、そのノートを広いあげ、パラパラとページを捲っていく。

 俺はそんな光景を、黙って見つめていた。

 そして一番最後のページまで見終わった月乃は、パタンとノートを閉じる。



「にいさん、日向ちゃんのこと好きなんだ?」

「……はッ!」



 え!なんで分かったんだよ!



「これ見ればとーぜん」



 そう言いながら、月乃はペタンと床に座り、俺の方を見やる。



「にいさん、フラれちゃたんだ?」



 首を傾げながら問う月乃。まぁここ数分の俺の言動を見れば、そんなこと容易に分かるはずだ。



「フラれたっていうか……その、日向に彼氏が出来たみたいで……」

「フラれちゃったんだ」

「だからフラれてないって!」



 グイッと月乃に近付き、反抗をする。



「でも、結果的にはそーいうことになる」

「ま、まぁそりゃそうだけども……」

「……そんなに好きだったの?」

「へ?」

「にいさん、今ひどい顔してる」



 月乃に指摘され、やっと気付く。

 あれ?俺泣いてる……?



「これは!その、なんというか――」

「にいさん、無理しなくていいよ」



 そう言ってそっと軽く抱きしめて来る月乃。……あぁ、やっぱりこの子はとっても家族思いのいい子なんだな、そう改めて実感する。



「やっぱりどうしても好きだった。告白してれば、もしかしたら俺にもチャンスがあったかも知れないって思って……!」



 俺は月乃の優しさに甘え、思いを吐露していく。

 その際中、月乃は一切嫌な顔をせず、俺の話を聞いて、慰めてくれていた。

 そして、俺がひとしきり泣き終わった後――



「ありがとう月乃。お陰様で、ちょっと楽になった」

「そう。なら良かった」



そう言ってくれた。本当に月乃に感謝だ。

俺はふと、ノートを見やる。



「そのノートどうするかな。もう叶うことは無くなったし。でもやっぱり捨てるのはなぁ……」



俺は腕組みをし、深く考える。

なんやかんや、このノートは思い出のものだ。いくら日向と書いたものだからと言っても、捨てられない。

どうしようかと悩んでいると、横からふいに月乃声が聞こえた。



「私今、好きな人がいる」

「あえっ。そうなのか?」



初耳だった。あまり人との関わりを好まない月乃だからこそ、俺はかなり驚愕した。



「でも私、恋の仕方とか全然分かんない」

「そうだよな。俺も全っ然分からん」

「だからにいさん、私の相手になって」

「……へ?」



え、今何て言った?俺が相手になってって……



「このノートを見ながら勉強する。にいさんはそれの相手役をして」

「ちょ、月乃!勝手に話を――」

「にいさんはしたかったことが出来し、私は恋の勉強が出来る。一石二鳥じゃない?」



そう言ってグイッと距離を詰めて来る月乃。

鼻先と鼻先が当たりそうな――そんな距離。

ついドキリとしてしまう。でも、それは距離だけの問題じゃない。



月乃の表情。それは俺が今まで一度も見たことのない月乃の顔で――

そして月乃は、ニヤりと口角を上げ、まるで小悪魔のように囁く。








「私と、やろっか?」






追記

ご覧頂き、ありがとうございます。

こちらの作品は、ボチボチ更新をしていきたいなと思っております。

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