「口裂け女」起源異説

平中なごん

一 「口裂け女」の起源

 夕暮れ時の学校からの帰り道……


 真っ赤な服を着て、大きなマスクで口元を覆った若い女が、


「わたし、きれい?」


 と、唐突に尋ねてくる。


 そのいきなりの質問に、「きれいです」と答えると、


「これでも?」


 と言ってマスクを外し、その下に隠されていた、耳元までパックリ大きく裂けた口を見せつけられる。


 逆に「きれいじゃない」と答えると、包丁や鋏で斬り殺されてしまうらしい……。


 今の若い世代では知らない人も多いかもしれないが(著者も知ってはいるが、リアルタイム世代ではない)、これがある年代以上の人ならば誰もが知っている「口裂け女」の典型的な都市伝説である。


 この他にも三人姉妹であるとか、赤ではなく白い服を着てるだとか、100mを6秒で走るだとか、その話は派生的に様々なバリエーションを生みながら、長きに渡って語り継がれてきた。


 この日本で最も有名な都市伝説といっても過言ではない「口裂け女」、そもそもの発端は1978年12月に岐阜県で起きたウワサを皮切りに、1979年の春から夏にかけて突如として日本全国を席巻し、その影響力の強さから社会問題にまで発展した流言現象である。


 殊に当時の小・中学生にとってはまさに現実的リアルな物語であり、彼らを恐怖のどん底に突き落とした。


 ある地方は集団下校の処置がとられたり、はてはパトカーまで出動する騒ぎにまで発展したが、どういうわけか同年の8月にはそれまでの熱狂がまるで嘘のように、パタリとその騒動は消えてなくなる。

 

 一説に、まだインターネットやケイタイのなかった当時、夏休みに入ることで子供達の情報伝達手段が途切れ、流言の広がるインフラがなくなったためだとも言われている……。


 その後も1990年代になると美容整形手術や医療ミスの話題に連動し、その被害者=口裂け女であるという新たなウワサが広まるなど、幾度か再ブームが起きたりもしているが、現在のような高い知名度を得るに至ったのは、やはりこの1979年の何かに取り憑かれたかのような国民的大熱狂が原因であろう。


  「口裂け女」の正体については他にも精神病棟から抜け出した女性であるとか、飛騨のバス転落事故で亡くなった女性の亡霊であるとかいろいろ言われているが、

いずれにしても中京地域、特に岐阜県周辺がその発生源であり、現在、夏季限定で「口裂け女」をテーマにしたお化け屋敷の行われている岐阜市の柳瀬商店街などもその流れである。


 

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