64.クリスマス
朝食をとり、のんびりとソファーでくつろぐ。遥香は真剣な表情で読書を続けており、やることも無いので蓮也はニュースを確認する。
「……大雪警報か。大変だな」
どうやら隣の街では雪による被害が相次いでいるそうだ。せっかくのクリスマスなのに大変だななんて思いながら、蓮也は隣に目をやる。
「なんですか、さっきからチラチラと」
「いや、ごめん」
「謝らなくていいですけど、落ち着かないです。見るならまだじっとみてくれた方がマシです」
「わかった」
「見ろと言っているわけでは……ああもう……」
「ごめんって。ただ、せっかくクリスマスだからプレゼントでも買いに行こうかなって思って」
「相変わらずサプライズではないんですね」
「いい加減、そういうのに向いてないことがわかってきたんだよ……」
結局成功しないサプライズを企画するくらいなら、潔く遥香に選んでもらった方が正解だろう。もちろん蓮也もできればサプライズにしてやりたい気持ちはあるが、既に悩んだ末の決断なので仕方ない。
「でも、こんな寒いのに外に出るんですか?」
「また今度でもいいけど」
「うーん……いえ、せっかくなので行きます」
「わかった。今日はちゃんと着込んで行くぞ」
「そうですね」
お互いに準備を整えて、1時間後に出発した。
いつものショッピングモールへ。やたら楽しそうにされるので、蓮也は調子が狂ってしまう。
「どうかしました?」
「や、別に。なんか楽しそうだなって思っただけだよ」
「まあ、楽しいですし。プレゼントなんて無くても構わないんですよ。こうして2人で出かけるだけでも、私は満足なんです」
「そっか」
遥香はそう言うものの、蓮也は納得がいかないのでまずはのんびりとウィンドウショッピングをすることにした。
「なんか欲しいものとかの目処は?」
「強いて言うなら新しいマグカップですかね。お揃いとか、少しだけ憧れます」
「なるほどな……いいかもな」
「あ、でも2人でひとつのものを買うのもいいんじゃないでしょうか」
「というと?」
「お互いの共通の欲しいものを買うんです。何かあります?」
「特にないな……ならまあ、マグカップ買いに行くか」
「そうですね。蓮也くんが良いのなら」
とりあえず目的は決まり、店へと向かう。
道中でいろんな店を見てみたが、特に2人ともめぼしい物は見当たらなかったので、マグカップで決定した。
「どんなのにしましょうか?」
「遥香に合いそうなのがいいよな」
「私だけじゃ駄目ですよ。蓮也くんっぽさも大切です」
「わかったわかった。まあ、とりあえずのんびり見てみよう」
「そうですね」
態度にはあまり出さないが楽しそうなのは伝わってきて、つい頬を緩めてしまう。
見つめているとまた遥香に怒られてしまうので、蓮也もマグカップを見てまわる。シンプルなデザインからなかなか凝ったデザインまで、いろいろなものが揃っていて見ているだけでも楽しい。
「これなんて可愛らしいですね」
「いいな。あー、でもこっちの方が色合いが……」
「なるほど……あっちのも良さげですしね」
「これは長くなりそうだな……」
「ですね。でも、せっかくのクリスマスですしいいんじゃないでしょうか?」
「まあな。ゆっくり悩もう」
「滅多にない機会ですから」
それから、あれやこれやと話し続けた。
ようやく意見が一致し、購入を済ませた時には入店から2時間程経っていた。
「今度はもうちょっとコンセプトとか決めてからにするか」
「さすがに長すぎましたね。でも、納得のいく物が買えてよかった」
「だな。それは俺の部屋に置くんだよな?」
「そうさせてもらう予定です。あ、今置いてるのが邪魔なら持って帰りますので」
「いや、全然大丈夫だ。ていうか、食器棚は遥香が好きなように使ってくれて構わない」
「そのつもりです。まだしばらくは一緒にあの部屋で過ごさせてもらいますよ」
「当たり前だ」
というか、蓮也もそのつもりでいた。むしろ蓮也は遥香がいてくれないともう何も出来ないので、離れると言われたら引き止めるつもりですらいた。
「帰ったらなにかしますか? せっかくですし」
「そうだな……」
やりたいことがないわけではない。せっかくだしなにかいつもはしない事をするのもいいだろう。だけど、一番やりたいのは今は決まっている。
「とりあえず腹減ったな」
「ふふっ、わかりました」
にこにこと笑う彼女は可愛らしくて、守ってあげたくなる笑顔だ。なんとなくその笑顔を離したくなくて、蓮也は遥香を少し抱き寄せる。
「わっ!?」
「なんでもない。いやなら離れろ」
「い、嫌じゃないですが。驚きました」
「ヘタレだと思ってたか?」
「ヘタレじゃないですか。そこは認めてください」
「なんだと?」
「私にちゃんと好きって言ってくれなかったり、一緒に寝てくれなかったり。思い当たる節が無いとは言わせませんが」
「うっ……」
そう言われると弱い。前者はともかく、一緒に寝ること自体がおかしい気がすることには黙っておいて。
「……蓮也くんも、ちょっとくらい勇気を出してくれてもいいんですよ?」
「そうだな……じゃあ、一緒に住むか?」
「えっ?」
「ん?」
蓮也の隣を歩く遥香は、驚いたというよりは、ついにとち狂ったものを見るような目で蓮也を見る。
「な、何言ってるんですか? 馬鹿ですか?」
「多分、今とそんなに変わらないけど」
「変わりますよ。蓮也くんが私を抱きしめて寝てくれたり、朝は……その、おはようの……うぅ……」
「いろいろとおかしい。遥香の同棲カップルへの偏見はどうなってるんだ?」
「……してくれないのも、それはそれで寂しいですが」
「まあ、偶にならな……?」
「ば、馬鹿ですか!?」
「どっちなんだよ……」
もはや言動が矛盾してきている。遥香も自覚があったようで、深呼吸をして落ち着かせている。
「……思い出はゆっくり作ればいいんですよ」
「だいぶ話変わったけど。まあ、そうだな。かなりゆっくりな方だと思うけど」
「このマグカップもひとつの思い出ですよ?」
「そりゃそうだ」
これからも少しずつ、2人でなにかをしていけたらいいななんて。そんなことを思いながら。
「で、同棲に関しては?」
「それは……一応、お父さんたちに相談ですね」
「まあいるよなぁ……うちの両親は快く承諾してくれそうだけど」
「たしかに。蓮也くんより私を娘にしたがってる気がします」
「それはない」
「ふふっ、そうですか。じゃあ、早くプロポーズでもしてくださいな?」
遥香は悪戯っぽく笑う。
プロポーズなんてしたら照れるのは遥香だろうに、なんて思いながら、蓮也は遥香に足並みを合わせて帰路に着いた。
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