27.クリスマス

 告白の決意をした数日間、結局踏み出せずにいた。そうこうしているうちに冬休みに入り、今日は十二月二十五日となる。クリスマスだからといって、蓮也も遥香も特に予定もない。尤も、遥香は男女両方から誘いがあったらしいが、すべて断ったそうだ。


「雪でも降ればロマンチックなんですけどね」

「そうだな……」

「クリスマスケーキでも作りましょうか」

「そうだな……」

「蓮也くんなんて嫌いです」

「そうだ……よな……」

「ご、ごめんなさい嘘です!」

「いや、こっちこそごめん。ちゃんと話聞いてなくて」


 告白をしようと決めていても、遥香が蓮也をどう思っているのかは気になる。しかし、普段の行動からそれは読み取れないし、読み取れるほど蓮也は観察眼に優れているわけでもない。


「最近ずっと上の空ですね」

「まあ、ちょっとな……」

「なにかあるなら、私に言ってくださいね」

「……後で言う」


 後で。退路は塞いだ。これで逃げる訳にはいかなくなった。


「まあいいですけど。それで、クリスマスケーキは作りますか?」

「いいんじゃないか?ㅤ手伝うよ」

「ありがとうございます。なら、早速材料を買いに行きましょうか」

「そうだな」






 案の定というべきか、街中はカップルでいっぱいだった。

 蓮也は遥香から貰った手袋とマフラーを着けているので暖かく、遥香もそれなりに防寒はしている。


「ふふっ」

「ん?」

「いえ、使ってくれるんだなぁって」

「そりゃ使うけど……?」

「蓮也くんって、無自覚に人を喜ばせるのが得意ですよね」

「そうか?」

「そうですよ」


 ケーキを作る材料なんてわからないので、蓮也はただ買い物かごを持って隣を付いて歩くだけになっている。


「晩御飯はローストチキンにしましょうか」

「いいな。楽しみだ」

「ふふっ、頑張りますよ」


 蓮也にその熱量が伝わるくらいに、遥香は張り切っている。作る機会も少ないだろうから、張り切る気持ちもわかる。蓮也は作れないのだが。

 必要な物を買って店を出る。遥香は荷物を持とうとするが、蓮也はそれを渡そうとはしない。


「持ってくれるのはありがたいですが、重くないですか?」

「全く」

「そうですか。まあ、それならお願いします」

「おう。ところで、俺に手伝えることってあるか?」

「うーん……手伝えないこともないですが、結構です。私一人でできますよ」

「なら、下手に手は出さないでおこう」

「はい」


 言葉を濁してはいるが、おそらく手を出すと邪魔だろう。帰ったら蓮也がするべきことをすることにしよう。






 帰宅後、遥香は早速作業に取り掛かっていた。蓮也は部屋で課題をすることにしたのだが、そんなものは全く手につかない。


「好きだ……?ㅤ好き、です?」


 こんなことを考えてる時点で情けない話ではあるが、蓮也の人生初めての告白である。緊張はするし、臆病にもなる。


「あなたのことを愛しています……? いやいや、重いだろ。ないな」


 告白の仕方は大切だという余計な緊張が蓮也の頭を悩ませる。ありのままの気持ちを伝えるというのも、意外と大変なものだ。


「好きです」


 蓮也が一番しっくりくる伝え方はこれだった。変に飾るより、一言だけを伝えたい。それならこの一言で十分だから。

 あとは、一歩勇気を出すだけだ。






 しばらくして部屋から出ると、遥香がいた。にこやかな表情で、どうにも調子が狂ってしまう。


「ご飯、出来てますよ。呼びに行こうかと思っていたところです」

「あ、ああ……えっと……」

「はい?」

「……ごめん、晩御飯食べてから話す」

「はぁ。それじゃあ、食べましょうか」

「そうだな、そうしよう」

「「いただきます」」


 結城蓮也という人間は本人が思っているより臆病ならしく、どんどん引き伸ばしてしまう。しかし、さすがにもう逃げ場を作ることはできない。

 これ以上考えていると自分への言い訳を考えそうになった蓮也は、遥香が作ってくれたローストチキンを堪能することにした。


「美味い」

「それは良かった。頑張った甲斐があります」

「ほんとに、わざわざありがとう」

「いえいえ、好きでやってるので」


 会話が繋がらない。そもそも食事の時間はいつも会話はそこまで多いわけではないのだが、蓮也が普段よりも緊張しているため上手く話せない。しかし、遥香にそんなことは関係ない


「やっぱりさっきの話が気になるので聞かせてもらっても?」

「無理だ。待ってくれ」

「余程大切な話なんですね……」

「……大切といえば、大切だと思う……」


 よりハードルを上げてしまった。






 そして、夕飯を食べ終えてしまった。


「さて、聞かせてください。一体なんの話ですか?」

「ちょっと待て。ちょっとだけ待ってくれ」


 情けないとは思うものの、緊張と不安は拭えない。むしろ、先程下手に大切なことと言ってしまったせいで、蓮也の精神状態はぼろぼろである。


「ゆっくりで構いませんよ」

「月宮遥香、さん」

「は、はい?ㅤなんです……」

「あなたが好きです」

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