28.返事

「あなたが好きです」


 本当に自分が放った言葉なのかすらわからなくなる。しかし、遥香の反応を見るに蓮也はしっかりと伝えられたのだろう。


「……ケーキ持ってきますね」

「えっ?」


 遥香は早足で席を立つ。

 聞かなかったことにしてくれる、ということだろうか。しかし、この反応は明らかに蓮也の告白を受け入れるものではない。つまり、蓮也はフラれてしまったということだ。文化祭の後聞いたのも、きっと別の意味だったんだろう。

 テーブルに突っ伏して、今後のことを考える。幻滅されてしまっただろうか。もう、今と同じ生活は送れないだろうかという後向きな思考が蓮也を支配していく。

 十分ほどそのまま項垂れる。遥香が遅すぎる。

 部屋を見渡してみると、遥香の姿は無かった。

 考えてみれば当然の話だろう。遥香が蓮也の傍にいたのは隣人だから。そして、蓮也が遥香に好意を抱いていなかったから。蓮也が遥香に興味がなかった、他の人とは線引きができた人だったからだ。蓮也が好意を持っていると知ってしまえば、遥香は蓮也と関わろうとはしないだろう。


「……寝よ」


 寝てすべて忘れよう。今日だけじゃなく、二年生になってからの事を全部。一年生の頃はすべて自分でやっていたのだ、元に戻るだけで何も変わらない。

 また、遥香に関わろうとは思っていなかった頃の蓮也に戻ればいいんだ。

 部屋に戻る。すると、そこにはさっき蓮也が告白した相手がいた。


「えっ?ㅤちょっと待ってくださいね私。蓮也くんが私を?ㅤ聞き間違えじゃなくてですか?ㅤん?」

「何してるんだよ……」

「きゃあっ!?」

「いって!」


 枕を投げつけられる。投げつけられたのは枕だけじゃなく、その後当たっても危険がないものはいろいろと飛んできた。


「なんでノックのひとつもしてくれないんですか!?」

「いやここ俺の部屋だし……てっきり帰ったのかと」

「返事もせず帰るわけ……いえ、ほんとは一度帰ろうとしました。ごめんなさい」

「そ、そっか。うん」


 返事をする気はあったらしい。


「すぅーはぁ……」


 深呼吸をしている。ここまでしなければいけないほど、遥香はしっかりと返事の仕方を考えてくれているようだ。


「私も、あなたが好きです」


 遥香が言葉を紡ぐ。

 聞き間違いだと思った。さっきまでいろいろとネガティブな思考を続けていたからだろう。

 でも、遥香の目はしっかりと蓮也を捉えて、離さなかった。


「本当に……?」

「こんなところで嘘をつくほど私の性格は悪くありませんが……」

「そ、そうだよな、うん。ごめん」

「蓮也くんこそ、冗談とかじゃないですか?ㅤ本当に私のこと好きですか?」

「と、当然だろ。好きだ。愛してる」

「恥ずかしいことを堂々と言わないでください!」


「うぅ……」と顔を真っ赤にする遥香はとても可愛らしくて、その顔を見ると蓮也の緊張はいつの間にか消え去っていた。


「なににやついてるんですか」

「いや、やっぱり可愛いなって」

「またそういうことを……」

「でも、ずっと思ってたから」


 いつの間にか遥香の事を可愛いと思うようになって、いつの間にか好きになっていた。それからはずっと、遥香の事が可愛くて、好きで仕方なかったのだ。


「……ちなみに、いつから?」

「夏休みに入る前ではあった」

「早くないですか?」

「それだけ遥香は可愛かった」

「もう……さっきからなんか遠慮なく言いますね」


 遥香はよく蓮也のいいところはたくさんあると蓮也を褒めるが、蓮也は照れくさくてそれが出来なかった。せっかくお互いが好き同士だとわかったのなら、褒めさせてくれてもいいだろう。


「蓮也くん」

「ん?」

「私が蓮也くんの彼女でいいんですか?」

「もちろん。というか今はもう遥香以外見れない」

「……良かった」


 そう言って遥香は立ち上がり、蓮也に歩み寄る。そして抱きついた。


「大好き」

「お、おう……」


 もう想いを隠さなくてもいい。蓮也が遥香のことを好きだということも、遥香を手放したくないことも隠さなくていいんだ。


「ずっと一緒ですからね?ㅤこう見えて私って結構めんどくさいかもしれませんよ?」

「大丈夫だ、俺もかなりめんどくさい男だから」

「それなら安心ですね」


 2人で笑い合う。ふと目が合い、動きを止める。そのまま、蓮也は遥香の唇に自分の唇を重ねた。

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