17.体育大会、競技決め

 二学期には2つの行事がある。ひとつは学期末にある文化祭、もうひとつは中間テスト後にある体育大会だ。今は放課後だが、その体育大会の出場種目を決める時間になっていて、委員長が割り当ての紙などを取りに行っていた。


「蓮也くんって、運動は出来るんですか?」

「いや……最近はランニングも怠ってるしな」

「そういえば、初めてオムライスをあげたときもランニングに行くときでしたね」

「そういえばそうか。なんか懐かしく感じるな……」

「もう半年も前の話なんですね……」


 あっという間に過ぎていた気がするこの半年という時間だが、蓮也にとっても遥香にとっても大きな時間になっていた。4月までは話したことすらなかったのだ。


「ああ、本題を忘れるところでした。蓮也くんは体育大会、種目どうしますか?」

「余ったところに適当に入る。まあ全く動けないわけでもないから、当てられたもんはとりあえずいけると思う」

「ふふっ、期待してますね」

「なににだよ」

「蓮也くんの活躍次第で私が楽できるかもしれません」

「酷いな」


 この学校の体育大会はクラス単位でグループが分けられているので、蓮也と遥香はどうやっても同じチームになる。そんな話をしていると、委員長が戻って来る。


「えーっと、種目なんだけどやりたいのある人から決めてこっか」

「っしゃ俺リレーいくわ!」

「んじゃおれも!」


 元気な運動部の生徒はあれやこれやと騒いでいる。そもそも蓮也も遥香も体育大会の種目すら覚えていないので、話し合いに参加することも出来ないのだが。


「結城くんと月宮さんはどうするの?」

「俺は余ったのでいいよ」

「私も余り物に出ます」


 全員出場種目が多いので、個人種目に関しては1人一つだけ出れば良いらしい。だから、蓮也と遥香は必要最低限の種目にだけ出ることにした。


「えっと、ほとんど決まってるし今日いない子とかのを考えると……2人が出れるのは二人三脚と借り物競走、あとは障害物競走かな」

「あーごめん、あたし障害物競走」

「俺借り物競争で」


 横から口を挟んできたのは悠月と翔斗だ。まだ決まってなかったらしい2人が競技を選んだことで、必然的に二人三脚が残る。


「まあいいか……相手は誰なんだ?」

「いないよ?」

「は?」

「聞いてなかったの? 高2の二人三脚は男女混合だよ」

「はい?ㅤとなると、私のペアは……」

「結城くんってことになるね」

「おい翔斗。変われ」

「やだね。俺も悠月もそんな痴態晒す競技出たくねーし」

「てことでがんば。大丈夫だって2人なら出来る」

「何を根拠に……はぁ、遥香?」

「はい?」

「もう選択肢残ってないけど……俺とペアで二人三脚、で問題ないか?」

「問題ないです。いえ、問題はあるんですが」

「むしろ問題しかないよな……」


 意外と遥香は落ち着いていて、二人三脚に出場すること自体に不満はないらしい。


「じゃあもう二人三脚は俺と遥香でいいよ」

「ほんとにいいの? あれだったら、今日話し合いに参加できてない子に変わってもらうとか…」

「だって。どうする?」


 遥香は首をふるふると横に振っている。首を振ったことで若干乱れた髪を蓮也がそっと直す。


「だそうだ」

「あ、うん。なんか2人なら大丈夫そうだね」

「何を根拠に……」

「雰囲気かな」


 どの辺りが大丈夫に見えたのかは全くわからない。しかし、蓮也もやる気に満ち溢れている訳では無いとはいえ、できることは精一杯やるつもりなので、二人三脚ということなら少しでも仲はいい方が得だろう。


「それじゃあ、そういうことでよろしくね」

「おう」






「そういえば、他のクラスの二人三脚の出場者は練習を始めていましたね」

「もうしてるのか。俺たちもするか?」

「そんなことよりも中間テストの勉強ですかね」

「同感」


 遥香は学問を第一だと考えているし、蓮也も成績は落としたくないので当然の答えだった。とはいえ、日々の復習はしているし、何度か2人で確認もしているのであまりすることもない。

 台所を動き回っていた遥香は、一段落ついたのか蓮也の横に座る。ただし、いつもよりも近い、肌が密接するような距離で。


「近くないか?」

「に、二人三脚ではもっと近いですよ……練習です、練習」

「そっか。確かに二人三脚で恥ずかしいとか言ってられないよな」

「お、落ち着いてますね」

「遥香との距離感なんて今更な話だろ。一応このくらいの耐性はできた」

「……えいっ」


 遥香は蓮也の体を抱き寄せ、自分の膝へと寝転がらせる。遥香のストッキングの感触が蓮也の頬で感じられて、途端に顔が赤くなる。


「遥香?」

「私だけ恥ずかしいのはずるいのと、この前の仕返しです」

「仕返しって……」


 密接することには多少慣れはしたものの、この状況は恥ずかしい。それは蓮也だけではなく、遥香の顔もまた真っ赤になっている。むしろ、ダメージは遥香の方が大きいようにも見える。


「そろそろ解放してほしい」

「嫌です。道連れですよ」

「そんなこと言ってていいのか?」


 遥香が蓮也を制止させていた腕をいとも簡単に払い除けて元の体勢に戻り、そして今度は蓮也の膝に遥香の頭を置く。今度は頭なでなでのオプション付きである。


「うぅ……」

「髪、さらさらだな」

「そういうこと言わなくていいですから!」

「ごめんごめん。しかしまあ、ここ数日で俺は何回遥香を膝枕するんだろうな」

「知りませんよ。でも……」


 そう言って、遥香の顔はまた一段と赤くなる。心做しか膝から伝わってくる遥香の体温も少し上がったような気もする。


「蓮也くんの膝は落ち着くので、またしてくれたら……嬉しいです。嫌じゃなければ、ですけど……」

「嫌ならこんなことするかよ。遥香がしてほしいことなら、なんだってするから」

「そ、そうですか……至れり尽くせりですね」

「そりゃこっちの台詞だ。ほんと、いつも悪いとは思ってるんだけど……」

「好きでやってるので」

「そう言うから、まだ遥香に甘えてようと思う」

「はい。いっぱい甘えてくださいね」

「なんか意味合いが違う気がするけど……」


 遥香に母性溢れる声でそんなことを言われて、蓮也もたまには遥香に全力で甘えてみようかと思ったが、やはり柄じゃないとひとり葛藤するのだった。

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