第33話
「エメロードよ。我は永い永い時を生きてきたのだ。そのなかで自分の子を憎んでいた親もいたし、自分の子に関心がない親もいたのだ。だから、シルヴィアの親がシルヴィアに興味がないというのもあながち間違いでもないであろう。」
「そんなっ・・・。」
プーちゃんの言葉に私は衝撃をうけた。
親が子供を愛さないだなんてそんなことがあるのだろうか。
ましてや子供に興味を示さないだなんて。
とても信じられない。
「人間というのはとても不思議な生き物なのだ。育った環境にもよるのかもしれないが・・・。」
プーちゃんの言葉に「ああ・・・。」とため息がでた。
そう言えば私が前世で暮らしていた日本という国でも、育児放棄が話題になっていたっけ。
自分の子供を殺してしまう親もいたっけ。
信じたくなくて目を背けてきたけれど、たしかにそういう事実はあった。
「シルヴィアさん・・・。」
私は知らない。
親に愛されない子供の気持ちなんて。
でも、想像することはできる。
今の父さんと母さんが私をさけずんだ目で見て、私を罵っている姿を想像する。
それはとても胸が張り裂けるように痛みを感じた。
これが産まれた時からずっと続き、常にそのなかに身をおかなければならないというのは、とても苦痛だろう。
私はそっとシルヴィアさんに近づく。
そうして、シルヴィアさんの前で膝をつき、シルヴィアさんの頭を抱き締めた。
「ごめんなさい。謝って許されることではないけれども。私はあなたを傷つけてしまった。」
私がシルヴィアさんに触れたとき、シルヴィアさんは一度ビクリッと震えた。
でも、それ以上はなにも言わなかった。
「それに、あなたを不老不死にしてしまった。ごめんなさい。」
「うぅ・・・。」
「ねえ、シルヴィアさん。それでもあなたは人に愛される権利があるわ。きっとあなたを愛してくれる人がいる。」
綺麗事かもしれないけれども、誰にも愛されないだなんてそんなのは悲しすぎる。
「あなたを愛するその存在に、私が、立候補してもいいかな?」
シルヴィアさんをこのまま放置することはできない。
そう思って声をかけていた。
「・・・私は、あなたを傷つけたわ。」
小さなシルヴィアさんの声が聞こえる。
「知ってる。でも、私はシルヴィアさんを嫌いになれない。」
「・・・私、誰かに愛されたかった。・・・みんなに愛されるエメロードが憎かった・・・。」
「・・・うん。」
「みんな・・・みんな誰かに愛されていて・・・私だけ、誰にも愛されていなくて・・・。だから・・・こんな世界なくなってしまえばいいって・・・。」
「うん・・・。」
悲観しても仕方がないことだろう。
シルヴィアさんは、少しずつ邪竜を産み出してしまった過程を話してくれた。
「・・・そうしたら、ランティス様が言ったの・・・。優しくない世界を一度壊して、二人だけの優しい世界を作ろうって・・・。初めて私に優しくしてくれたランティス様の誘いを断れなかった。」
「・・・そう。」
シルヴィアさんはそう言ってわんわんと泣き続けた。
ランティス様がなぜ、世界を壊そうと思っていたのかはわからない。
ランティス様がいなくなった今、その事実を知るものはいない。
そして、なぜシルヴィアさんの精霊の卵から邪竜が孵ったのかもわからない。
これに関してはシルヴィアさんも信じがたいことだったらしい。
シルヴィアさんを実家に帰すには忍びないということで、シルヴィアさんは誰もシルヴィアさんを知る人がいない田舎に行くことになった。
これはシルヴィアさんたっての希望だ。
迷惑をかけた学院にはもういられないと。だけれども、学院を卒業しないで実家に帰ったら家から追い出されるとシルヴィアさんは語った。
そこでプーちゃんがシルヴィアさんに提案をしたのだ。
「シルヴィアよ。おまえは我の血を飲んで不老不死となった。」
「・・・はい。」
「何をしてもシルヴィアは死なないだろう。ただ、心は死ぬ可能性がある。今のシルヴィアに必要なのは心の静養なのだ。」
至極まっとうなことを珍しくプーちゃんが言った。
確かに今は静養した方がいいだろう。
「そこで、だ。行くところがないのであれば我が昔一緒に住んでいた人間のところに行かぬか?あれは、シルヴィアを笑顔で受け入れてくれるだろう。」
「・・・いいんですか?」
「うむ。」
プーちゃんの提案にシルヴィアさんはすぐに頷いた。
「ただ、ちょっとばかし田舎なのだ。」
「あれは、ちょっとは言わぬぞ。かなりの田舎じゃ。」
精霊王も知っているところなのか、話に加わってきた。
「っていうか、プーちゃんが昔世話になっていた人ってまだ生きていたの!?もう死んでいるかと思ったわ。何年まえのことなの?」
田舎というところも気になるが、以前プーちゃんが一緒になって過ごしていた人というのも気になる。
その人のお陰でプーちゃんが母親を探していたんだから。
「ん?何年前だっただろうか?100年前か?」
「200年は経っているんじゃなかったかの?」
「そんなに、前だったか?」
「妾も一度帰るのじゃ。」
どうやらかなり前のことで、詳しくは覚えていないようだ。
と、いうか。そんなに生きていたら人ではないのではないだろうか。
思わず頬がひきつってしまった。
まあ、そんなこんなでシルヴィアさんはそのプーちゃんの知り合いがいる田舎に行くことになった。
それには精霊王も一緒についていくらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます