第24話

 


目が覚めたらそこには見知らぬ天井が・・・いや、良く見知った天井だった。


最近よく目にする天井だった。


どうやらここは高等魔術学院の寮のようだ。


さっきまで職員棟にいて邪竜と相対していたのに、なぜ寮の自室にいるのだろうか。


あれ?


そう言えば邪竜はどうなったのだろうか。


アクアさんは・・・?


トリードット先生は・・・?


ジェリードット先生は・・・?


メリードット先生は・・・?


みんなどうしたのだろうか?


ムクッと寮に備え付けられているベッドから起き上がると、窓から外を見た。


窓から見える外の景色は真っ黒だった。


いや、真っ暗だった。


夜空には星が浮かび、王都の街の煌びやかな明かりが見える。


いつも通りの夜・・・のように見える。


まるで邪竜が孵化したことが夢だったかのように。


時計の針を見ると午後8時を指していた。


「ぐぅーーーーーーーっ。」


時間を認識してしまったからか、急にお腹の虫が騒ぎ出した。


「ご・・・ご飯。お腹空いた・・・。」


いつもの日常に戻ったようで、まるでとても恐ろしい夢を見ていたようで思わずお腹が減ってきてしまった。


そう言えば今日はお昼ご飯を食べてからなにも食べていなかったということに思い至る。


しかし、この時間に寮の食堂はやっているのだろうか。


いつもは6時過ぎには食堂に行っているのでこの時間に寮の食堂がやっているかわからないのだ。


ただ、事情を説明すればきっと何かしら用意してくれるかもしれないと思い、部屋を出て食堂に向かう。


道中すれ違う生徒たちの視線がなぜか痛かった。


そうして、どうして私を見てみんなヒソヒソ話をするのだろうか。


なんだか、みんなからの視線が集まってきているようでとても歩きづらい。


「あっ!エメロードちゃん。もう起きて大丈夫なの?」


部屋を出て少し行ったところで、アクアさんに出会った。


アクアさんは心配そうにこちらを見ている。


「うん。えっと・・・よく覚えていないんだけど、邪竜はどうなったの?先生たちは無事・・・?」


目覚めてから不安に思っていたことをアクアさんに尋ねる。


するとアクアさんは目を大きく見開いた。


「まさかっ!エメロードちゃん覚えてないの?」


「えっと・・・。うん、なんだかよくわからないんだよね。邪竜と相対していたところで記憶が途切れているんだよね。気づいたら、寮の自室で寝ていたの。」


「ああ~。そっか、そうなっちゃったのかぁ~。」


アクアさんは額に手を当ててガックリと項垂れた。


えっと・・・。


いったい私、なんかしたのだろうか。


覚えていなきゃいけないことがあったのだろうか。


「あのね。邪竜はエメロードちゃんが育てた卵から孵化した始祖竜が倒してくれたんだよ。ほんとうに覚えてないの?」


またまたアクアさんってば冗談がキツイんだから。


私の精霊の卵から孵ったのが始祖竜だなんて、そんな子供でも分かる嘘をつかなくてもいいのに。


「・・・信じてないわね。」


アクアさんが大きくため息をついた。


「ちょっとこっちに来て・・・。」


「えっ?わっ・・・。」


それから私の腕を取ると、さっさと歩きだす。


私はアクアさんに引きずられるような形でアクアさんの後ろについて行くしかなかった。


ずるずるとアクアさんに引きずられていった先は職員棟でした。


ここに一体なにがあるというのだろうか。


「あの・・・一体?」


「ちゃんとしっかりと現実を受け止めなさい。」


そう言ってアクアさんはズンズンと職員棟の中を進んでいく。


そうして、たどり着いたのは邪竜と相対した場所だった。


そこには、小さな白い蛇がとぐろを巻いて眠っていた。


その目にはうっすらと涙が見える。


泣いていたのだろうか。


いいや、蛇が泣くなんて聞いたことがない。


「この白い蛇がどうかしたの・・・?」


アクアさんが連れてきてくれた場所には蛇が一匹いるだけだ。


それ以外は誰もいない。


「この白い蛇・・・もとい始祖竜はエメロードちゃんの精霊の卵から孵ったんだからね。可哀相だから覚えておいてあげて。始祖竜・・・プーちゃんはエメロードちゃんのことを母親だと思っているんだからね。」


「えっ・・・。始祖竜・・・。」


アクアさんが説明してくれるが、いまいち頭に入ってこない。


いや、だって始祖竜だよ。始祖竜。


おかしいでしょ。始祖竜が卵から孵るだなんて・・・。


「・・・エメロードちゃん。それ一回やってるから。とにかく現実を受け止めなさい。」


アクアさんがそう言った瞬間、私の頭の中に卵から孵るプーちゃんの姿と邪竜に向かっていく雄姿が浮かび上がってきた。


ああ。


そっか。


夢じゃなかったんだ。


本当に私、始祖竜の母親になってしまったんだね。


と、実感ができた。


実感は出来たけど、納得はできないけれど。


「プーちゃん。ごめんね。泣かないで。こっちにおいで。」


私はしゃがみ込んでプーちゃんに手を差し出した。


すると、とぐろを巻いていたプーちゃんの顔がむくりと起き上がり、私を視界に入れる。


その瞬間、シュルシュルという音を立てて、プーちゃんが私の手のひらに乗ってきた。


ほんのりと冷たく滑らかな感触が手のひらに伝わってくるが、不思議と気持ち悪いとは思わなかった。


「そなたは我の母なのだ・・・。我の存在をなかったことにしないでほしいのだ。」


プーちゃんは泣きはらした目でそう告げた。


なに、これ。


こんなに可愛い存在が、始祖竜なの?


嘘でしょ。


これじゃあ可愛いペットなんだけど。


「ふぅ。仲直りできたようね。ちょっとうざかったのよね、プーちゃん。ずっと泣いてて。もう、傍から離しちゃだめよ。エメロードちゃん。」


「え・・・。あ、うん。」


始祖竜に向かってうざいと言うなんてアクアちゃん、すごすぎ。


 


 




 


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