第15話

 


「あーあ。もう、泣いちゃだめだよ。エメロードちゃん。君はとっても可愛いんだから、泣いているより笑っている時の方が僕は好きだな。ほら、笑って笑って。」


「へ?」


アクアさんらしからぬ発言に思わず間の抜けた声がでてしまう。


そうして、思わず出かかっていた涙が驚きで引っ込んでしまった。


「ぷっ。かわいいね。エメロードちゃん。」


クスクスと可憐にアクアちゃんが笑うものだから、思わず私もつられて笑ってしまった。


「えへ。えへへへへ。」


「ふふふふふ。」


「はあ・・・っ。」


アクアさんと二人してニヘラニヘラ笑っていると、ジュリードット先生の盛大なため息が聞こえてきた。


「あんたたちね。イチャイチャするのはよそでやりなさい。目の毒だわ。」


「ほっほっほっ。美少女二人が楽しそうに戯れているのは目の保養だと思うがな。」


「いっ!!イチャイチャしてた覚えはありませんっ!!」


「ふふふっ。ほんとうにエメロードちゃんは可愛いわねぇ。」


からかってくるジェリードット先生とトリードット先生に思わず声を荒げてしまう。


イチャイチャだなんてそんな、そんなはしたないこと・・・。


っていうかアクアさん女性だし!


って!!アクアさん抱きしめないで!!


ジェリードット先生とトリードット先生の生暖かい視線がいたたまれないから。


慌てている私をからかうように、アクアさんは私を正面からぎゅーっと抱きしめて頬ずりしてくる。


ふぁっ。アクアさんから漂ってくる匂いがとってもいい匂い。


少し甘いけれども爽やかな香りは私の好むものだった。


「はいはい。アクアさん、エメロードさんを放してあげて頂戴。彼女、混乱して今にも倒れてしまいそうよ。」


「しょうがないですねぇ。」


ジェリードット先生の助け舟により、やっとアクアさんが私から離れてくれた。


「うぅ・・・。」


「エメロードさんも落ち着いてちょうだいな。」


ポンポンっとジェリードット先生の手が私の頭を軽く叩く。


「そうじゃな。遊んでいる場合ではないな。ハッキリとさせたいことがあるしの。」


さっきまでほのぼのと私たちのやり取りを見守っていたトリードット先生が急にまじめな顔つきになった。


そうだよね。


アクアさんが目覚めたんだもの。


邪竜のことを一刻も早く聞かなければならないよね。


「目が覚めたところさっそくで悪いがの、アクア嬢の精霊の卵にヒビがはいっておった。心当たりはあるかの?」


トリードット先生が至極真面目にアクアさんに問いかける。


アクアさんはその綺麗な顔を歪めながら答えた。


「手紙で呼び出されたのよ。エメロードちゃんに関する重大な話があるからって。」


「え?私?」


アクアさんの言葉にビクッとする。


まさか、アクアさんの精霊の卵にヒビが入ってしまう原因の一つを私が担っていたなんて・・・。


「だいたい誰が手紙を書いたか想像できたわ。それに、最近あまりにもエメロードちゃんに対する態度が酷いから一言言ってやんないと気が済まなくて手紙で呼び出されたところに行ったのよ。」


「まさか・・・。」


私への態度が酷い人なんて私が黒い卵を持っているから学院のほぼ全員だ。


だけれども、その中でもある一人を除いては私を無視するだけにとどめている。


その一人とはシルヴィアさんだ。


シルヴィアさんは私へことあるごとに嫌味を言ってくる。


「そう。シルヴィアよ。もう敬称つけなくっていいわよね。」


アクアさんは私が想像した通りの人の名前を告げた。


「ああ、シルヴィア嬢か。あの真っ白い卵が邪竜じゃったのか・・・?」


見慣れない真っ白い精霊の卵。


でも、白という色は清廉なイメージから悪い精霊が生まれてくるなど到底思いもしなかった。


「邪竜?いいえ、シルヴィアしかいなかったわ。私と二人っきりになったところでシルヴィアの胸元から黒い煙のようなものが飛び出てきて、私の精霊の卵を目掛けて来たのよ。で、胸に強い衝撃を受けて情けないことに私は意識を失ってしまったわ。」


「そうかそうか。邪竜の姿は見なかったか・・・。」


「黒い煙・・・。まだ邪竜は産まれていないのではないかしら?邪竜ほど強い精霊ならば産まれていなくても強大な魔力で相手を傷つけることも可能かもしれないわ。」


ジェリードット先生の言葉に私たちは衝撃を受けた。


まさか、卵から孵る前に他者に影響を与えることができるほどの魔力を持っているとは・・・。


「まことに邪竜ならば、その可能性は大いにあるのぉ。」


「トリードット先生?毎日シルヴィアさんを見ていたのでしょう?気が付かなかったの?」


ジェリードット先生はトリードット先生に詰め寄る。


確かにトリードット先生は毎日シルヴィアさんと会っていたはず。


その時に前兆のようなものはなかったのだろうか。


「うむぅ。多少性格に難はあると思っておったからの。警戒はしていたのじゃが・・・。」


「昨日までは兆候がなかったのね?」


「うむ。昨日までは精霊の卵に異常はなかったのじゃ。」


「シルヴィアさんを呼び出して精霊の卵を調査する必要があるわね。」


ジェリードット先生はそう言って踵を返して治癒室から出て行った。


 


 


 




 


 


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