第2話
目を開けると、そこには知らない天井があった。
なぁんてことさなく、いつもの見慣れた私の部屋の天井が目にうつった。
どうやら、誰かが気を失った私を私の部屋まで運んでくれたらしい。
でも、そんなことはどうでもいいのだ。
それよりも、あの茶トラの猫はどこにいったのだろうか。
もう、いなくなってしまったのだろうか。
ベッドから起き上がり辺りをキョロキョロと見回す。
しかし、茶トラの猫は見当たらなかった。
それもそうだろう。
庭で会った猫が、部屋の中にいたらおかしいだろう。
伯爵家で飼っている猫ではないのだから。
「・・・あれ?」
猫のこともだけれども、なにか大切なことを忘れているような気がする。
なんだっけ?
う~んとその場で考え込む。
なんか、猫と会ったときに重要な何かがあったような・・・。
「あっ!!?」
すっかり忘れていたが、そう言えばあの茶トラの猫と目があった瞬間に過去の出来事を思い出したのだった。
猫をモフりたくてすっかり忘れてた。
私としたことが。
私は頭を大きく横に振る。
私が思い出した過去の記憶とは、前世の記憶だ。
猫が大好きで大好きで仕方のない私はいつか保護した猫を飼うことが夢だった。
しかし、その夢は叶うことがなかった。
なぜならば、私は重度の猫アレルギーだったことが判明したのだ。
それは、保護猫の譲渡会の日のことだった。
私は念願の一人暮らし用のマンションを借りる契約をして、猫を飼ってもいいようにちゃんとペットOKの部屋をかりたのだ。
そして、猫のためにケージやベッドやおもちゃなどもウキウキした気分で取り揃えた。
そうして、いざ譲渡会に参加をしたら、会場に入った瞬間に身体中が痒くなった。
それだけでは収まらずに、次第に頭が痛くなってきて吐き気まで催してしまったのだ。
このまま譲渡会の会場に入ったら倒れてしまうかもしれない。
そう思った私はすぐに踵を返したのだが時すでに遅し。私はその場で呼吸困難に陥り倒れてしまったのだ。
次に目覚めた時の記憶は知らない真っ白な天井だった。
死んだのかと思って愕然とした。念願のモフモフな猫に触る前に死んでしまうなんてと絶望した。
まあ、死んでなかったんだけどね。
病院に運びこまれて、病院のベッドの上で目を覚ましただけだった。
でも、その病院で私は死ぬより辛い絶望を目の前に突きつけられたのだった。
どんな絶望かって?
それは、私が猫アレルギーだったということがわかったのよ。
おかげでもう、猫に触ることもできなくなってしまったし。念願の保護猫を飼うということもできなくなってしまった。
だって、近づくこともできないくらい重度のアレルギーなのだから。
猫をさわりたいのに。
猫をモフりたいのに。
猫のお腹にすいつきたいのに。
どうして、私の願いは叶わないのだろうか。
お世話になった病院から退院して、戻ったのは猫を飼うためにと選び抜いて借りたマンション。
近くに評判のいいどうぶつ病院があることも確認したし、近くのお店にグレインフリーの猫のご飯が置いてあることも確認したのだ。
あ、もちろん着色料もつかってないご飯ね。
準備を万端に備えたのに、どうして私の身体は猫アレルギーになんかなってしまったのだろうか。
マンションの一室で呆然と座り込む私。
もうすべてがどうでもいいような気がしてきてしまった。
たかが猫を飼えないくらいでおおげさなと言わないでほしい。
私にとっては唯一の希望で唯一の夢だったのだから。
それが潰えた今、私はどうしていいのかわからなくなってしまった。
そうして、スマホで保護猫たちを見る。
今日行く予定だった譲渡会でぜひ会いたい保護猫がいたのだ。
茶トラの目がくりっとした可愛い猫。
保護猫なのに、写真でみるかぎり毛並みがとってもいい猫だったのだ。
一目惚れだったのだ。
この子と一緒にすごしたいと思っていた。
その譲渡会を開催していた保護団体では寄付を募っていた。
だから私は思わず寄付をしてしまったのだ。
茶トラの猫が幸せになれるようにと願って、その保護団体に貯金していた全額を寄付してしまった。
気づいたのは寄付をしてしまった後。
自分の生活費まで寄付してしまっていたことに気づいたのだ。
いくら猫アレルギーでショックを受けたからといってボーッとしすぎだった私は生活費すらも寄付してしまっていた。
事情を話せば、寄付金の一部を返してくれるかもしれない。
そう思ったが、私は返してもらいたいとは思わなかった。
あの猫が幸せになれるのならば、私なんてどうでもいいと思っていたのだ。
私は一文なしのまま夜の街をさ迷った。
しばらくさ迷っていると前方から強い光が私をとらえた。
それとともに、パッパーーーーッ!!!!というけたたましいクラクションの音が聞こえた。
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