アスパラ星人

東山九郎

アスパラ星人

「お嬢ちゃん」


いきなり声をかけられ、下校中のK子ちゃんは立ち止まった。

声のした方を振り向くと、そこにいたのは全身緑色の背の高い人物だった。

人物という表現は正しくないかもしれない。

全身緑色というのは、緑の衣服を身にまとっているという意味ではない。

衣服を着用せずに剥き出しになっている皮膚そのものが緑色だったのである。

"それ"が人間ではないことは、K子ちゃんにもすぐに分かった。


「あなたは誰なの?」

K子ちゃんが尋ねると、"それ"は答えた。

「私はアスパラ星人」

「アスパラ星人?」

「そうさ。アスパラ星に住むアスパラ星人だよ」

「あたしに何か用?」

「ああ。お嬢ちゃんに警告しておこうと思ってね」

「警告?」

「お嬢ちゃん、アスパラは好きかい?」

「嫌い。野菜は全部嫌いなの」

「そう、お嬢ちゃんはアスパラが嫌いだね。だから、お嬢ちゃんに警告しておくよ。我々アスパラ星人は、宇宙の全ての生き物にアスパラを愛して欲しいと思っているんだ。そのためには手段は問わない。近いうちに、アスパラ嫌いの子供たちをアスパラ星に連れて行き、毎日アスパラ漬けの生活をさせようと計画している。」

「そんなの嫌よ」

「だったら、アスパラ嫌いを克服するんだ。」

「分かったわ。あたし、アスパラをちゃんと食べる。頑張るわ」

「ありがとう。嬉しいよ」

アスパラ星人は微笑みながら消えていった。


それから、K子ちゃんは見事アスパラ嫌いを克服した。

アスパラ星に連れて行かれないことに安堵したし、アスパラを克服したことはK子ちゃんの自信にもなった。

何より、母親に苦手を克服できたことを褒めてもらえたのが一番嬉しかった。



「お嬢ちゃん」


下校中のK子ちゃんはまた声をかけられた。

振り向くと、そこには全身緑色の背の高い人物が立っていた。


「あっ!アスパラ星人さんね。聞いてよ。あたし、アスパラを食べられるようになったの」


得意げに話すK子ちゃんだったが、"それ"は不思議そうな顔をして言った。


「何を言っている。私はインゲン星人。我々インゲン星人は、宇宙の全ての生き物にインゲンを愛して欲しいと思っているんだ。そのためには手段は問わない。近いうちに、インゲン嫌いの子供たちを……」

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