第22話 細かいことは省くがこの町は滅亡する
時は少し遡る。
幽体離脱した私がお兄ちゃんの家に迫るストーカーに憑依した時のことだ。
「た、たすけてぇええええええ! 身体が! 身体が動かないぃ!」
「助けてじゃないのよ! おらっ! 二階堂サトルとの関係を洗いざらい喋りなさい!」
ストーカーの身体を路地裏まで走らせて、人気のないところで金縛りにした私は、そのストーカーから尋問を行っていた。
「違うんです! 違うんです! 高校の頃たまたま同じ学年の図書委員だったんですぅ! それでなんかこう、ちょっと話をするようになったりして、大学が夏休みで里帰りしたらなんか久しぶりに会ったからお話したくてぇええ!」
「お話したかったら連絡先に一声入れるもんなんだよぉ!」
「だって案外塩対応だったからぁあああああ!」
「諦めろば~かっ! なんでマンションの回りをウロウロしてたんだ! そもそもなんで今まで連絡しなかったぁ! ど~~せ大学一年生の夏に適当な男をキープして有耶無耶にして別れて寂しくなったんだろうがああああ!」
「びぇええええ!」
「泣くんじゃねえッ! 話が分からねえだろうがぁああああ! 図星かぁ!? そんなあまっちょろい根性でこの世界に入ってきてるんじゃあないよっ!」
弱いものを一方的に蹂躙するの! 楽しい! 楽しい!
そう思っていた時に、奴は現れたのだ。
「あらあら大丈夫ですか?」
佐々木サクラ。
将来の妹候補や彼氏の前で被るべき猫、その全てを捨て去ったありのままの姿で。
一目見ただけで分かった。霊体になっていたからこそ分かったというべきかもしれない。この女は危険だ。
肌がピリピリして、鼻の奥が痛くなって、頭の中は熱くなる。
憑依していたストーカーから一時的に離脱して様子を伺うことにした。
「おばけが」
「おばけ?」
「幽霊が、身体が、勝手に……!」
「まあそれは恐ろしかったですね」
お姉ちゃんはストーカー女の肩に手をおいて優しくさする。
何をしている? この女、一体、何を。
「ひん……ぐすっ」
「こんな時間に外を歩いていては危ないですし、どこか明るいところに行きましょう?」
「は、はい……」
お姉ちゃんはストーカー女を連れて駅の方へと歩きだす。
「地元の方じゃないですよね? なんでこんな時間に外を出歩いていたんですか?」
「元々こっちの方に住んでいたんですけど、大学進学で離れてたんです……」
「まあ、じゃあもしかしてこの近くの高校に?」
それからは鮮やかなものだった。
お姉ちゃんはストーカー女と仲良くなり、連絡先と個人情報と最近のお悩みの内容などを事細かに聞き取った。
それはいい。だが問題はその時に喫茶店に居た相手だ。この前、私が大人の姿になった時に声をかけてきた怪しげな男女が! さりげなくお姉ちゃんの席の傍に居た! しかもアイコンタクトだけで礼をしていた! そして!
「……これでまた救われる人が増えますね」
ストーカー女と別れて家へと帰る途中、空を見上げて嬉しそうに呟いた彼女の笑顔を、私は終生忘れないだろう。
*
現在、私はこう説明を締めくくる。
「サクラお姉ちゃんが思った以上の強敵だったことには驚いたわ。まあそれはさておきね。その諜報活動の途中でお兄ちゃんとお姉ちゃんがサークルの旅行に行くっぽいことが分かったのよね」
「ちょっと待って」
「なに?」
「サクラさんに関わるのはやめたほうがいいんじゃないか?」
まあ確かに危険な相手かもしれないが所詮人間だ。
人間風情が魔女っ子に敵う訳がないのに、パパは何に怯えているんだ?
「女の子には秘密があると思わない? まあでも情報を握っておいて損はないわよね。サクラさんがやべえカルトに関係しているって分かったらお兄ちゃんもドン引きよね!」
「そ、そうだね。君の危機感の無さにパパはドン引きだ。サクラさんについては保護者としてパパが調べておくから、そのサークル旅行について追いかけておくといいよ。少なくともこれまでは無害だった訳だし、今まで通りの調査ならそう問題ないはずだよ」
まあパパが私に協力してくれるのは珍しいし、ちょっとくらいならばいいかもしれない。
「うん!」
「それで、お兄ちゃんのサークルの合宿先ってどこだい?」
「町外れの古いお屋敷でね。名前は確か……オービット邸? 古い洋館を改装した研修施設って……」
「……………………」
「パパ? なんで嫌そうな表情してるのパパ?」
「合宿は何時だい?」
「
「いかん……!」
「ちょっと説明してよパパ! 一人で深刻そうな顔しないでくれない?」
パパは深くため息を吐いた。
「説明しよう……この町は滅びる」
「え」
こいつ、なにを。
「えぇ……ええー!?」
なにを言っているのよ!?
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