病で弱らせれば勝てるわね!

第16話 病める時に側に居たら実質結婚みたいなところない?

 ホムンクルス騒ぎから一週間が経った。私はちょっと生命の尊さを学び、簡単に生き物を使った実験をしてはいけないと思うようになった。

 そしてもう一つ、大切な事に気づいた。


「ベッドで目を覚ました時お兄ちゃんが居て……惚れそうになった。つまり時代は看病って訳よ!」

「ゆみちゃんまたなんか言ってる」

「パパァ! なんか無いの!?」

「はい、邪視じゃし用眼鏡」

「ジャシ? 私、眼は悪くないんだけど」

「これはね。相手を見るだけで呪う“邪視じゃし”と呼ばれる魔術を再現したアイテムなんだ。この眼鏡をかけてジーッと見つめるだけで相手の体調は悪くなるのさ」

「完璧!」


 つまりこれを装備してパチッとウインクでも決めてやればお兄ちゃんは軽く体調を崩して私を頼らざるを得なくなる。そんなところに私がスッと手を差し伸べればお兄ちゃん戦争の勝利者って訳ね。勝てば後からいくらでも言い訳できるもの。手段を選んでいられないわ。


「じゃあ(今回もどうせうまくいかないだろうから)早速試してみると良い。ほら、パパが実験台になってあげよう」

「なんかすごい含みを感じるわ」


 私は眼鏡をかけて、目の前のパパに向けてパチリとウインクをしてみる。

 ドゴ、と鈍い音が響いてパパが椅子ごと吹き飛び、壁に叩きつけられた。

 ……は?


「ちょ、ちょっと!? パパ!?」

「まさかこれほど基礎的な邪視でここまでの威力を出すとはな。君の性根の悪さが伺える……!」

「父親ァ!」

「本来、思念、すなわちニューロンの発火を機械で収束して電磁パルスを発生させることで、狙った相手の自律神経の失調を誘引するだけの装置なんだが、君の場合は抱える思念が莫大すぎるせいで収束すると物理的破壊力を伴ってしまうようだ。パパに恨みあった?」

「えっ、そりゃ年頃の娘なら父親に対して思うところくらいあるけど、私はパパに愛されて育ってるし……別に……あ、さっきのあの謎の含みを感じる発言に若干イラッと来たかも知れないけど別に、わたし、そんなつもりじゃ……」


 パパはドン引きの表情を浮かべる。

 こっちがドン引きだ。一体何が起きたらああなるんだ。


「そ れ だ け」

「そ、それしかないわよ!?」

「それだけの感情でこの威力出るの……!?」

「そういうこと!?」

「いや、すごいことなんだよ。君は呪いの天才だ。他人にそれだけ巨大な悪感情を抱きながら特に警察沙汰も引き起こさずそこそこ普通の日常を送っているのは誇るべきことだと思う。ちょっと怖いだけで」

「そういう事言う?」


 ちょっとイラッときただけだった。

 ベコッと音が鳴り今度は天井の壁がバレーボールサイズに凹む。

 私は思わず小さく悲鳴を上げる。パパが信じられないものを見る顔で天井を眺めている。どうやらパパが何かの防御をしたらしい。


「ま、まずは眼鏡を外そう」

「そ、そうね……ごめんなさいパパ。痛くなかった?」


 もしかしてパパが吹き飛んだのも相当頑張って防御した結果なのではないだろうか。そう考えるともしかして私……とってもすごい?


「痛かったけど君は悪くないから気にしなくていいよ。いいかいゆみちゃん。それはすごい才能だよ」

「こ、この眼鏡は危ないしまた今度で……」

「逆だよ。今のうちに訓練をしないと君はその力で誰かを傷つける」

「な、なんか眼鏡のパワーを制限して使うとかできないの?」

「君が制御するんだ」

「わ、私そんなことできないよぉ!」


 パパはそれを聞くとにっこりと笑う。


「君は天才だ」

「そ、そうなの?」

「自慢の娘だ」

「そ、そうかなぁ?」

「そのうち、パパよりずっと凄い仕事をするようになるだろう」

「褒め過ぎだよぉ~!」

「君に眠る可能性は無限大だからね」

「ちなみにこれを使って作戦通りお兄ちゃんといい感じになる確率は?」

「…………」


 無言である。


「できないと思ってる?」

「いや、まあ、できなくはないと思うが……ゼロではないという意味だが」

「が?」

「正直、魔道具を使うのは効率が悪いと言うか……普通に愛情表現を行って心を引き寄せる方が良いと思うんだが、僕としては君が魔道具を使ってくれた方が後継者の育成にあたっては都合が良いし、君自身が秘めた力をコントロールする訓練にもなるし、いきなり力が暴発して巻き込まれた人が死ぬよりもずっとマシだと思ってこれらの道具を渡しているが……」


 何やらすごい早口でボソボソ言っているがいまいち要領を得ない。


「話が長い! つまり?」

「試す価値がある」

「よっしゃあ!」

「あ、ごめんゆみちゃん。ちょっとお買い物行ってきてくれるかな。普通に寒気が……風邪かもしれない」

「えっ!? 大丈夫!?」

「これはすぐ治るから、代わりに買い物行ってきてくれない?」

「はーい。今晩は美味しいもの作ってあげるねパパ」

「おやおや、それは嬉しいな」

「元気になって私の技の練習台になってもらわなきゃいけないから!」

「おや、おやおやおやおや」


 こうして私の新たなる戦いは始まった。

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