逝かれる身勝手な4人の転生者たち

ちびまるフォイ

すべて…私がやりました……

走るトラックの前に3人の男たちが飛び出した。

急ハンドルをしたトラックは横転し3人は下敷きになってしまった。


「やったー! これで死んで転生できるぞ!」

「ふぉふぉふぉ。やっと転生してピチピチギャルとわっほいできるぞ」

「これで転生して悪役令嬢としてイケメンに囲まれれるわ!」


三者三様の辞世の句を読み切ったあとでお互いに顔を見合わせた。


「え? 転生するのは俺だけど?」

「何言っとるんじゃ若造」

「レディファースト知らないの?」


そこに運転手が這い出てきた。


「てめぇら……なに急に出てきてんだよ……。

 仕事もぱあで、お前らのせいでこの先投獄生活じゃねぇかぃ!

 こうなったら死んでやる! 死んで異世界トラック運送業にでも……」


「待て待て! 勝手に死ぬな! 転生するのは俺だ!」

「ワシじゃ」「あたしよ!」


4人は誰もが異世界に夢を見ているため怪我を治す気などなかった。


「落ち着いて考えよう。みんなの怪我の具合はどうなんだ。

 誰が一番最初に死ぬのかを考えれば転生優先度もわかるだろう」


「若造。お前はまずどうなんじゃ」


「俺はトラックに下半身を潰されてもう感覚がない。

 今は気力で保っているが、いつ死んでもおかしくない重症だ」


次に最年長のおじいちゃんが話し始めた。


「わしはトラックにぶつかった衝撃で骨がバッキバキになっておる。

 まあ、今でこそ気力で命をつなぎとめているが、いつでも死ねる状況じゃ」


「あたしはトラックにぶつかったときに化粧が落ちたわ。

 今でこそ気力で命をつなぎとめているけど、いつでも死ねる」


「オレぁ、お前らをはねた衝撃でむち打ちになった。

 今は根性で命をつなぎとめているが、まあいつ死んでもおかしくないな」


「お前ら転生譲る気ねえだろ!!」


全員が気力でもって命をつなぎとめている謎の状況だった。


「それじゃこういうのはどうだろう。

 おそらく一番重症の俺が一番先に死んで、女神のもとへいく。

 そして、あんたら3人も転生できるように計らっておくよ」


「バカ言うんじゃないぞ! 若い奴らは年寄りをいつも騙す!

 そう言って、本当はひとりだけ転生して女神とイチャイチャする魂胆じゃろう!」


「そうよ! 男はみんな嘘つきなのよ!」


「てめぇ見てぇな常識人ぶったやつが一番怪しいんだ! この転生スケベ!」


「じゃあどうしろっていうんだよ!!」


トラック運転手は「そうだ」とひらめいた。


「オレ様がこいつを見張ってやる。勝手に転生するのは許さねぇ。それでいいだろ?」


「まあ、二人ならお互いを監視できるかのぅ」

「裏切ったら絶対に許さないから!」


「うっし、それじゃ死ぬとするか」

「そんな電車にでも乗る感覚で死ねるの?」


むち打ち運転手と上半身だけの男は、保っていた気力の糸を手放して死んだ。

やってきたのは親の顔より見た女神の転生部屋。


「ようこそ。あなたは神の手違いで死んだ……え!? なんで2人?!」


しかも野郎×野郎という組み合わせに女神は面食らった。


「実はその事故で4人が死んでしましまして」


「いや、そんな大規模な事故じゃなかった気もしますが……」


「とにかく、あと2人も転生させる必要があんだよ姉ちゃん!」

「ひぃ、ごめんなさい!」


人間に恫喝された女神は縮こまった。


「あのぅ、転生というのは実は1回しかできないのです。

 個別に4回転性はできず、まとめて1回しか転生させられないんです」


「んだと? トラックの下敷きになってる残りの2人はどうするんだよ?」


「たとえば……ここに4人を連れてきて、4人同時に転生させるのはどうでしょうか」


「なるほど」

「それなら文句ねぇわな」


「では、ちょっと行ってきます」


「待て待て待て! そういって、俺たち二人を残すつもりじゃないだろうな!?」


「そんなことしませんよ! たくさん転生させたほうが女神内申点もプラスになるんですから」


「いいや、女神は嘘つきだとネットに書いてあったからな。

 テレビじゃ報道しないかも知れないが、ネットじゃ出てるんだ!」


「神への冒涜ですよぉ!」


女神は泣き出してしまったので、男たちは筋肉で相談した。


「女神が1回しか使えない転生ゲートを開かないかどうか監視役を立てるか」

「だな。もしもゲートを開こうとしたら、"コレ"で阻止しろ」


相談の結果、下半身を潰されていた上半身直結男が女神の監視役として決定。

女神とともに現実世界に再度復活した。


トラックの下で談笑していたおじいちゃんと女は死んたはずの男が復活したことに驚いた。


「な、なんじゃあ!? 復活しおった!!」

「それにそっちの人はだれよ!?」


「みなさん、私は女神です。今、背中に銃を突きつけられています」


「どういう状況じゃて……」


「俺から説明するよ」


下半身のない男は自分たちが天界で会議したあれこれを2人に伝えた。


異世界へのゲートは1度しか使うことができないこと。

そのために4人を集める必要があること。

自分は女神の裏切り防止のための監視役で現実に戻ったこと。


「それで銃を女神につきつけているのね」

「下手な動きをすればズドン、だ」


「これだから! これだから人間は!」


女神は内申点欲しさに、あさましき転生者を呼び込むんじゃなかったと後悔した。


「それじゃ転生をよろしく頼むぞ」

「あたしも死ぬからちゃんと女神の転生部屋に連れて行ってよね」


「ま、待ってください! 他にも問題があるんです!

 死後に天界へ行けるのは一度に3人までなんですよ!」


「は?」


男は人数を数えた。

自分と、女と、最年長のおじいさん。3人。


「変なことを言って俺たちをあざむこうとするな。

 あんたは俺たちが死んだときに、ちゃんと天界に届けて

 そして転生ゲートを開けばそれでいいんだ」


「ですから、3人しか送り込めないんです。転送魔法も1度しか使えなくて……」


「うるさいな! いいから早く天界に3人を送れ!! 撃ち殺すぞ!!」


「ひぃぃごめんなさい!!」


女神は転送魔法を唱えた。

監視役の男と、つぶされた女と、最年長のおじいちゃんは天界へと召された。





まもなく、警察が事故現場に駆けつけた。


現場には現実世界に取り残された女神がひとりで泣き崩れていた。

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