西瓜の赤い色は…

平中なごん

序 思い出すあの夏

 あの日と同じに、今年もまた暑苦しい蝉の鳴き声が鼓膜にへばりつくように聞こえている。


 あれからもう何年も経っているし、あの時、確かに何かがあったと言えるわけでもないのだが、毎年この蝉の声を聞く頃になると、なぜだか僕はあの年の夏のことを不意に思い出してしまう。


思い出すにしても、その間の記憶はどこかふわふわとしていて、まるで白昼夢でも見ていたかのように朧げにしか憶えてもいないのだけれども……。


 これは、僕がまだ大学生だった頃の一夏に経験した話である――。

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