第17話 研一郎の瞑想

その発電設備製作者の二人は、全く世間の騒ぎを気にせず研究所で一機目の製作をしていた。

既に一度一機目を完成させ、二機目を製作中に研一郎が突然「中止」と宣言し、瞑想状態に入ってしまった。

こうなったらジェニーにもどうしようもない。

何がきっかけかとジェニーは考えた。

二人で話しをしながら組み立てをしていた。

ジェニーが「父があれ程の技術を盗みに来る者たちが必ず出てくる、一箇所であれば警備も容易いが51箇所、今後、世界中となれば警備も簡単ではない」と言い、「大丈夫よ、盗まれても分解しようとすれば内部溶解するだけだから」と答えたと研一郎に言った少し後に「中止」と言って固まったのだ。

ジェニーは研一郎が何か防衛手段を考えたのではないかと予想した。

ジェニーは食事の用意をして待つ事にした。

研一郎はこの状態の後、とても空腹になるからだ。

ジェニーは誰かの言葉を思い出した。

人間の身体で一番エネルギーを消費するのは頭脳だと言うものだ。

ジェニーには、実感が無かったが研一郎のような天才の頭脳はエネルギー消費も普通人とは違うのだろう。

研一郎は机に向かい紙に何かを書き、考え込み、白板に式を追加したり書き換えたり立ち止まり窓の外を眺めたりしていた。

実際、研一郎は窓の外の景色を見てはいない、只、顔が窓を向いているにすぎない。

ジェニーは研一郎のこの思考に集中する姿が大好きだった。

話し合う事は出来ないが見ているだけで幸せだった。

研一郎の考えの手助けもしたいが何度もこの理論の説明をされたが理解できなかった。

理論の記憶はしているが理解はできていなかった。


プロトタイプを一族に披露した夜、研一郎が、ジェニーに語った。

この理論の発案者は研一郎の兄で、その理論を式にしたのが自分である、と、兄は峰岸 雄一と言った。

ジェニーは、その名前に聞き覚えがあった、彼女がそう言うと彼が言った、

「兄は今度の、日本で始めての有人宇宙船のパイロットですからね」と答えた

「あ、思い出した、そうそう工業大国日本にしては遅いと思っていました」

「資金不足ですよ、工業大国と言っても人口はアメリカの半分ですからね、当然、予算も少ない、宇宙船のような大事業には何年分もの資金が必要です。

それで、これまでは、実利的な通信衛星や観測衛星の打ち上げに限定されていました。

その実績を生かし海外の衛星打ち上げで資金を蓄え今回の宇宙局だけの資金による有人宇宙船が完成したのです。

その一号パイロットですから世界中のニュースに名前が出ているでしょうね」

「でも、名前が違うわ」

「両親が離婚し、兄は父に私は母に育てられました。

でも二人は仲が良かったので、連絡は絶やしませんでした。

二年近く前に兄からこの理論の話を聞き、私は驚きました、とても興味が沸きました。

兄は理論を数値化しようと努力したが出来ないと言ってきました。

昔から兄は空想家で私は実存的でしたから、それに兄は既に宇宙局の人間で突飛な理論を発表する訳には行きませんので、私に数値化し発表してほしいと依頼してきたのです。

私は兄の理論を数値化する為に考えました。

参考になればと日本の大学の講演も聴きました、でも無駄でした。

従来の理論の中だけでした、そこでアメリカの大学ではとやって来たのですが、やはり、アインシュタインの理論からは抜けていませんでした。

もう私には自分の頭脳に頼るしかありませんでした、考えに考え更に考え、式を作りました、後は実証試験だけでした、でも資金がありませんでした、そんな時、あの教授の講演の事を知りました、後は、君の知っての通りです」

「お兄さんは、あなたが式を完成させたと知っているの」

「知っています、式も伝えました、後は実証試験が必要だと言っていました、でも、君のおかげで実証試験が出来ました」

「えぇー、実証試験が出来たの、何時、何処で」

「プロトタイプを稼動させた時ですよ」

「へぇー、じゃアインシャタインの法則は間違いなのね」

「いえ、間違いではありません、限定された式なのです」

「じゃー、やっぱり光より早く飛べないの」

「そこは、不十分と言うべきですね、光より何倍も早く飛べます」

「じゃじゃ、早く宇宙船を作りましょうよ、ね、ね、ね」

「無理ですね、高重力に絶える構造と高熱に絶える外壁の開発が必要です、最もエンジンの設計は済んでいますが、後は、開発と建造の費用ですね」

「貴方は、お金の心配は必要ありません、そちらは私に任せて下さい、さあ、寝ましょう、それとも、まだ元気、私をまた夢の世界へ連れて行ってくれる~」

「好いでしょう」と二人は・・・


研一郎の兄が考えた理論とは、単純な発想からだった。

地球が太陽の周りを回り太陽は銀河系の中心を軸に周り銀河系は銀河団の中心を軸に回っている。

逆に小さく見ると原子の中で核の周りを電子が回っている。

地球と銀河団のように原子も最細かく見られれば何かの周りを回りそれがまた何かの周りを回っているのではないか。

また、光は粒子の性質と波の性質を持っている様に見えるがそれは光を最速と見る者の見方で原子を三次元と数えるならば、より微細な四次元の物質、粒子が三次元の粒子に与える影響が光の姿となって我々に見え、更に微細な五次元の粒子の三次元粒子への影響が重力ではないか、又、時の流れとは、三次元の粒子が四次元粒子へ、四次元粒子が五次元粒子へと変換、崩壊、変異する事ではないか、と言う理論だった。

この理論を元に研一郎は式を求めた、この理論では、出せる速度は利用する次元の粒子次第で無限である。

時間とは、崩壊であるから時間を遡るタイムトラベルは不可能である、この条件を満たす式を研一郎は考えたのだ。

この式によれば、鉄10グラムも必要とせず地球を崩壊させる事ができた。

研一郎は、その事に気づき講演を途中で中止し式の発表を控えたのだった。

あの講演での理論を理解する者がいれば、そして、それを軍事利用すれば大変な事になると研一郎は懸念していた。


研一郎が物思いから覚め、いつもの様に空腹を訴え、ジェニーは準備してあった、果物とコーヒーを出した。

「今回は、長かったのね」

「心配をかけましたか」

「少し、1日半ですから」

「えぇ~、そんなに、お腹が空いている訳だ」

「はい、それで、今回のお土産は、な~あ~に」

「これ」と研一郎は言って数枚の紙を渡した。

その紙には、数式と図形と材料が書かれてあった、ジェニーには、材料しか解らなかった

「これで何ができあがるの」

「それはね、・・・秘密、楽しみは先の方が良いでしょう」

と言って研一郎は野菜サンドにかぶり付いた。

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