ミスタースパンキーゴールド

エリー.ファー

ミスタースパンキーゴールド

 私は彼のことを良く知らないし、別に知ろうとも思わない。

 でも、この町で彼の名を知らないものはない。

 ミスター。

 ミスタースパンキーゴールド。

 連続殺人鬼だ。

 もう、十何人殺されてしまった。

 皆、悪人ばかりだったものだから結果として町の治安はよくなったらしいのだけれど、それでも死体が増えるのは不安の一要因になる。

 まぁ。当たり前か。

 悪人たちは皆、戦々恐々、しかし、町から出ていくとなると、そこは悪党としての名が廃ってしまう。出ようにも出られずこの町の中に閉じ込められてしまっているというそんな状況。

 でも。

 よくよく考えてみれば。

 私もそうだし、町の皆もそうなのだが。

 ミスタースパンキーゴールドにとって悪人がどういう定義なのかが分からない。いや、悪人ばかりを殺しているというだけで無差別殺人の線も捨てられないのだけれど。

 でも、そこがやたらに重要なのだ。

 ミスタースパンキーゴールドに目を付けられる理由を自分から作りだしたくはないし、できる限り避けていたい。

 例えば、横断歩道を無視するのはどうなのだろう。高校生の頃コンビニで万引きをしたことは。友達とふざけあって人の家の窓ガラスを割ってしまったこと。数えだせばきりがない、小さな悪行。

 でも。

 私にとっては些末なのだ。

 そう。

 私にとってはということでしかない。

 そのことは分かっている。

 分かっているのだけれど。

 だからこそ。

 怖い。

 この町には殺人を犯した人間たちが何人かいる訳だけれど。

 しかし。

 彼らはミスタースパンキーゴールドには殺されていない。

 対して、空き缶をポイ捨てしたり、煙草を禁煙区域で吸った人間が殺されたりしている。

 もちろん、模倣犯でミスタースパンキーゴールドが殺している訳ではない可能性もある。

 ただ、そうやって町は少しずつ息苦しくなっている。誰かの考えた見えないきまりが少しずつ、実体化し私たちの生活そのものになろうとしているからである。

 先日のことだが。

 私の友人が殺された。

 犯人はミスタースパンキーゴールドだとされている。

 友人は確かに決して善人ではなかった。自分の父親と母親を殺してしまったし、車で幼稚園児を轢いたこともある。万引きなどではなく強盗を好んでやっていたし。

 私から両足を奪った事件のきっかけを作ったのも友人だ。

 私は友人のことを恨んでいたし、心底嫌悪していた。

 でも。

 死ぬ必要はなかったのではないかと思っている。実際、優しい時は優しかったし、丁寧に物事を考える時は、丁寧に物事を考えていた。決していつも悪人というわけではなかったと思う。

 私はミスタースパンキーゴールドについて何も特別な感情は抱いていない。

 友人が死ぬことで少なくとも、この町で生まれるはずだった未来の不幸は幾つか消えてなくなったのは明白だからである。

 私が両腕を失う未来もあったかもしれないと考えると、それはそれでよかったのかもしれない。

 だとしても。

 ミスタースパンキーゴールドという謎の存在が、そのまま町の正義として存在することに一抹の不安を覚える。

 

 これは架空の話ではない。

 よくある話である。


 という注意書きを残したとして別に誰も気にするわけもない。

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