モノ・アイ

あかいかわ

 

第1話 わがやどの 夕影草の 白露の

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 きょうのお宿はログハウスふうというやつです。しゅっと高くて三角の屋根、柵付きテラス、不揃い模様のこげ茶のかべ、全部木でできています。これは期待できるやつです。

 ヒトミちゃんはいつものななつ道具で鍵を開け、五分ほどなかを点検してからといいよとわたしに声をかけます。入って、いいですよ。玄関で靴を脱いでいるとヒトミちゃんは缶詰め片手にあらわれて、おおきな瞳でじっとわたしを見つめます。パイン缶、だ。ヒトミちゃんは小さくうなずくと、靴の結び目に苦戦しているわたしに近づいて、肩にかかった灰をさっと払ってくれました。賞味期限は一年切れてるですが、問題ない、食べちゃいましょう。

 リビングの革張りのソファはまだ全然ふかふかでした。雨戸を開けるとぼんやりと鈍い光が部屋を満たします。パイナップルはつやつやしていました。甘酸っぱくて美味しくて、汁まで全部飲んじゃいます。賞味期限切れなんて信じられない。あっという間に空になって、ほかに何個見つかったのか聞いてみましたが、ヒトミちゃんは教えてくれませんでした。

 一週間ほど滞在するとヒトミちゃんはいいました。思っていた以上に食糧があって、コントロールパネルも電力供給すれば使えそうで、貯水タンクもほぼ満タンに近いという、文句のつけようのない超絶優良カミ物件。ヒトミちゃんの予測ではここ数日降灰量も増えそうなので、しばらくわたしたちは巣ごもりです。予想どおり、明日からまた「がっこう」を再開するとヒトミちゃんは宣言しました。きょうからと言い出さなかったのが、不幸中の幸いです。

 それからしばらくヒトミちゃんはコントロールパネルの復元にかかりました。ななつ道具で保護板をこじ開け、配線やら漏電チェックやらに集中しています。おおきな瞳がじっと配線盤に注がれます。まばたきもしないで、ひたとも揺るがないで、その瞳はしずかに光を飲み込みます。わたしはソファに沈みこんでその様子をぼんやりとながめます。瞳は目の瞳孔、つまり目にあいた穴のことを意味するですよ。いつだったかヒトミちゃんはそう説明しました。「見る」ということは、その瞳にはいった光を網膜が捉え、電気信号に変えて脳で処理するということです。これが物理的な意味での「見る」という行為なのです。ヒトミちゃんはつづけます。いっぽう光は、わたしたちが「見る」と感じる対象を反射して瞳孔へ向かうです。光子はその対象物といちど触れ合っているですね。ここでエンタングルメントが発生するわけです。古代の人間は「見る」という行為に呪術的な働きを見出したですが、それは正しくこの効用をいい表しているです、「見る」ことにより、その対象との呪術的なつながりが生まれる、万葉集の国見歌にはそういう意味があるですよ、額田王が雲に隠れた三輪山をなげいたのは、そのためです、「見る」、という行為はけして受動的なものではなく、対象に働きかける、能動的なものであって、和歌にうたわれた、「見る」、というおこないは、メモリの保存、という意味を、超えて、人物も、自然も、あるいは、概念、で、さえ、も


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