ブレイクタイム ~地球の仲間たち~
第32話 地球での出来事(前半)
NSIA管制室。オペレーター計画1日目。
松本隆太を宇宙に送り届けた帰り、その日の午後にはダニエルを含む宇宙飛行士数名を乗せた宇宙船は無事地球に帰還した。管制室はいたるところからホッとため息が漏れる。彼らはようやくロボットハウス内の映像だけに集中できると思っていた。
「作戦は成功だ!」
「あの日本人の少年がうまくやってくれればいいんだが……」
「大丈夫だ。だって彼は……」
「はっは! 最初はどうなることかと思ったが、うまくやったんじゃないか!」
管制室にくたびれた男がひとりやってくる。ダニエルだった。
「少年はどうだった?」
「大丈夫。はじめての宇宙に少し緊張してたみたいだけど、ご覧のとおりさ」
「ハハ! さすがの君も少し疲れたようだね! 昔のまだひよっこだった頃が懐かしいよ!」
「その頃はまだ、ジェイコブが俺の上司だった頃だ」
「ああ、笑えてくるね! 今じゃすっかりこのだらしないカラダだよ! もうパイロットには戻れそうにない!」
「そうだ、リュウタには宇宙人のことを伝えてたのか!?」
「なにを?」
「オノダが日本語を使うことだ」
「オウ……忘れてたよ。けど大丈夫。日本語で心底安心してるんじゃないかな。ハハハ!」
「……リュウタは驚いてたよ。日本の名前だって」
「ソーリー! 大丈夫だよダニエル。やるべきことは全てやったさ。あとは彼が何を知り何を望んで何を伝えるのか、それを信じるしかないのさ!」
「リュウタは正当な報酬を望んでる」
「そうさ! だからこそ我々はリュウタを選んだ!」
「リュウタは破壊された通信機を見つけたな……あれを見たら尻込みするのも無理ない」
「ファーストコンタクトはあまり良い印象じゃないみたいだな。オノダがやけに大人しい、何かがあったんだ」
「何かってなに?」
「もう何人もオペレーターを送り込んできた。何かを学習したんだ」
「オペレーターと関わるとろくなことにならないってこと? まさか……人間との交流は彼も望んでいることでしょう?」
「……そうだな」
「なんだって?」
「オノダが重力装置を修理したとか」
「そんな馬鹿な。見よう見まねでやったというのか?」
「我々はレクチャーどころか、オノダに近づくことさえできていないんだからな」
「……」
「彼がロボットハウスを占領するとでも?」
「我々は彼の本当の目的を知らない。ロボットハウスには彼を繋ぎとめる何かがある」
「それが操縦権だとでもいうのか?」
「もしくは、それが獲得できないと知った時、ロボットハウスもろともさらうつもりなのかも……」
「うぅん。まあ何はともあれ、なんとかうまくいったみたいだ……ほっ……最初の壁は乗り越えたか」
「リュウタが持ち込んだゲームが功を奏した。やっぱり我々の目に狂いはなかった!」
「だが……まだ初期段階だ。オノダは豹変する。リュウタが最悪の事態を招かなければ良いが」
「大丈夫! あの日本の少年を信頼しろよ!」
「君は暢気すぎるぞ。ダニエル。君はあの少年に毒されている」
「きっと神の思し召しだ。こうなる運命にあったんだよ」
「ん……!」
「どうした?」
「またリュウタからの発信だ……どうやら何かを知りたがってる」
「どうだった?」
「ジェイクのことを聞いてきた……彼は警戒してる」
「全ては真実だ。そう受け取っても仕方がない」
「いや、彼が警戒しているのはもっと先だ……厄介なことになった」
「自分がジェイクの二の舞になることを恐れてる?」
「リュウタは……私のことを”信用ならない奴”だと評価したかもしれない」
「考えすぎだ、ジェイコブ大丈夫さ」
「またゲームか……」
「このところずっとビデオゲームだな。というかビデオゲームばっかりだ……」
「どうなんだ?」
「今までのオペレーターは室内スポーツや、ゲームといえどもマネジメントゲーム、心理テスト、シミュレーション、デザインゲームなどといった宇宙人の思考の傾向を試すものが用いられてきた。いずれもオノダから情報を引き出す目的の延長線上にあるものだ。あの子供はそういったことにはまるで無頓着のようだ。ただ無邪気に友達と遊んでいる感覚なんだよ」
「……」
「まさか小野田があれほどビデオゲームに熱っぽいとは思わなかったが、それだけだ。今回のオペレーションで得られた情報はそれだけ。なぁ、ジェイコブ?」
「少年は遊んでばかりの役立たずだ」
「それは言いすぎだろう。リュウタも何か考えがあってのことだよ。きっとそうだ」
* * *
NSIA本部。オペレーター計画の開始から三日目の夜になった。
サラ・ミラー医師は施設の廊下を歩く、たまたまある人物に出くわした。彼女はハッとして彼に話しかける。
「マックス! こんな夜中にどうしたの?」
「色々と忙しくてね。もう散々だよ。私も歩き回らなくてはならなかった」
「そう。計画は順調ね」
「そうだといいんだが……」
「どうしたの?」
「ジェイコブはヘマをうった。これからはペスが代わってオペレーションを行ってもらう」
「どういうこと? でもペスじゃあジェイコブの代わりには……」
「良いんだよ。ジェイコブの仕事は"オペレーターの話の聞き役"ただそれだけだ。あのジェイコブには無駄なオプションが付きすぎてたんだ」
「オペレーターは混乱するのでは?」
「たいしたことは無い。そのためにサラがいる。気づかれなければ尚良し、気づかれたら、その時はそのときだ」
* * *
NSIA本部。オペレーター計画の開始から四日目になった。
マクシミリアンのオフィスに内線電話がかかってくる。彼は嫌々受話器を取った。忙しく攻め立てるような声が彼の耳をつんざく。相手はサラだった。
「マックス。松本少年の精神は疲弊しきっているわ。作戦を中断させて!」
「何を馬鹿なことを言ってるんだサラ! そのために君がいるんだろう? 職務放棄をするというのかい?」
「オペレーターの安否を考えるのが仕事よ! 貴方の方こそ勘違いしないでよマックス!」
「困った子猫ちゃんだ。むぅ。もう一日だけだ。もう一日だけで、彼は人類史上類をみな い英雄になれるんだぞ?」
「そんなこと松本少年は望んでないわ。地位も名誉もいらない、彼が欲しいのは少しばかりのお金だけよ!」
「今、サードデイズボーイを失うのはあまりにも惜しいんだよ。わかってくれサラ」
「ペスのことをリュウタに話すべきだわ。それに貴方のことも……」
「ハーイ、リュウタ。NSIAの最高司令官のマックスだ。みんなの人気者のマックスだ。ってか? はは……疑り深い彼のことだ、私の姿を見ないことには納得しないよ」
「それでも……」
「それに、リュウタは私のことを見つけても人間とは思わないだろう」
「……!」
「私がなぜ彼の前に姿を現さなかったのか、その理由を知らないとは言わせないぞ。ペスのこともだ。いいから君は黙って仕事をまっとうすればいいんだ」
* * *
NSIA本部。休憩中のサラはパイロットのダニエルと会う。お互いに近況を報告する。
「やあサラ。ずいぶんと疲れてる様子だね」
「貴方にはわからないでしょうね。もう大仕事はとっくにやり遂げたんだから」
「思うところがあるようだね。相談に乗ろう」
「けっこうよ」
「リュウタのことだろう?」
「……」
「サラ。君は、だって、今までだって何人というオペレーターを担当してきたじゃないか。どうして今になって思いつめる必要がある?」
「……」
「君は仕事に私情を持ち込まない主義だったろ?」
「甥っ子に似てるの」
「……!」
「そうよ。全部私が悪いんだわ。どうしても彼を見てると他人事には思えないの」
「そういうことだったのか」
「ただ。それだけじゃない。組織のやり方にも納得できないところがあるのよ」
「同感だ」
「ええ。ステイマンも…………あんなことになるなんて」
「ジェイコブのことをリュウタには?」
「そんな。教えられるわけないでしょ!? 今だって不安定な状態なのよ?」
「わかったよ。そう怒るなって……」
ダニエルはやつれた顔で弱弱しく苦笑する。
「実は……死んだはずのジェイコブがさ……見えるんだよね」
「あなた正気?」
「あはは、気でも違ったかも」
「とにかく、次にリュウタが通話してきたときにはあのことを話そうと思うの」
「あのことって?」
「もういい? 仕事に戻るわ……」
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