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荒園

三題噺:一番の夜景(借金 ヘリコプター イヤホン)

 くすねた鍵で、屋上の扉を開ける。子供が落ちかけて以来立ち入り禁止になった屋上にわざわざ来たのは、ひとえに夜景を見るためだ。

 私は小さい頃から夜景を見るのが好きだった。特に、このマンションの屋上から見る夜景は別格だと思っている。そのためだけに引っ越しに異を唱えたほどだ。

 おかげで一人暮らしをする羽目になったが、大切な場所を守れたのだから後悔はない。


 イヤホンから流れる潮騒を聞きながら、吹き付ける風に目を細める。

 この瞬間だけは現実に捕らわれないで居ることが出来るのだ。この瞬間なくして私の生は保持し得ない。

 ふと、波の音が遠くなる。

 否、現実の音でかき消されているのだ。空気を何度も叩き付けるような、ヘリコプターの羽の音に。

 思えば、ここ最近どうもヘリコプターの数が増えている。しかも私が夜景を見ている時に限ってである。あのとんぼのような機械は私に何か恨みでもあるのだろうか。そうだったら面白いが、そんな筈はない。偶然が重なっただけだろう。

 そう思っていた。

 しかし、あの日から煩わしい羽音は私の波音を妨げるように連日現れた。

 唯一の友人に愚痴を言おうにも、ノイズキャンセリングがどうとかいう的外れな答えしか返ってこないのでは仕方が無い。仕送りはあれど娯楽に使える金は限られているのだ。

 それから暫くして、どうにも耐えられなくなった私は、苦手なインターネットに頼った。こんな不便なガラクタが叡智の結晶だのと言われるのだからお笑い物だ。しかしながら、そんな物でも今回ばかりは役にたった。

 どうも、最近増えていたヘリコプターは夜景遊覧が目的らしい。こちらとしては迷惑でしかないが、夜景と言われては黙っておけない。すぐさま予約を取ろうとして、値段が決して安く無いことに気づく。

 どうしたものかと悩んでいると、それなら金を貸そうか、と友人が申し出てくれた。一週間返せなければ部屋の物を勝手に金にして構わない、と言っておいたが大丈夫だろうか。それなりの大金を借りるのだ、ある程度保険をかけておかねば申し訳がたたない。


 斯くして私は空を飛んだ。

 最期に見た夜景は、今までで一番に思えた。

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