とある親友二人の電話

@ballpen_08_zap

『電話だ』



「もしもし。 レイ?」

『やぁ、ユキ。元気?』

「うん。何も変わらない。レイは?」

『俺も。この際だから、家でやってみたかったことを全部試してみてるよ。ユキは?』

「僕は……何してたかな。気付いたら、夜だよ。」

『ははっ、ユキらしい。』





「もしもし。」

『はーい。今日は何してた?』

「あのね……クッキー、焼いてみたんだ。」

『へぇ! あのユキが! どう? 上手く出来た?』

「……焦がしちゃった。普段、やらないから。」

『あらら。後で写真送って。見てみたいなぁ、どれだけ真っ黒になっちゃったか。』

「そんな黒くない。」





「もしもし。レイ、あの動画何?」

『見てくれた?』

「通知が来たから。開いたら、レイが踊り狂ってた。」

『全力でダンスを踊ってみたんだけど、どうだった?』

「変。笑った。」

『よかった!』

「なんで。」

『ユキが笑ってくれたらなって思って。相変わらず、仏頂面でいるのかなってね。』

「……うん。久々に、笑ったかも。」





「もしもし。」

『もしもし、ユキ? ふふっ、なんか元気そうだ。良いことでもあった?』

「うん。可愛いキャラクターのナンパ、成功。凄く好み。」

『ユキの好みか……ちょっとズレてそうだな……。』

「そんなことない。レイも気に入る。」

『俺も?』

「画像送った。」

『仕事が早い……。』





「もしもし、レイ。」

『はーい。ごめんね、出るの遅れちゃって。』

「別に。」

『拗ねちゃった?』

「拗ねてないし。」

『あははっ。』

「拗ねてないってば。」

『はいはい。』





「もしもし。ねぇ。ニュース見た?」

『見たよ。まさか、あの方まで亡くなっちゃうなんてね……。』

「うん……。ビックリした。」

『そっか……。』

「……。」

『……ユキ。今日は寝落ちるまで電話を繋いでいようか。』

「……うん。」





「もしもし。レイ。」

『はいはーい。』

「レイは、今日何してたの?」

『ん? 俺? 俺はね、今日は読書してたかな!』

「読書?」

『いやぁ、昔読んだものでも忘れてるものだね。読み返すと面白いのなんのって。』

「レイが好きなのは、ミステリー小説だったはず。トリックとか、読んでる内に思い出しちゃうんじゃない?」

『それはそれで面白いよ。伏線が張られてるのに気付けたときなんか、作者にしてやられたって感じだよね。』

「……そんなもの?」

『そんなもの!』





「もしもし。レイ、ねぇ聞いて。やっちゃった。」

『何を?』

「ボディソープで頭洗っちゃった。」

『あははははははっ!! うっそ!? え、どうだった!?』

「めっちゃ髪の毛ギシギシする……。」

『ははははははっ!!』

「笑いすぎ。」

『はー、ユキってば相変わらずドジだね。』

「む。そんなにドジじゃないよ僕は。」

『そうかな? マドラーをストローと間違えて必死に吸ってたり、パーカーの紐をイヤホンと間違えて耳に入れてたり……』

「え、なんで覚えてるの忘れてたのに。」

『覚えてるよ。俺が見てる前でやってたもん。』

「忘れて。」

『やーだ。』





「もしもし。」

『ユキ。今日は何してたの?』

「……アニメ、観てた。」

『何のアニメ?』

「なんか……よく分かんないの。」

『えぇ?』

「……テレビをね、点けていたくなくて。」

『……そっか。そうだね。』

「でも、ニュースは見てるよ。大事だから。SNSとかも……。」

『ユキ。あのさ……』

「何?」

『……ユキが気に入りそうなアニメ、何個か知ってるんだ。布教してもいい?』

「いいけど……。」

『よし。覚悟しておいて。三時間はかかるから!』

「寝落ちそう……。」





「もしもし。」

『あれ? ユキ、なんか元気ない?』

「うん……あのね、家族と……喧嘩しちゃって。」

『喧嘩?』

「その……なんでかな。最近、上手くいかない。ギクシャクしてて、凄く……居づらい。」

『……そう。俺と電話はできそう?』

「できる……。でも、レイに負担……かけたくない……。」

『え?』

「毎日、毎日、電話しちゃって……ごめん。彼女でもないのに。」

『なんだ、そんなこと! いいじゃん。期間限定の彼女ってことで!』

「なんかその言い方、それはそれで嫌かも。っていうか、僕、男だし。」

『もぉ……それなりの付き合いなんだから、遠慮しなくていいよ。今はさ、こんな時期なんだから。辛い時は、助け合おう。あ、そうだ。ユキの為に子守唄でも歌ってあげようか。』

「……電話越しに?」

『流石にね。また俺の家に泊まりに来たら、たくさん生で聴かせてあげるから。それまでに、新曲も覚えておくよ。』

「……うん。そうだね。いつか……また、会えたら。」





「もしもし。レイ……夢を見たんだ。」

『どんな夢?』

「レイと、遊ぶ夢。」

『何して遊んでたの?』

「……テーマパークに行ってた。それで、カチューシャ着けてさ。」

『あれ? それ、一緒に行った時の……』

「思い出だね。レイに会わなすぎて、こんな夢を見たんだよ。」

『そうだね。あんなに頻繁に会っていたのが嘘みたいだ。』

「……。」

『……寂しい?』

「……うん。」

『そっか……。俺も、寂しいよ。』

「レイ。いつまで、会えないのかな。」

『……分からない。』

「会いたい。凄く、会いたい。だけど……」

『……守るために、会わない。』

「電話も、画面越しも、もう嫌だ。」

『ダメだよ、ユキ。もう少しの辛抱だ。ね?』

「……もうずっと、辛抱してる。」





「……。」

「レイ……出ない。」





『もしもし!? ご、ごめんユキ! 昨日のことなんだけど、えっと、何も言い訳しません普通に寝てました!!』

「……僕の心配を返してくれる?」

『あはは……申し訳ない。』

「……やめてよね。こんな時期なんだから。まぁ、1日連絡取れなかっただけでドキドキしちゃった僕もアレだけど。」

『仕方ないよ。だけどさ、ユキ。まさかユキがそんなに俺を気に掛けてくれるなんて。愛されてるんだね、俺は。』

「……。こんな騒動になって初めて、考えた。いつも、当たり前に一緒にいた人が、いなくなるかもしれないってこと。」

『……。』

「大袈裟に聞こえるかもしれないけど、毎日……ニュースを見ていると不安になる。ネットニュースも、怖いことばっかりで。この生活も、いつまで続くか分からなくて。未来も、分からなくて。」

『ユキ……。』

「だから、大事にしたい。レイのことも。いつも、ありがとう。」

『……こちらこそ。本当は、俺も不安なんだ。けど、ユキと話してると落ち着く。』

「ねぇ、次会えたら……何しようか。」

『何処かへ、遊びに行く?』

「行きたい所、いっぱいある。やりたいことも。」

『うん。そうだ! やりたいことリスト作ろうか!』

「ペンと紙は手元にある。」

『いいね! どんどん書いていこう!』




















2020年。

太陽が、カンカンと照らす。凄く、暑い。あぁ、もうそんな季節かとユキは空を見上げて目を細めた。

こんなに、時間がかかったけれど。ようやく。


アスファルトを蹴る足が急ぐ。向かう先は、いつもの場所。

わざわざ決めなくても、そこで会うっていつも決めていた。


少し、早かっただろうか。


何度も過ぎたことのある景色の中を駆けていけば、何度も見た彼がいる。幼い頃から彼はそうだった。あの、たった1本の大きな木の下で、道路を眺めているのが彼の待機の癖。


いる。ちゃんと、彼がいる。


タッタッタッ。

軽い足音が聞こえたのか、彼は振り返った。



「レイ!!」

「ユキ!!」



同時にお互いが、お互いの名前を呼んだ。

レイが両手を広げ迎えるままに、ユキは飛び込む。




「「会いたかった!!」」




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