人を殺せば幸せになれる
ささやか
第1話 かつては人を殺してはいけなかった
実に馬鹿げたことだ。いや本当に馬鹿馬鹿しい話で、大抵の人間は一笑に付すだろうし、最早ごく一部にしか知られていないことだが、かつては人を殺してはいけなかったのだ。
そんな聞き齧った話を同級生の耳原さんにすると、彼女は
「面白い冗句だね。耳原は冗談が上手だね」
「本当なんだってば」
「嘘でしょう。なんで人を殺してはいけないの。意味がわからない」
「詳しくは聞かなかったけど、なんか命は大切とか社会秩序の維持だとかなんとか」
「アハハハハ、そうかァ命は大切かァ」
耳原さんは桁々とけたたましく笑った。とても五月蝿かった。通勤通学途中でこれからの人生を憂いているであろう周りの人々は彼女の笑声が気に障らないのだろうかと思い視線を巡らせてみる。大抵が二人組で、そのうちの一人が同じように桁々とけたたましく笑っていた。なんということだ。とても五月蝿い。思わず顔を
「アハハハハ、他人なんて人間じゃないのに大切なんて、本当に面白い冗だゴきゅベ」
私はスクールバックに入れていた簡易殺人器を取り出し、とりあえず耳原さんを殺した。彼女はピクピクンと痙攣して死んだ。殺したら死ぬ。当たり前のことだ。
右隣の彼女も簡易殺人器で片割れを殺していたので、私は彼女に話しかけてみる。
「私は耳原耳原。よろしくね」
「よろしく。私は耳原耳原」
「私は耳原耳原。よろしくね」
「よろしく。私は耳原耳原」
「私は耳原耳原。よろしくね」
「よろしく。私は耳原耳原」
「私は耳原耳原。よろしくね」
「よろしく。私は耳原耳原」
私達はとても気が合ったので直ぐに仲良くなった。
「耳原さんは働いているの」
「そう、私は働いているの」
「どこで働いているの」
「耳原工場で働いているの。あなたはどこで働いているの」
「私も耳原工場で働いているの」
「私も耳原工場で働いているの」
私達は同じ工場で働いていることがわかったので、そのまま一緒に通勤し、一緒にタイムカードを打刻し、更衣室で作業服に着替え、同じ生産ラインで仕事をした。
当然のことだが耳原工場では耳原を製造している。耳原を製造するには混じりない耳原が必要だ。原材料として納入される耳原には不純物が混じっているで、工員はそれらを丁寧に取り除いて純粋な耳原にしていく。滅多にないが稀に全く耳原でないものがあることがあるので、そういうときは耳原工場長に報告する。
今日の耳原は質の悪いものが多く、不純物を取り除くことに大変な労を要した。最悪だったのは
耳原の廃棄を終えて程なくして昼休みになったので、私は耳原さんと一緒に食堂で昼食をとった。今日の日替りは耳原だった。私は耳原が好きなのでラッキィだと思ったが、耳原さんは耳原が余り好きではないようで渋い顔をしていた。私が気分良く耳原を食べているのに、そういう顔をするのは気遣いが出来ていないと思う。私は腹が立った。とても腹が立った。耳原さんがこちらを見た。そして作業服のポケットに手を伸ばそうとした。そこにあるのは工場用殺人器だ。何故それを知っているかと言うと、私の作業服のポケットにも工場用殺人器があるからだ。私は耳原さんよりも速く工場用殺人器取り出し、彼女を殺した。彼女はドゥルンドゥルンと振動して死んだ。殺したら死ぬ。当たり前のことだ。
それを偶々目撃した耳原工場長に食事中に埃を立てるなと御尤もな注意をされた。これは私が悪いと思ったのですみませんと謝罪したが、耳原工場長は誠意が足りないと
「食事中に埃を立てるということは、皆に迷惑をかけることだ。皆に迷惑をかけるということは、お前が悪いということだ。お前が悪いということは、私が正しいということだ。私が正しいということは、お前に何をやっても私は悪くないということだ。私は悪くないということは、私は間違っていないということだ。私は間違っていないということは、私がお前を殺してもいいということだ」
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