ジャングルジムくぐって

三条 かおり

第1話

「なあ、無限ジャングルって知ってる?」

妙に真剣な声色でキョウタがそう言い出したのは、17時のチャイムが鳴ったときだった。カラフルに塗られた特大のジャングルジムは、この学校のちょっとした名物だ。低学年にとっては家に見立てて遊ぶのにうってつけで、キョウタのいる青い区画はトイレとお風呂というのが定番だ。

「知ってる!こないだユカも言ってた。出られなくなるやつでしょ?」

エレナが身を乗り出して答えた。そしてそのまま、鉄棒のように器用に前回りをしてみせる。剥げかけた赤い塗装が上着の裾にパラパラと散る。

「そう。くぐってもくぐっても、全然外に出られねえの。それってな、ジャングルジムごと異世界に飛ばされちゃうってことらしい」

ニヤリと笑ってキョウタが答える。学校の怪談話は、4年2組の最近のブームだ。

「帰れなくなるの?」

桃色の檻に囲まれ、1人地面に立っているチハルがキョウタを見上げて言う。

「出られねえもん。それにさ、時間も止まっちゃうんだぜ」

どうやったら帰れるわけ?

決まった順番でくぐっていけば良いんだってよ。順番は知らねえけど。

それじゃ意味ないじゃん。

「ねえ」

エレナとキョウタが盛り上がっていると、ずっと黙っていたミツキが上から降りてくる。

「そういう怪奇現象ってさ、夕暮れどきに起こることが多いよね」

「そうかあ?でもなんかそんな気がするな」

「昔からある神隠しもそうだよ。黄昏時って、誰そ彼、あの人は誰って意味からきてる。薄暗くて見えにくいときに、人間と、人間でないものが出会ってしまう」

難しい言葉を使いながら淡々と喋るミツキに、思わず3人は黙り込む。

「キョウタさっき、異世界に飛ばされて、時間も止まるって言ったよね」

「うん」

ミツキは黙って校舎の方を指差す。夕日に照らされ橙色に染まったジャングルジム越しに、3人はそれぞれ指差す方向を見る。時計は17時を指していた。

「17時のチャイム、もうずいぶん前に鳴ったよね」

それに、とミツキが続ける。

「さっきまで他の遊具で遊んでる子や、サッカーしてる子たちがたくさんいたのに、みんないなくなってる。17時になったからって、こんなに一斉に、みんなが帰るなんてこと、ある?」

閉じ込められたんだよ、僕たち。

少し上ずったミツキの声に、3人は呆気にとられた様子で互いに見つめ合った。



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