第20話 称号の行方

 翌日、授業が終わった後に、ローズ達は学習室に集まった。

 図書室の隣にあって、少々騒いでも問題にされない場所だ。

 資料が豊富な図書室では会話禁止なので、討論や学習会を開きたい学生のための場所として存在している。


「我が家から見つかったのが『十二家起源』と『邪竜の災厄』で……」

「僕が探せたのがこの『建国覚書』と『十二の称号分与』だ」


 ローズとピアニーが、それぞれに持ち出せた書物をテーブルに乗せた。

 どちらも図ったように二冊ずつだが、時間的になんとか探し出せる数としてはその程度だった、ということだろう。


 大きな違いとしては、ローズの持ち出した書物は読み物形式であるのに対して、ピアニーの探しだした書物は、記録であるという点だ。

 王家の書庫らしいと言えばらしい。


「そう言えば、なぜかイツキも十二の称号の一つを持っているのですね」


 アイネの言葉に、イツキがビクッとする。

 別に責めている訳ではないのだが、物言いが厳し目なアイネが、イツキは苦手のようだった。


「ええっと、うちはローズ様のとこの分家なんで、称号を下賜されたんじゃないかと」


 しどろもどろに答える。


「我が家はメイとマーチの二つの称号を預かっております。おそらくは十二家の内二家が一つになったのでしょう」


 ローズがイツキの説明を補足した。

 実際のところ、ローズも十二の称号の件はあまり詳しくない。

 称号の管理は称号官という特殊な部署の仕事であり、さすがの当事者たる貴族家も、複雑な結びつきを全て理解してはいないのだ。


「王家は、ジャニュアリーのほかに、ジューンとオーガストを預かっているね。現在はジューンがグラスソード家に下賜されているはずだ」


 ピアニーが、王家の持つ称号を説明する。


「グラスソードと言うと、第一王子の……」


 アイネが少し苦々しく言った。

 この国の第一王子は、シルバ・ジューン・グラスソード、現在十八歳の青年である。

 十七で学園を卒業したときに、卒業祝いとして王から下賜されたのが称号としてのジューンと、領地としてのグラスソードだ。

 領地を下賜されるというのは、独立した家を立てるということであり、称号を下賜されるということは、王の覚えがめでたいということである。

 そのまま皇太子としてもいいのだが、実は今の王家には困った事情があった。

 王妃との間に長く子が生まれなかったので、政治的な理由で王に充てがわれたのが第一夫人と第二夫人だ。

 そして第一夫人が第一王子を産んだ。

 ところがその翌年に、子を諦めていた王妃が第二王子を産んだのである。


 このため、後継者問題が複雑化してしまったのだ。

 その第二王子は、現在学園の最上級生だが、ピアニーとの間に交流はない。

 ピアニーは、第二夫人の子であり、上の二人の兄どちら共と折り合いが悪い。


 とは言え、早々にグリーンガーデン公爵家と婚約したので、後継者争いに巻き込まれることがなかったのは幸いであった。

 ピアニーの母が、処世術に長けていたとも言える。

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