第18話 告白の行方

 ローズは、今では誰もあえて探さない古い書物を掘り起こし、そこからいくつか有望そうなものを探し当てた。

 一つは、『十二家起源』という、そのものズバリの本。

 もう一つは、『邪竜の災厄』というものだった。


 パラパラと読んでみたローズだったが、今とは文法が違うのか、読めない記述が多く、ほとんど内容がわからない。

 学園に持って行って、専門の辞書を引きながら解読する必要があると判断したローズは、その二冊を持って書庫を出た。

 古い書物のほとんどは虫食いが酷いか、紙が腐食してボロボロになっていたのだが、この二冊は小さな箱のなかに厳重にしまわれていたので、きれいに残っていたのである。

 ローズはその箱ごと、大切に持ち出した。


 自室に戻る途中に、ローズは妹がお気に入りの庭の見える部屋で、イツキと一緒にいるのを、庭越しに発見する。

 軽く手を振ると、気づいた二人も手を振り返して来た。


「あの子、ちゃんと告白出来たのかしら?」


 煮え切らない妹に度々チャンスを与えているのだが、思うようにはうまくいかないようだった。

 あれだけ、はきはきした妹なのに、なぜそこだけ奥手なのかが、ローズにはわからない。

 なにしろ、ローズは恋愛を考える前にピアニーの婚約者となっていた。

 そのせいで、恋愛というものの、心の機微がわかっていない部分もあるのだろうと、自分で納得はしている。


 ただ、イツキが妹の夫になるのなら、安心だという思いがあった。

 政治的な流れによっては、妹とローズは対立する陣営に嫁ぐ可能性もあった。

 そうしたら、姉妹で憎み合うことになるのだろうか? という不安が、ローズにはある。

 どうせなら、身内に収まって欲しいという思いは、貴族の令嬢らしくはないのだが、親の愛情を知らず、妹と二人で慰め合って過ごした子ども時代が影響しているのかもしれない。


 ローズは持ち出す本を自室に置いて、妹たちのいる場所へと訪れた。


「失礼するわね。どう、リリー、楽しいお話は聞けたのかしら?」

「お姉様聞いて! イツキったら、私もお姉様も、両方を好きだって言うのよ!」


 リリアの突然の暴露に、ローズは冷え冷えとした視線をイツキに向ける。


「どういうお話の流れでそうなったのか、じっくり聞かせていただけますわね?」

「はいい!」


 イツキは震え上がりながらも、ローズの分のお茶を用意した。


「ち、違うんです。その、ですね。お二人共を敬愛していると、そう、言っただけ、……なんですよ」


 イツキの答えに、ローズはあからさまにがっかりする。

 二人の関係がうまく行かないのは、必ずしも妹だけに責任がある訳ではないと、理解したのだ。


「イツキ、あなたはまだ子どもとも言える頃からここで働いていますから、わたくし達を仕えるべき相手としか見れないというのは、よく理解出来ますわ。でも、それは人と人との好意とは別のところにあるものですよね? リリーは、男としての貴方の気持ちを聞いたのではなくって?」

「お、お姉様!」


 いきなりのストレートな言葉に、リリアが慌ててローズを制止する。

 だが、一方で、リリアは、チラチラとイツキのほうを見てもいた。

 イツキがどう答えるのかが、気になるのだろう。


「へ? 男として、ですか?」


 驚愕したようなイツキの顔を見て、ローズはため息をつく。

 もしかすると、自分は慌て過ぎたのかもしれない、と反省したのだ。

 リリアもイツキも、まだまだ子供なのだ。

 いや、リリアはともかく、イツキは、十六にもなって子供同然というのは、いかがなものかとは思うが、真剣に男女の間を考える時期ではないのだろう。


「し、しかしですね、ローズお嬢様にはピアニー様がいらっしゃって、その、リリア様はまだおこちゃまですし」

「は?」


 イツキが取り乱しすぎたのか、余計なことを口走り、リリアが淑女とは思えない声を上げた。


「イツキ、ちょっと、私の魔法の訓練に付き合って」

「へ?」


 リリアの目が据わっている。


「動かない的だと上達しないでしょ?」

「そ、それは、俺を的にするってことですか? い、いやー、ローズお嬢様お助けを!」


 ズルズルと引きずられて行くイツキを見送りつつ。

 ちょっと冷めてしまったお茶を、ローズは飲んだ。


「男としても家令としても、まだまだですわね」


 やれやれと、ローズは肩をすくめたのだった。

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