第15話 帰宅と妹の出迎え

 ローズとイツキが久しぶりに屋敷に戻ると、いきなり玄関扉が開き、リリアが飛び出して来た。


「お姉様! もう私のことなんかお忘れになったのかと思っていました!」


 そう言って泣きじゃくる。

 その姿に、ローズはひどい罪悪感に襲われた。

 三月程全く帰宅していなかったのだ。

 イツキもいない屋敷では、さぞや寂しかったに違いない。


「ごめんなさいね、リリー。学園で学ぶことに夢中になりすぎていたようです。今度からはせめてイツキは戻るように言っておきますから」

「イツキだけではなくて、お姉様も一緒じゃなきゃ嫌です!」

「そうね、ごめんなさい」

「そんなに学園が楽しかったのですか?」

「そうではないの。今までして来たお勉強と全く違っていて、慣れるのが大変だったの」

「まぁ、お姉様が大変だなんて! 私には学園でのお勉強なんて無理ですわ!」


 いけない。

 ローズは焦った。

 自分のせいで、妹を勉強嫌いにしてしまうかもしれないのだ。


「リリーならきっと、わたくしよりも学園にすぐに馴染みますわ。リリーは新しいことが大好きでしょう? 学園では時代に合った勉強をするのです。服飾デザインや詩歌、楽器の授業とかもあるのですよ」

「まぁ、お洋服のデザインを勉強出来ますの? でも内職仕事などは下賤の者が行うことと蔑まれるのでは?」

「服飾デザインでは、ファッションの組み合わせを勉強するのです。貴族社会ではファッションリーダーであることは一種のステータスですからね。自分で針を使う訳ではないのですよ」

「それは素敵です!」


 どうやらリリアの機嫌が直ったことにローズはホッとしたが、今回帰宅した目的を考えると、またヘソを曲げそうだと不安になった。

 古書あさりなど、リリアの好みからは程遠いからだ。


「そうだ。イツキ」

「は、お嬢様」


 屋敷に戻った途端、イツキは家令見習いとしての立ち位置に戻ったようだった。

 そんなイツキに、ローズはにっこりと笑って言った。


「リリーに学園での生活をお話してあげてちょうだい。わたくしはお母様にご挨拶をして、その後、少し探しものをしなければなりませんから」

「ええっ!」


 イツキは驚愕する。

 ローズが、リリアのおもりをイツキに丸投げするつもりであることは明白だった。

 とは言え、イツキからすれば十二の秘宝の謎解きは自分の望みでもあり、リリアを放置しておけば、邪魔されるのは間違いないことであるのは、これもまた明白だったのである。


「……くっ、承知いたしました」


 リリアが、少し寂しそうな顔になる。


「お姉様、せっかくお戻りになられたのに、お忙しいのですか?」

「ごめんなさい。この埋め合わせは、必ずしますわ」

「……うん。それなら。私は我慢して差し上げますわ。じゃあ、イツキ、私が手ずからお茶を入れてあげますから、学園でのお姉様と、あなたの様子をお話しなさい」

「もったいないことです」


 口ではそう答えたイツキであったが、ローズを見る目はどこか恨めしげであった。


(イツキには悪いけれど、たまにはこんな時間もいいでしょう。リリーが素直になってイツキに自分の想いを告げてくれるといいのですけど。ああ、いえ、両想いで舞い上がって、イツキがますます家令としての仕事をないがしろにするようでは、困りますけど)


 じゃれ合うように、一緒に先へと進む二人を見つめつつ、ローズはものごとが単純ではないことに少し悩ましい気持ちになるのだった。

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