カガヤキに全てを奪われて

toto-トゥトゥ-

なんで、今頃……

 恋人と呼べる相手が自分にできるなんて、考えた事もなかった。

 告白するなんてできるわけもないし、ましてや相手からされるなんてもっての外だ。

 俺も健全な男子高校生だ、恋人がほしくないわけじゃない。

 デートしたり、遊んだり、手を繋いだり。

 関係が進んだらキスや、その先だって……なんて考えたりする時もある。

 でも、俺はどちらかと言うと奥手な人間だ。

 さっきも言ったけど、自分から異性に告白なんてできない。

 というよりもその前に、気になる異性がいない。

 俺の通っている高校には綺麗な子や可愛い子はかなりいて、レベルが高いとクラスメイトの男子が話していた。

 つい数週間前に入学したばかりだと言うのに、女子のサーチは怠らない男子達。

 確かにレベルは高いと思う……けど、そんな子達が周りにいようが、俺にはどうする事もできない。

 逆にどうしろって言うんだ?

 きっと社会人になっても、恋人のいない寂しい生活を送るんだろうな……なんて思っていたのに……。


 「見掘真珠(けんくつしんじ)君、好きです……私とお付き合いしてください」


 放課後、人気の無くなった廊下を歩いていると、角から急に飛び出してきた影。

 今までの俺の考えや想像を全否定してくるかの様に、目の前にいる女生徒が俺に告白してきた。

 女子の平均よりも背が高くて、スラッとしている。

 モデル体型って言うんだろうか?

 喋り方がどこかおっとりしている。

 イエロー系色のワンレングスロングヘアーが、とても綺麗だった。

 可愛い、よりは綺麗と言う言葉がピッタリの印象の女生徒。


 「へっ? あの、その」


 予期せぬ展開と、全く接点のない相手にきょどる俺。

 1年生のいる一階では見かけた事がない、多分2年か3年生の先輩だろう。

 きょどる俺を見て、女生徒は声を掛けてきた。


 「あっ……ごめんね急に。私、3年の石宝琥珀(しゃくほうこはく)って言います」

 「ど、ども」


 自己紹介をされたので、取り合えず礼儀として軽く会釈しておく。

 苦笑い気味に俺を伺う石宝先輩。

 ……あぁ、もしかして返事待ちか?

 ヤバい、えっと……どうしたら……。


 「あの」

 「う、うん! 何!?」

 「えっいや、その……何で、俺に告白なんてしたのかな……って」

 「へっ?」


 何言ってんだ、と思われたかもしれない。

 俺もそう思う。

 けど、やっぱり気になる。

 こんなに綺麗な先輩が、俺に告白してくる理由が分からない。

 ……待てよ、もしかしてこれ、罰ゲームとかじゃ……。

 俺みたいな入学したばかりの新入生はいいカモなんじゃ……。

 会ったばかりの相手を疑うのは良くないが、その可能性も捨てきれない。

 目だけを動かして、辺りに隠れている人影が無いか確認してみる。

 そうしていると、石宝先輩が話始めた。


 「あのね、見掘君は知らないと思うけど、私、あの日からずっと見掘君の事が気になってて」

 「あの日?」

 「うん。覚えてないかな? 花壇のゴミ、片付けた事があるでしょ?」

 「花壇……」


 言われて思い出す。

 確かに数日前に、校内の花壇に空き缶やらお菓子の袋やらのゴミが捨てられているのが目に入って、それを見過ごすのも何かモヤモヤした気持ちになるからと、ゴミを全部片づけたんだ。

 それを通りがかった教師に見つかって、ついでにと花壇の手入れもお願いされたっけな……おかげで昼休みが潰れたけど。


 「あの時私、ずっと見てたの。手伝いに行こうとも思ったけど、そうするのも忘れて、ずっとそれを眺めてた。一生懸命な見掘君の姿が、とっても格好良くて……見惚れてた」

 「えぇ!? あぅ、その」


 変な声が出てしまった事と、恥ずかしげも無く見惚れていたと言い切る石宝先輩の言葉に動揺してしまう。

 あたふたする俺に詰め寄ってきた石宝先輩。


 「その日から見掘君の事が頭から離れなくて、それで気づいたの……人を本気で好きになるってこんな気持ちなんだって!」


 無意識なのか、俺の手をギュッと握って来る石宝先輩。

 しっとりとした柔肌な手が、俺の手を離さない。

 手汗で気持ち悪がられたりしないか不安になる。


 「こんな気持ちになる事ってもう無いと思うの……だから見掘君、私と付き合ってください!」


 更に詰め寄って来る石宝先輩。

 どうして女子はこんなにいい匂いがするのだろうか。

 違う、そんな事を考えている場合じゃなかった。


 「でも、その、まだお互いの事何も知らないから……お友達からとか」


 健全な男子高校生が聞いて呆れる。

 でも仕方ないだろ。

 いきなりの告白とか、石宝先輩の手の熱とか、いい匂いとかで頭がパンク寸前なんだ。

 これでも頑張って返事を返した方だ……。


 「付き合ってからでも遅くないよ。その後にでも知っていこうよ! ね❤」

 「えっあぁ、あの……」


 意外にもグイグイくる石宝先輩。

 世の恋人のいる男は皆こうやって付き合っていくのだろうか?

 馬鹿な事を考えている間も石宝先輩はグイグイくる。

 ここまでされたら、普段奥手な俺の答えは絞られてしまう。


 「その……よろしく、お願いします……」

 「うん❤私こそ❤」


 石宝先輩の笑顔はとても綺麗だった。

 俺もつられて笑顔になったが、多分釣られた魚の様な顔だっただろう。

 こんなに綺麗な彼女ができたなんて、今でも信じられないんだから……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「好きだよ、見掘君❤」

 「ずっと一緒にいようね、真珠君❤」

 「私の真珠君❤」


 嫌な夢を見て、目を覚ます。

 外はまだ暗く、カーテンの閉め切った窓からも光は入ってこない。

 手を伸ばしてスマホで時刻を確認する。

 画面の明るさに目を細めながら見ると、まだ夜中の2時を回った所だった。


 「なんで、今頃……」


 よりによってこんな夢を……と、怠い体を起こす。


 「……うおぉ!!?」


 部屋の隅に、人影の様な物が映り、反射的に飛び退いてしまう。

 悲鳴を上げ、すぐに近くにあったリモコンで部屋の電気を点ける。

 そこには誰もおらず、自分の服が掛けられているだけだった。


 「はあぁ~……何やってんだ俺。当たり前だろ……ここに、いるわけないだろ」


 一瞬、人影と錯覚したそれが……彼女のものだと思ってしまった。

 1年間付き合っていた彼女……琥珀先輩……いや、石宝先輩。

 今はもう卒業して、別れた彼女。


 「……今日も学校だ、眠ろう」


 また電気を消して、頭まで布団を被り横になる。

 今度は、良い夢を見れると良いな。

 いや、良い夢じゃ無くても良い。

 彼女が夢に出て来なければ、それだけで……。

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