第六章. 魔法都市の革命者
104. 第六章プロローグ:魔法都市到着
曇り空の下。
平原を歩くレヴィアはその天気同様、心を曇らせていた。
「あの野郎……!」
というより怒っていた。
それを見たリズが呆れたように言う。
「レヴィア、まだ怒ってるの? いい加減機嫌直したら?」
「馬鹿野郎。あれがいくらになったと思ってんだ。ああ、俺の金、俺の宝……」
レヴィアはその輝きを思い出し、悲しそうにつぶやく。
話は十日ほど前の事になる。ヴィペルシュタットを出てすぐの平原にて、レヴィアは待っていた。手下であるレナを。
というのも、英雄殿を去る際、レヴィアはレナに言いつけていたのだ。「俺の宝を外へ運んでおけ」、と。千妃になりそこねた事を他者に知られる前に回収しておけと。
しかし……
『申し訳ない。ホント申し訳ないっす。姉御のお宝は全部頂いて行くっす』
何と持ち逃げしやがったのだ。上記のような手紙を残して。関係ない他人経由でそれを渡されたレヴィアは当然の如く激怒。その怒りがまだ続いているという訳である。
「くそっ。やっぱ泥棒ってのはロクなやつがいねぇ。なーにが義賊だ。結局やることはこそ泥じゃねーか」
ぐちぐちと愚痴るレヴィア。手紙の最後には『義賊、レナちゃんより』と書いてあり、どうやら千后祭の影響で困っていた人々に金を配るつもりらしいのだ。
犯罪は犯罪だが、立派な行いと言えなくもない。だが、盗まれた側としてはたまったものではない。別にレヴィアは金に困っていないが、あればあるほど嬉しいのだ。貯金残高を見てニヤニヤするタイプなのだ。
とはいえ、所詮はあぶく銭。純花の為に頑張った副次的報酬にすぎない。なのにしつこく怒るので、リズが呆れるのも当然といえよう。
しかし、これには別の思惑もあったりする。
――そろそろ来るか?
レヴィアはその心を怒りから期待に変化させ……
「レヴィア。困ってるなら貸そうか? パートリーで貰ったお金ならまだいっぱい余ってるし、少しなら……」
(来た……!)
心配そうに見てくる純花。レヴィアは心の中でニンマリとした。それを極力表に出さないようにして言う。
「いえいえ。別にお金に困ってる訳じゃありませんので」
「そう?」
「というか純花、仲間内でも金の貸し借りはよろしくないわ。トラブルの元でしてよ」
金の切れ目が縁の切れ目、なんてことは大いにありうる。たとえ親でも大金を貸してはならない。そういう信条をレヴィアは持っているのだ。混沌とした行動が多い彼女だが、その辺の感覚はマトモであった。
「そっか……。そうだね。ごめん」
「謝ることはありませんわ。気持ちは嬉しいですし」
謝る純花に対し、レヴィアは機嫌よさそうに言った。レナへの怒りが急速に消えていく。
何故なら……
(純花が、純花が優しい……! あんなにドライだった純花が……!)
純花に気遣われている。それがとても嬉しいのだ。
最初は塩対応、次はリズとネイ優先、しかし最近はその仲間たちよりも自分に構ってくれる。優しくしてくれる。だからこそレヴィアは定期的にレナの事を思い出し、怒りを表しているのだ。怒れば純花が気遣ってくれるから。もちろん怒っているのは事実ではあるが。
女子高生という気難しい年ごろの娘。男親と距離が出来るケースは多く、寂しがる父親も多いと聞く。田中に至ってはATM扱いだ。なのに自分はこうも気遣われている。レヴィアはウフフと嬉しそうに笑った。
それを見たネイが「何なんだコイツは」という目で言う。
「この間から怒ったり喜んだりと忙しいな。一体何なんだ?」
「ネイには分からない事ですわ。世の中の酸いも甘いも味わった、人間的成長をした者にしか分からない喜びですもの」
「人間的成長? ……ハッ」
鼻で笑われた。レヴィアはネイの頭をスパーンとはたく。笑顔のままに。
「痛っ! 何をする!」
「ネイにも人間的成長をして欲しいんですの。愛の鞭ですわ」
「嘘つけ! 絶対怒っただけだろう!」
ギャーギャーとわめくネイ。仕返しに叩こうとしてくるが、レヴィアはそれをよけつつ「ウフフ、これだから独身は」と煽る。「お前も独身だろうが!」と怒るネイ。呆れるリズ。何故か頬を染める純花。
そんなコントをしながら暫く歩くと、ヴィペールにも負けないほど大きい町が見えてきた。
魔法都市グリムアル。ついにその場所に着いたのだ。
帰還の為のヒント。現状ルディオスオーブという物を所持しているが、残り二つと体のありかが分からない。手がかりが魔法都市にあれば……という考えのもと、予定通り魔法都市を訪れたのだ。加えてその他の手段があればぜひ知りたいところである。
「あら?」
ふと、リズが上を向く。ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
純花が手のひらでそれを受けつつも言う。
「あっ。降ってきちゃった」
「あー、間に合わなかったか。けどもうすぐそこだし、走るわよ。ほら、二人も!」
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