090. 千妃祭開幕!

『レディィィィス&ジェントルメェェェン! 本日はお日柄も良く、千妃となられる方には心よりお祝い申し上げたい一日がやってまいりましたぁぁぁ!』


 千妃祭。その司会者の言葉が会場中に響く。


 テンションの高い女の声は拡声器という遺物により増幅されており、その声は闘技場の中のみならず外にまで轟いていた。


『ですがその祝福を受けられるのは一人! そう、たった一人だけなのです! 国中より千人の候補者が集められ、先ほどまで予選が行われておりました! そしてその厳しい予選に勝ち抜いた女の中の女! ウーマン・オブ・ウーマンと呼ぶべき者たちがここに集ったぁ! さあ皆様! 声援と拍手でお迎えください!』


 ガラガラと鳴る歯車の音と共に闘技場の門が開く。普段はそこから剣闘士やら魔物やらが登場するのだが、今回登場するのは麗しき乙女たち。さらに足元はいつもの地べたではなく、会場の中央へ向かってレッドカーペットが敷かれており、その先には石造りの正方形の舞台がある。

 

『それでは千妃候補の花嫁たちを紹介しましょう! まずはクィン・ランサー! ランサー家出身のご令嬢! しかしその実力は本物だぁ! 精鋭の騎士たちをその剣で下してきたという実力の持ち主! 千妃祭の台風の目となる事は間違いないでしょう!』


 長い金髪を持つ女騎士風の女がまず登場。拍手と声援を受けながら舞台へと進む。そして舞台の上で停止し、正面にある王族専用の観客席に向かって礼をした。

 

『お次はガーベラ・ペトラ! 魔法都市出身の魔法使い! トンガリハットにメガネな姿は正に魔法使い! ゆるふわお姉さんな感じがとてもいいぞぉ!』


 次に魔法使い風の女が登場。緑色の髪の上にトンガリハットをかぶっており、体にはマントと正統派魔法使い的な恰好。観客たちに手を振りながら女騎士の隣に向かい、彼女と同じく王族に向かってぺこりと頭を下げた。


 その後も続々と千妃候補たちが入場。皆が皆何かしらの一芸を持ち、容姿も美しい。美人系、可愛い系、ロリ系、ワイルド系、中にはヅカ系なんて者もいる。紹介を受けた女性が出てくるたびに会場中から歓声が上がっていた。


「おおお。流石国中から集められた事はあるな。皆美人ばっかりだ」

「いいなあ。王子の野郎、一人くらい分けてくれねーかな……って痛い! 痛いってカーチャン! 冗談だって!」

「ううむ、肝心の能力が気になるな。どう見ても争いとは無縁のような子がいるが……」


 ざわざわと評価しあっている男たち。そんな男性陣の反応が気に食わないのか、一部の女は鼻じらんでいる様子。

  

『では最後の候補者! ……おお! これはすごいぞ! 恐ろしいほどの美貌を持つ女! なのに態度はものすごく控え目かつ料理上手!? 個人的にお嫁さんにしたい子ナンバーワン! レヴィア・グランだぁ!』

 

 最後に登場したレヴィア。本を片手に持つ彼女は頬を染め、緊張した様子で周囲に向かいぺこぺこと頭を下げた。

 

「おお……なんて美しい女だ」

「すごい。嫉妬する気すら起きないかも……」

「本が好きなのか? 趣味が合うな。ううむ、ぜひ語り合いたいものだ」


 前評判は上々。男のみならず女もその美貌には唸らざるを得ない。しかしその男ウケする感じが鼻につくようで、「アレ絶対性格悪いって」なんて中傷する者もいる。奇しくも本性を見抜かれていた。

 

 一方、その姿を見た仲間たちは感心している様子。

 

「すごい。レヴィアってば別人みたい」

「ホント。ちゃんとおしとやかに見えるじゃない。というか何で本まで持ってきてるの?」

「どうやらまだ文学少女を演じてるようだな……ってアレは! どうしてあの本を持っている!?」


 レヴィアが持っている分厚い本。どうやらネイのものだったようだ。それに気づいた彼女はあせあせと焦り始める。他人に知られれば「へー、あの本読んでるんだ。いい年して」と思われるのは間違いないからだ。因みにタイトルは『フォーリン♥ダーリン ~伝説の中でChu★したい~(作:ミスタータイラ)』。

 

 そしてさらに、王族専用席では。

 

「フッ。どうやら民も分かっているようだな。レヴィアこそ千妃にふさわしいと」


 観客の反応を見たロムルスがドヤ顔をしていた。既にお嫁さんにする気満々である。彼の様子とは反対に、ルシアのテンションは低い。先ほどからずっと下を向いている。


「…………」

「どうしたルシア。言葉が出ないか?」

「……いえ。ロムルス様、まだ千妃祭は始まっておりません。現時点で決まったと判断するのは早計かと」

 

 が、ロムルスがあおるような声をかけると、顔を上げて真面目な顔で返答。その答えが面白くなかったのか、ロムルスはフンと鼻を鳴らす。

 

『以上の五十名が本選へと出場する千妃候補だ! それではロムルス王子! 后になるべく奮闘する彼女らに、どうぞお言葉を!』


 そこで司会者より声をかけられた。一応、国王たるマルスもこの場にいるのだが、今回の主役はロムルスである。彼が開会を宣言する事になっていた。

 

 ロムルスは不快そうな表情をやめ、立ち上がる。そしてつかつかと前へと歩き、用意されていた拡声器の前に立った。

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