美食家マモンの幸福な食卓

しおぽてと

開店

 金属が擦れるような音。嚼音。口を動かし、喉を鳴らし、ただひたすらに口内へと放り込んでいく。すり潰し、噛み砕き、時折、頬に含めて味わって細かくしてから飲み込んでいく。目の前にある料理はどれも美しくて愛しくて、目で味わうとはまさにこのことだろう。芳醇な香りに鼻腔は刺激され、食べる手が止まらない。行儀良くマナーを守って、けれども食欲には逆らわず貪り食っていく。

 美味しい、美味しい、美味しい。がむしゃらに食べる。

 美味しい、美味しい、美味しい。食べるたびに幸せな気持ちがこみ上げてくる。

 美味しい、美味しい、美味しい。腹と同時に心が満たされていく。


「ねえ、おいしい?」

「うん、おいしい」

「よかった――……、わたしたち・・・・・を、おいしくたべてくれて」


 不意に食べる手が止まる。一体、は何を言っているのかと、問いかける。目の前にあるのはただの料理だというのに。ふと、目を凝らして眼前の料理を見る。自分が何を口にして何を食べて幸福感を抱いていたのかを、たった今、理解した。

 料理だと思っていたものは人間の手足――それだけではなく、胸や腹、その中身――かつて人だったであろうモノ・・。両手の中にあるモノ・・に視線を落とす。瞼を開き、ははにかんだ。


「さいごまで、おいしく、たべつくしてね」

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