★み、水も言も巡れと言う夢幻話 第一話
『びひん様』を
(私はこれからどこで暮らせばいいんだろう)
価値無しと判断された状態で平然と帰れるほど八重は
(無理だ、すぐには戻れない……)
本来この
八重の存在が、
八重は、新たな
誰にも
(今度は、うまくやっていこうと思っていたんだけれどな)
無言の八重を引っぱりながら、
暗い場所からの落差に、八重は目の奥がじんと
亜雷は、花耆部にも美冶部にも向かわず、ひたすら木々の間を歩いた。二
八重がぼんやりと蝶を見つめたからか、亜雷も立ち止まった。そしてすぐ歩みを再開する。
途中、道が険しくなり、女の足では進むのが困難になった。すると亜雷は金の毛並みの大きな虎に変じて八重を背に乗せ、軽々と地を
会話を楽しむ気分ではなかったが、さすがに目的地が気になり始めて、八重は口を開いた。
「どこへ向かうつもりなの?」
「向こうに泉がある」
答えになっているようでなっていない金虎の返事に、八重は
しばらく進めば、彼の言葉通り、空を映した水色の泉に
「太刀を洗う」
金虎はそう言うと、泉のほとりで八重を背から下ろし、再び人の姿に戻った。泉に架かる倒木の上をすたすたと進み、その中央あたりで……お椀の前あたりでとまり、身を
八重も少し
(バス停のベンチに座っている気分になってきた)
高校生の
初対面の男相手によくもまあ、あれだけ意味不明な
頭のおかしい女だと思われたに違いない。逆の立場なら八重は確実にそう思う。
八重の
「
八重の知る常識と違うことに
「水が
亜雷がちらっと八重に視線を投げて冷たく答えたが、そういう問題ではないと思う。
たぶん
「……いくつか聞いていい?」
気を取り直して小声で
断られる予感があったので、それが裏切られたことに八重は
「もしかしてあなたは、『びひん様』の家来かなにかだったの?」
あの
「はあ!? 俺が家来だと? ふざけるなよ」
亜雷は
(って、近い。なぜくっつくようにして座るんだ)
「俺はおまえのものになったと教えたろうが。しいて言うなら、俺はおまえに付属する存在だ」
と、当然の口調で
「あの。それ、さっきも聞いたけれど、さっぱり意味がわからない」
わからないというなら、もう最初から全部わからない。聞きたいことだらけだ。
「亜雷はいったい何者?」
その中で一番気になっている質問を八重はぶつけた。ところが、こちらは真剣に尋ねたのに、返ってきたのは「知らん」という突き放した言葉だった。
「
自分の身の上話なのに、亜雷の口調には熱がない。
堕つ神という存在は、正直なところ定義が
八重の中では「人の力では始末しきれないのでとりあえず
「……でも、亜雷は自我を保っているよね?」
八重の
「本質が大きく変形するほどにおのれの大部分が失われたが、それでも名くらいはまだ覚えている。おそらくこの神通力の強さや、忘れずにいた名からして、かつての俺は神仏の
軽く神仏と言ってくれた。
「へ、へえ……」
と、適当に流す以外、どう答えればいいのか。
「その俺を目覚めさせたのがおまえだろ。
「へえ……えっ」
なんでだ。
八重は本気で驚いた。
「おまえをずっと見守ってきたのは
「私が!?」
「おまえときたら
「それって奇祭の話?」
八重はぽかんとしてから、亜雷のほうに身を乗り出した。
「あなたはひょっとして、
「そうだよ。俺の一部だ」
なんのてらいもなくうなずかれ、八重はしばらく押し
黒葦は、八重が奇祭の使者になって以降、現れるようになった
「
「ああ」
「なら、黒葦様は、言ってみれば金虎時の『
黒葦に影はなかった。つまり「俺の一部」という言葉から、黒葦という存在は金虎から切り離された影だったのではないかと八重は考えた。
「まあ、似たようなもんだから、そう思ってもらってもかまわねえ」
と、亜雷からは、はっきりしない答えが返ってくる。
「亜雷は、というより亜雷の一部……? の黒葦様は、なぜ私の前に現れたの?」
その問いを投げた直後、亜雷の気配が
頭上に
(私を殺そうとしたことと、黒葦様の出現には
しかしその理由は聞けなかった。亜雷はすぐに殺気を引っ込めて
「……その剣も亜雷の一部?」
八重は胸に広がる
「俺を示す一部ではあるが、こっちはどちらかと言えば、所持品の意味合いのほうが強い」
意思を持つ所持品か。
「………『びひん様』も?」
「一緒にするな。あれは俺の一部でもなんでもない」
八重は胸を
「俺は……、俺という存在はたぶん、
(この世界が遠い未来か、少しズレた次元なのかは不明だけれど、亜雷や奇物については日本から流れてきたもので
彼が封じられていたのは、
ということは、亜雷は、どこかの祭神だったのではないだろうか。
(それは神格高いわ、
お持ちの武器もきっとその神社に
「もう古の意味は失われたし、それを取り
「……神話的に、関わりがあると」
ぼそっと告げる八重を、彼は「ふうん?」とわずかに感心するような目で見た。
「そのもっさい
「一言多い
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