第5話 いざ執筆! ~揺れる想い身体中感じて

 という訳でえーきちさんと蜜柑桜さんの作品公開に尻を叩かれた私。えーきちさんも蜜柑桜さんもTwitterで「書けない」「難しい」とあれだけぼやいていたのに、この完成度!「裏切者―!」と叫びましたよ。そして細部の詰めが残っているのに見切り発車で執筆を開始せざるを得ませんでした。

 ベースとなるのは第四案の修正版。通常はこの程度固めておけば後は書いていくうちに細部は調整できるはずです。


 ===第四案(修正版)===


 忍者大師範の葉太に桜子というくのいちが弟子入りしてきた。桜子の使う技は葉太のかつて姉弟子だった楓子にそっくりだった。


 葉太と楓子はかつて同じ一族の忍びで腕の立つ二人だった。忍びの一族のトップは一子相伝の妖刀を使える者だけがなれる。しかし、普段は数十年に一人しか現れない妖刀を使える忍びが同時に二人現れた。それが葉太と楓子。二人は妖刀使いの座を争って葉太が勝ち、楓子は一族と袂を別かったのだった。


 桜子はめきめきと頭角を現していく。


 ある日、偶然会った丘で桜子は葉太に告げる。

「私の母は忍の者だった。私は母の果たせなかった忍びの頂点を極めたい」

 葉太は桜子が楓子の娘であることを確信して桜子に答える。

「楓子を里から追い出したのは俺だ。憎ければ俺を倒せ」

 楓子は一族以外の男と結婚して子をもうけていた。ただし、桜子は楓子が妖刀が使える技量を持っていたことを知らない。

「妖刀を継ぐ意思と技量を持ったものが、ついに現れたか」

 葉太はひそかに桜子に妖刀を継がせる決意を固め、決戦の場へと向かった。それすなわち桜子に殺されることを覚悟していた。なぜなら妖刀の放つ幻術が完成するためには、先の妖刀使いをその幻術で倒さなければならないからだった。


 そして一騎打ち。一騎打ちの中で桜子は葉太の真意に気づく。妖刀で葉太を倒した桜子。死に際の葉太が言葉を贈る。「お前の母は素晴らしい忍者だった。これからはお前が忍びの頂きに立ち、皆を統率していくんだ」「師匠、私がしかと妖刀を受け継ぎます」


 そのまま息を引き取る葉太。桜子は、決意を新たに里の忍びを率いていくのであった……。

 ====


 うーん、なんかまだイマイチすっきりしませんが、だいたいこの線で行けますね。とにかく書いてみないと始まりません。私は、まずはレギュレーションに沿って桜子が弟子入りしてくるシーンを書き出しました。


 ところが。


 実は、私はもともと会話劇をメインに書いてた癖で会話のやり取りをざっと書いて、あとからセリフとセリフの間に情景描写を埋めていくという小説の書き方をしています。まあ、そのせいで描写がへたくそと散々指摘されたりしているのですが、とにかく私の作品は「会話が命」なんです。ところが、今回時代劇を意識して書くと、会話が走らないことこの上ない。


「拙者が見るに、あの小童こわっぱ、かなりの手練れ。五兵衛、そちはどこからかくのごとき才ある小童こわっぱ見出してきたのだ」


 これ始めて桜子を見た時に葉太が五兵衛に向けた発したセリフの最初の形なんです。一人称が拙者、二人称がそち、桜子を指す三人称が小童と来ましたよ(笑)。これじゃあまったく会話が弾みません。これは苦しい。いっそアクションシーン書いてる方がよっぽどセリフ回しに気を使わないでいい分、楽でした。そのせいでどんどんアクションシーンだけが膨らんでいくという事態を招いてしまいました。初稿では桜子は、一言もしゃべらずに掛け声だけで最初の登場シーンが終わってしまうという。


 それでもなんとか唸りながら二話分、四千字ほど書きました。ちなみにこの段階では楓子の一人称は「わらわ」でした(笑)。


 ここである友人が救いの手を差し伸べてくれました。

 突っ込みどころだらけの私の初稿を読んで「無理に時代劇口調にしなくても、どうせなんちゃってなんだから。ファンタジーとして読んでもらえるから現代口調でも大丈夫」という貴重なアドバイスをくれたのです。


 目からうろこでしたねえ。


 そうなんです。私は正統派時代劇を書く気なんてもとからあまりなかった。葉太と桜子がドラマを繰り広げる舞台を、忍者の世界に設定したかっただけなのです。きっちり調べて時代考証を整えた歴史ものにするか、歴史ファンタジーにするか。それをはっきり決めてなかったからいちいちセリフ回しとか小道具の細かいところで引っ掛かってしまっていたんです。ここは歴史ものにしないと割り切ることにしましょう。あくまで歴史ファンタジー。ファンタジーなら超絶必殺技出しても大丈夫! お、金色の龍とか出しちゃおうか。


 こうしてこの友人の一言が作品世界を決定づけました。厨二満開になったのも、必殺技の名前叫びまくったのもこの一言のおかげです。ホント助かりました。


 そうなると作品の構成も少し変わってきます。


 あくまで読者を「葉太と桜子と楓子がいる歴史忍者の世界」に引きずり込むのが一番の目標になります。ですからレギュレーション通り、「桜子と葉太との出会いシーン」→「葉太が楓子を回想するシーン」の順に書いていたのを、「葉太と楓子の決闘のシーン」→「桜子と葉太の出会いのシーン」→「再度葉太と楓子の過去シーン」に組み替えました。

 序盤のヤマ場を頭に持ってきて、一気に忍者同士の決闘のシーンで衝撃を受けてもらおうという作戦ですね。ひと昔前のJ-popで歌い出しいきなりサビという曲がたくさんありましたが、それと同じ発想です。


 そして友人の言葉ではっきりしたことがもう一点。

 基本的な構想として「歴史忍者の世界でベタな葉桜を展開する」ということです。もう葉太と桜子が忍者というだけでインパクトは十分です。ですからそれ以外はあまりひねらないストーリーでいいと、割り切ることにしました。

 楓子(=昔の恋人)は桜子の母親、だから似ている。ありきたりですけど、ここはひねらないで素直に進めればいいのです。葉太は桜子の仕草を見て楓子の娘ではないか、と気づき、桜子も特に隠さずに母親は忍者だったと葉太に告げる。そこにドラマを設ける必要はありません。なぜならそれだけで桜子と葉太が殺し合う動機になる忍者の世界の話なのですから。


 昔の恋人と桜子が似ていることや、桜子が葉太に相談を持ちかけることにドラマ性を求めない葉桜にしよう。これが自分の中で目標となりました。


 執筆の方向性がやっと固まりました。


 ここまでの考えを整理すると、書き手として私が注意するのは一つだけです。読んでくださる人が違和感なく忍者の世界に没入できるようにすること。これに尽きます。文法的に正しくなくても、歴史考証が多少おかしくても、忍者の世界に浸ってもらえれば勝ち。


 私の筆はやっと走り出しました。そして五千字書いたところで待ちきれなくなって第一話を先行公開しました。


 さっそく読んでくださった親しい読者の方から「ぶほぉ!」という感想。

 よし、これは行ける。

 私は確信しました。あとは書き切るだけです。


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