第3話 作品ディテールの構築~その1 マジで禿げる5秒前(MH5)


 さて、今回の私の葉桜「歴史忍者世界の中で葉太と桜子と第三の登場人物が繰り広げる話」と自分の中で決定しました。

 この時点で葉太と桜子は忍者の師弟、レギュレーションの中の「桜子が葉太に自身の悩みを相談する。そしてその後、葉太が桜子に言葉を贈る」、これは「葉太と桜子がガチで闘って、葉太が拳で思いを伝える」と変換することにしていました。つまり葉太は桜子に倒されることによって何かを桜子に伝えて死んでいく、という感じですね。


 この段階で決めたのは次の三つです。

  クライマックスは葉太と桜子の一対一の対決。

  最後大技が決まって桜子が葉太を倒す。

  葉太は桜子に言葉を贈って死んでいく。

 

 シリアス劇画調な雰囲気、バトルシーンが見せ場になるアクション系の葉桜。これはいいじゃないですか! 絶対面白くできる! しかも他の作者さんとまずかぶらない。


 このあたりの構想を考えるのはとても楽しかったです。これが、レギュレーションを外さないように自分の作品世界の中に落とし込んでいく、という作業、つまり作品世界の構築です。

 私の場合は独特すぎて、むしろ自分の作品世界(=歴史忍者の世界)の中でどう登場人物を動かせばレギュレーションを外さないか、を考えるのが主眼になりましたのですけどね。この作業はストレートに学園恋愛系の葉桜を書く場合でも必要だったのではないかと思います。

 4月10日にゆあんさんが自主企画を立ち上げられて、ここまではすぐ決まりました。おそらく2日程度でここまでは来ていたと思います。


 大変だったのはここからでした。


 次は作品世界のディテールを決めていきます。本来プロットを作る作業と言えばこれのことを言うのだと思います。


 まず、葉太と桜子は師弟関係です。これはレギュレーションの指定なので絶対に外せません。前提条件として考えます。

 そして、最後葉太と桜子が一対一で対決して桜子が勝ち、死に際に葉太が桜子に言葉を贈る、ここを最大の見せ場にしましょう。

 しかし、師弟関係の者同士が対決してしかも、師匠を殺してしまう状況? …… はて。そんなことどうやったら起こりうるのでしょう。


 最初に考えたのはシンプルに親の仇でした。


===第一案===

 桜子と第三の登場人物とは親子。葉太と第三の登場人物は敵対する忍び同士。葉太は第三の登場人物を殺してしまった。復讐のために葉太に弟子入りした桜子は、機会を見て葉太を殺そうとしていた。

 そして一騎打ち。桜子によって倒された葉太は言葉を贈る。

 仇を果たした桜子。「母上、わたくしめはにくき仇を討ち申しました。これで桜子も本懐にございます ……」と言って桜子が崖から身を投げたのであった。

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 うーん、どうもしっくりきません。というか、もはやレギュレーションから外れすぎです。

 この場合、桜子は事前に葉太が殺人の目標であることを知っていなければなりませんし、葉太は逆に桜子が復讐目的で弟子入りして来たのを知っていてはおかしいです。そもそも大人しく桜子に殺されてしまう状況になりませんし、無理やり桜子に勝たせても、その状況で葉太が言葉を贈るのは不自然極まりないです。最後のシーン、どうしてこうなる(笑)。

 …… これはダメですね。桜子も自分で死んでどうするんですか。ボツだ、ボツ。この線は2日間考えて放棄しました。


 第三の登場人物と書くのはいちいち面倒だから名前付けておきますか。くのいち忍者の名前と言えばカエデと相場が決まっています(固定観念甚だしい)。仮に楓子としておきましょう。すげーいい加減ですが、構想中はこんなもんです。ちなみに今回は仮名をそのまま本編に採用しています。


 第一案が上手く行かないのは、楓子と葉太が敵対する忍び同士だからです。同じ一族の忍びならどうでしょう。


===第ニ案===

 葉太と楓子は同じ一族の忍び同士。互いに切磋琢磨する仲だった。二人はいつしか恋仲に。しかしある時、楓子は襲ってきた敵の忍びとの闘いの中で葉太をかばって死んでしまった。

 時は流れて大師範となった葉太に弟子入りする桜子。実は桜子は楓子の娘で、葉太が楓子を見殺しにしたと思っている。

 最後の一騎打ちで葉太を倒した桜子。死に際の葉太が言葉を贈る。「お前の母は素晴らしい忍者だった。これからはお前が忍びの頂きにたって皆を統率していくんだ」「あなたが、私の父上だったのですね……、父上!」

 ずっと会いたかった父を自らの手で殺めた桜子は、決意を新たに里の忍びを率いていくのであった……。

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 うん。これはいいかも …… 、なわけあるかあああ!(怒)

 この第二案、あまりにダメすぎてゲロ吐きそうになりました。

 桜子が楓子と葉太の娘だったら、最初桜子を見た時点で見当つかないとおかしいです。何より、楓子が死んでから葉太に弟子入りするまで桜子どうやって暮らしてたんだよ、というのがごまかしきれない謎。桜子が父の存在を殺してしまうまで認識していないというのもおかしすぎます。


 ただ、この構成、このままではまるでダメですけど、いい線突いているところが三点あります。一つ。楓子が葉太をかばって本意ではなく葉太の元を離れたこと。二つ、桜子は楓子の娘だけど、楓子が葉太をかばったことを知らないこと。三つ、最後、桜子は葉太の言葉で決意を新たにして忍びを率いることになること。


 この三点を生かして考え直してみよう、と思いました。


 まず、楓子と葉太が夫婦だった、とするのがすべてにおいて上手く行かない元凶のようです。葉太が桜子を自分の娘だと最初から認識していてはダメなんですよね。葉太と桜子はお互い初対面の認識にしておく方がいい。ただし、葉太と楓子は良く知った間柄、これはレギュレーションの指定です。色恋沙汰以外でお互い深く知る間柄、ここは安直ですが姉弟にしておきましょう。

 となると楓子と葉太がなにかしらの理由で別れてからできたのが桜子となります。そうすると時系列的に葉太が父親ではありえませんので、桜子の父親が別に必要になりますが、姉弟であればここは自然に処理できそうです。


 こうして考えたのが第三案です。 


===第三案===

 葉太と楓子は同じ一族の忍びの姉弟。互いに切磋琢磨する仲だった。ある時、楓子はある理由で葉太をかばい、それが原因で一族と袂を別かった。

 楓子は一族以外の男と結婚して子をもうける。それが桜子。

 時は流れて大師範となった葉太に弟子入りする桜子。桜子は楓子が元忍者だったことを知っている。自分の師匠となった葉太を親の敵と思っていた。

 そして一騎打ちで葉太を倒した桜子。死に際の葉太が言葉を贈る。「お前の母は素晴らしい忍者だった。これからはお前が忍びの頂きに立ち、皆を統率していくんだ」「それが母上が一族を離れた理由なら、師匠を殺してまで忍びに頂に立ちたくありません!」

 そのまま息を引き取る葉太。桜子は、苦悩しつつも決意を新たに里の忍びを率いていくのであった……。

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 …… なんじゃこりゃ(呆)。もはや失笑を禁じ得ませんよね。でも先のに比べると、まだまだ突っ込みどころだらけですが、だいぶマシになってきています。

 楓子が葉太をかばって袂を別かつことになった状況をしっかりさせなければいけません。うむむむむ。


 ここまでで企画が始まって一週間ほどでした。ここにきて私は焦り出しました。もうすでに水木レナさんや@himagariさんと言った速筆派の方々が作品を公開しておられましたし、薮坂さん、奈月沙耶さん、Han Luさん、野々ちえさん、無月弟さんと言った普段お付き合いのある作家さんが続々と完成度の高い作品を公開されています。


 この時期、ちょうど自宅勤務が始まり、時間がたくさんありましたが、まだ本文は一文字も書けていません。机上には桜子、楓子、葉太の名前を三角形に書いた手書きのメモ。それを前に日がな一日唸る毎日でした。く、苦しい、苦しすぎる。禿げそう。このままではコロナはげ、というよりむしろ葉桜はげになってしまいます。


 まだまだ私の苦悩は続きます。次回はあらすじ決定。見切り発車で執筆開始します。


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