寂しがり魔王と宵闇の暗黒騎士―勇者は却ってどうぞ―

倉野海

序章.宵闇の暗黒騎士、誕生

魔王様は寂しがり


「テルティナ様、また勇者が現れました。如何いかがなさいますか?」

「(またなの……)早急に始末せよと伝えて」

「畏まりました」


 メイド姿の褐色肌の長身の黒髪ロングの女性は影も残さず去っていった。


 この世界は数多の種族が混在する魔法の世界。

 魔法には覚えれば誰でも使えるようなモノもあれば、先程のメイドが使用した転移魔法のような習得することが難しいモノまで、様々な魔法が存在する。



 ――そんな世界には勇者と呼ばれる者たちがいた。



 その者たちは異世界より来た者であり、その過程で強力な能力を備えていた。そんな勇者は皆揃って、“魔王”と呼ばれる者を討伐することを目的としていた。どうしたらこんなにも皆同じ目的を持っているのかと些か不思議に思うが、そこは掴めていない。



 そして、その“魔王”と呼ばれる者こそこの私、魔王城の玉座に君臨せし者、テルティナである。どんな種族でも珍しい長く白い髪、深紅に染まった眼、そして頭に生えた先が鋭利な白い角、所々鱗に覆われた白い翼、これらが魔王の血を受け継ぐ者の証である。


 部下たちに恵まれ、基本的に勇者は転生した街付近で即座に殺してもらうことにより平穏を得ていた。

 しかし、私は魔王という立場上誰とも親しげに話せず、幹部やメイドたちに命令することしか出来ずにいる。外に出ることは制限され、護衛が無ければロクに街を歩くことも許されない。



 そんな私の普段はメイドたちに料理を教えてもらったり、ゲームの相手をしてもらったり、今のように自分が作ったお菓子を一人で食していたりと、一見不自由のないように見える生活を送っていた。


 その代わり、お父様の様に直接勇者と戦うことも出来なければ、お母様の様に民の下へと赴くことも出来ない。自分が食べている物や着ている服などは全て民からの恵み、その感謝の意を直接伝えたいと常に思っていても、口伝えや文通でしか伝えられない。


 そんな複雑な思いを抱いたまま食べたワッフルは、サクサクした食感で、噛む度に仄かな甘さを醸し出していて我ながら美味しく出来たと思う。けれど、それを語り合う相手はいない。


「……やっぱり皆、私のこと上目遣いしてばっかり。私はもっと皆と笑って過ごしたいのに……」


 勿論信頼されるのは嬉しいし、魔王として努めなければならないことも、自分が多くの者に狙わらていることも分かっている。



 ――でも、私の心はずっと、穴が空いたままだった。



「(……ハァ、勇者なんてもう来なくていいのに。そんなのより私の立場など気にもせず、純粋な笑顔で接してくれる者が目の前に現れてくれないかなぁ〜)」


 ふと、呆然と佇んでいる中でそんな願望を抱いたときに、突如として青紫色に光る魔法陣らしき物が現れた。



 このときはまだ、夢物語のような未来あしたが来るなんて想像もしなかった。

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